人は記憶の中で生き続ける


  作品名:ヨコハマメリー
  監督・構成:中村高寛
  2005年作品・カラー・スタンダード・1時間32分
  日本
  2006.05.10.テアトル新宿






なんともいえない存在感の写真が、新聞の中から浮かび上がってきました。ハマのメ リーさん。真っ白に厚化粧をして、白いドレスを身にまとった「ハマのメリーさん」は、 横浜ではとても有名な人だったようです。

横浜育ちの中村高寛監督は、中学生の頃、メリーさんを見かけたことがあるそうです。と ても近づけるような雰囲気ではなかったメリーさん。その時の強烈な印象が、この作品へ とつながっていきました。近寄りがたい独特の雰囲気を持っていたメリーさんと親しくし ていた人々に、大人になってから出会ったのです。

面白かった! インタビューを通して、どんどん、メリーさんの輪郭がはっきりしてきて、 生き生きとしてきて、そして、メリーさんを語る人、それぞれの人柄や当時の背景も浮か び上がってきて、インタビューの力をたっぷりと感じました。そして、そのインタビュー に彩りを与えるようにインサートされる写真が、とてもステキでした。

親交の深かったシャンソン歌手・永登元次郎さんは、己の人生とメリーさんの人生が重な るように感じて、いろいろと親身になって関わってきました。
最初の出会いは、コンサートの当日にポスターに見入っているメリーさんを見かけて、「 是非、いらしてください」と、チケットを渡したこと。その日、メリーさんは、花束を持 ってコンサート会場に足を運んでくれたのです。当時、メリーさんが来ると大入りになる というジンクスがあって、劇場関係者は舞台の袖から客席にメリーさんが居ないか捜した そうです。ですから、元次郎さんは嬉しく嬉しくてならなかったようです。

毎日ように通っていたデパートのベテラン店員さんが、独特の丁寧な口調で、「お化粧室 で・・・整えられて・・・」と語ると、メリーさんがお化粧室に向かって歩いていく姿が 浮かんできました。
薬局のガラスケースの中に並べられた外国製の高級化粧品を「じ〜っと、長い時間、眺め ていました」と語られると、美しいガラスの香水瓶を愛でるように眺めているメリーさん の横顔が浮かんできました。
お馴染みの喫茶店では、他のお客様への配慮からメリーさん専用のカップを用意するよう になっていたそうですが、そんなことは気にも掛けず「私のカップで、コーヒーを!」と、 注文したそうです。背筋を伸ばして、コーヒーを注文するメリーさんの声が聞こえてくる ようでした。
クローゼット代わりにドレスを預かっていたというクリーニング屋さんでは、「預からな い訳にはいかなったのよ」と言わんばかりに、ご夫妻が微笑みます。
お馴染みの美容院では、ある日、自分のことをほとんど語ることのないメリーさんが、ひ どくがっかりして「指輪をなくしてしまったの」と話したそうです。若かりし頃のメリー さんが心を結んだ将校さんからのプレゼントだった指輪。メリーさんは、その人を横浜で 待ち続けていたのかもしれません。
今は駐車場になってしまった、いつもメリーさんが立っていたお店の中の様子を、当時を 知る人が思い出しながら図に描くシーンでは、店内のざわめきが聞こえてくるようでした。
「メリーさんに声を掛けられるということは、男性として名誉なことだった」とか、「私 たちは、きんきらさんと呼んでいた」という話等など・・・。

みずみずしいインタビューばかりなのだから、思い切ってインタビューだけにすればよか ったのに・・・。五代路子さんのメリーさんの一人芝居も、メリーさんが入所している老 人施設を尋ねて、元次郎さんが歌うシーンもないほうが良かったのに・・・。そのほうが、 見た人の中で思い思いにメリーさんが膨らんで、豊かになったと思いました。

本編の後で見た予告編では、元次郎さんが、ハマから消えたメリーさんに、もう一度会い たい! メリーさんの前で歌いたい! というふうになっていました。そうか、そういう 風に、監督は作ろうとしていたのか・・・。
白塗りを取ったメリーさんは、美しくて、上品で、ステキなおばあさんでした。でも、ハ マのメリーさんは、突然、消えたまま、人々の記憶の中で生き続けるほうがよかったよう な気がします。


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