蘇る懐かしい記憶


  作品名:天空の草原のナンサ
  監督:ビャンバスレン・ダバー
  2005年作品
  ドイツ






子供の頃、窪地などに寝転がって、よく空を眺めていました。ほわほわとした綿飴のような白い雲がぽっ かりと浮かんでいたり、ホウキで掃いたような筋状の雲が浮かんでいたり、少しずつ形を変えていく雲を飽き ずに眺めているうちに、時の経つのを忘れてしまって、慌てて帰って、大切なカーディガンをなくしてしまっ たこともあります。







「天空の草原のナンサ」の主人公ナンサも、妹と二人、草原に寝転んで「(雲が)竜に見える!」「ぞう に見える!」と、笑いながら、ふざけながら、空を眺めます。妹が「キリンに見える」と言う雲は、どう見て もキリンには見えません。

「お母さん、(妹の)前世はキリンだと思うよ」と、ナンサは真顔で言います。
それには答えないお母さんに、「前世の記憶はある?」と、ナンサに訊きます。
「覚えているのは、赤ちゃんの時だけなんだよ」と、お母さんは答えます。
ゲルの周りには何もないけれど、たくさんのものがあります。広い広い草原、空、雲、山、湧き水、家畜、風、 光、突然の雨、チーズの匂い、肉を燻す煙・・・。







次第に都市化してゆくモンゴルの草原で、昔ながらの暮らしを続けるナンサの家族。若い父と母、そして 幼い妹と弟。長女のナンサは6歳。町に住む親戚に預かってもらって、そこから小学校へ通っています。そし て、久しぶりに草原に住む家族のところに帰ってきました。

町からナンサが帰ってきたので、父は羊の毛皮を売りに町に出かけます。遠くの町に出かけて行く夫の無事を 祈り、天空にお酒を捧げる妻。口数は少ないけれど、深い信頼と愛情で家族は結ばれています。
父の代わりに、一人、馬に乗って、羊たちを草原に連れ出すナンサ。洞窟で見つけた犬ツォーホルも一緒に出 かけます。町から帰るまでに、犬を捨てておきなさいと父から言われたけれど、ナンサにはそんなことはでき ない。もう、すっかりツォーホルとは友達なのです。






そのツォーホルとはぐれてしまい、捜しているうちに日が暮れ始めてしまいます。急に天候が悪くなり、 目印の山を見失ってしまうナンサ。心細く不安になるナンサの耳に、遠くから歌声が聞こえてきます。

その歌声を頼りに馬を走らせて行くと、おばあさんが笑顔で出迎えてくれました。おばあさんは、びしょ濡れ になったナンサを優しくゲルに迎え入れて、「黄色い犬の伝説」を話してくれました。犬は来世で人間に生ま れ変わりやすいとモンゴルでは信じられているようです。

ナンサは「死んでも、人間に生まれ変わりたい」と言います。そして、おばあさんに「どのくらいの人が、人 間に生まれ変われるの?」と聞きます。
爪楊枝のように尖った枝を1本手に持って、そこに向かって米粒のようなものをを落としながら、「この上に、 粒が乗ったら教えてあげるよ」と言います。粒は、ぱらぱらと落ちるばかり。
「さぁ、やってごらん」
ナンサがまねをしてやってみるけれど、粒はサラサラと落ちるばかり・・・。
おばあさんは、笑顔で「それくらい、人に生まれるということは、恵まれたことなんだよ」と、教えてくれま す。

台詞のある登場人物は、ナンサの家族とおばあさん。近くで狼の猟をする二人の男の8人だけ。それでも、モ ンゴルの草原の暮らしが丁寧に描かれていて、たくさんの自然の恵みと深い思慮と家族の信頼、そして、知恵 と工夫に溢れた生活が写し出されていました。
子供の頃、不思議だったこと、楽しかったこと、夢中になったこと、怖かったこと・・・。ひとつ、ひとつの エピソードに絡まって、たくさんの懐かしい思い出が鮮やかに蘇ってくるステキな映画でした。


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