この映画に出会うまで、私は「土徳」という言葉を知りませんでした。タイトルを聞いていたの
で読めたものの、文字だけを先に見せられたら「なんて読むんだろう・・・」と、戸惑ったことでし
ょう。
青原さとしさんは、お寺さんの次男坊。お寺さんの息子は、お坊さんになるのが当たり前。そんな雰
囲気の中で育ってきました。龍谷大学に進学し、法名もお持ちです。
でも、お寺を継ぐことがいやで上京し、映像の世界に飛び込みました。「土徳」は、青原さとしさん
の初めての劇場公開作品です。
私・父・家=お寺・家族・歴史・・・と書いてきたら、なんだかとても堅苦しい作品のように思えま
すが、自然にすーと入り込むことができる作品です。
ここ数年、デジタルビデオカメラで撮りパソコンで編集する方法が浸透してきて、映像を通して、自
分探しをすることが容易になりました。そして、多くの私的作品が生まれ、注目を集めています。
それらの作品は、自分! 自分! と、自分を捜し求め、なぜ? なぜ? どうして・・・と追い詰
め、狭い道を分け入っていくような息苦しさを覚えるものが多かったように思います。
本人にとって、それは避けられないもの、避けてはならないも、そして、そこを潜り抜けなければ、
何も始まらないのだと思うのですが、付き合わされるのは、ちょっと辟易という感じが否めませんで
した。
「土徳」も、私的なドキュメンタリーなのですが、青原さんが、丁寧に丁寧に自分自身が納得いくま
で取材し、考え、感じ、また取材するということを重ねておられるので、それに同行するように、作
品を見ることができました。
お寺さんが地域の中で担ってきた役割というものも浮き彫りになり、懐かしい感じさえしました。入
り切れなかったたくさんのインタビューや映像があることも感じられ、とても厚みのある作品だと思
いました。
試写会の後、なんとなく歩き始めたら、すぐ前をカメラマンの堀田泰寛さんが歩いておられ、思わず
私は、「こういう映画は大抵先細りというか、閉じた感じがするのに、どんどん広がって、つながっ
ていく感じがして、面白かった」と、声を掛けました。
堀田さんは、目を細めてニコニコとされておられました。
良い映画を見た後は、なぜか喋りたくなる・・・。何か言いたいし、他の人の感想も聞きたくなりま
す。そのまま昼食も兼ねて入った中華屋さんで、延々とお喋りが続きました。
青原さんが、何度も何度も問いかけた後、父が答える「土徳(土地のお育て)」という言葉の重み。
「土徳」という作品を生み出したことで、青原さん自身の「土徳」が始まったようにも感じました。
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