自立と自律


  作品名:障害者イズム〜このままじゃ終われない
  監督:山田和也
  2003年作品






「障害者イズム〜このままじゃ終われない」は、脳性マヒの障碍を持つ日原一郎さんが着替えるシーン から始まります。
ジャージーのズボンを脱いで、外出用のズボンに履き替えるのですが、そう簡単にはできません。棒状の道 具を口にくわえて、少しずつ少しずつズボンをずり下げ、今度はずり上げていきます。見ている私も思わず 力が入ってしまいました。

最後の最後、車椅子で外出する時、お母さんがチャチャと髪をブラシで整えてくれて、帽子を「どれにする の?」と聞き、日原さんが選んだ帽子をヒョイとのせると、「はい、いってらっしゃい!」と送り出してく れます。
日原さんには、髪を梳かすことも帽子をかぶることも、どんなに努力しても難しいことなのでしょう。 そのシーンを見ながら、私は「自立」と「自律」というメールを思い出していました。

言語聴覚士の遠藤尚志先生が送ってくださったメールです。(以下転載します)

「自立」というのは、「自分のことは何でも自分でする」という意味です。
これに対して、「自律」というのは「できることは自分でする」「できない ことは適切な人にやってもらう」「自分でするか、他の人に頼むかは 自分で判断する」ということを含む考え方です。

リハビリの目的が「自立」である場合(これを「自立モデル」と呼びます)、 具体的な目標は「健常者の能力に可能な限り近づくこと」となります。 最終ゴールは障害をもつ者の外部にあって、そこにどこまで近づけたかに よってリハビリの効果がはかられるわけです。

これに対して、「自律」を目的としたリハビリ(「自律モデル」)では、 「障害に対処する」ということが目標となります。最終ゴールは障害 をもつ者の内面の状態にあるので、リハビリの効果は客観的尺度 だけではかることはできません。(もちろん、効果判定は可能です)

自律モデルでは障害をもつ人は決定や裁量の主人公であり、与え られる保護は恩恵ではなく、共同体の一員としての当然の権利です。


6年程前に衛星放送のテレビ番組として製作された「車イスの戦争」は、車椅子をビュンビュン飛ばし、 すごい迫力で走り回る姿に圧倒された作品でした。
最後に「一人暮らしにチャレンジしたい」と、公園で小池公男さんが日原さんに相談するシーンで終わり、 この先どうなるのだろう・・・と、とても気になりました。その思いは製作スタッフの皆さんも同じだった らしく、その後も延々と撮影が続けられ、完成した作品が「障害者イズム」です。

脳性マヒの日原一郎さん、小池公男さん、中込恵美さんは、自由な時間がほしい、好きなことをしたいと自 立生活を切望します。
「障害者イズム」は、紆余曲折はあるけれど一人暮らしに漕ぎつくことができる中込さん中心に、構成され ています。実家の1階で暮らす日原さんには、あまり触れていません。家族と同じ屋根の下に暮し、自立生 活の支援者になろうと考え、行動する日原さんの生き方・考え方に、私はとても興味を持ちました。
製作スタッフの皆さんにとっては、“自立=一人暮らし”だったのだろうかという疑問が浮かんできます。

久しぶりに再会した3人が、おせんべいを食べるシーンがあります。袋の上からパンと叩いて小さくしたお せんべいを、日原さんは体も手も精一杯伸ばして、小池さんの口に入れようとします。小池さんは必死で大 きな口をあけるのですが、なかなか入りません。何度も何度もこぼれ落ちるおせんべい。やっと食べること がきた小池さんの笑顔! 日原さんも、中込さんも、笑顔で、とてもステキなシーンでした。

自分には何ができ、何ができないのかを判断し、できないことを一番適切な人に頼んで助けてもらう・・・。 誰にとっても自立は難しいことだけれど、障碍を持つ子供(大人)とその親の自立(親離れ・子離れ)は、 本当に難しいと思います。冒頭の日原さんとお母様のシーンが浮かんできます。
「自立」と「自律」について、深く考えさせられる作品です。


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