時間も空間も飛び越えて


  作品名:せんせいは ほほ〜っと宙を舞った −宮澤賢治の教え子たち−
  構成:四宮鉄男
  1990年作品


       

中学生の時に頂いた本
カバーはボロボロになっていたのですが、中はきれいでした。
ページを開くと、本の隅は茶色く変色していました。



私が初めて宮澤賢治の本を読んだのは、中学2年生の時でした。
教育実習に来られた先生から、「注文の多い料理店」の文庫本を頂いたのがきっかけです。 丁寧にカバーが掛けられていて、その背表紙には万年筆でタイトルが書かれていました。 その本は、今でも本箱の隅にそっと置いてあります。

宮澤賢治は、4年4ヶ月の間、花巻農学校(現在の県立花巻農業高等学校)で教鞭を取 っていました。小学校教諭の鳥山敏子さんが、当時の教え子たちに「宮澤先生は、どん な先生だったの? どんな授業をしたの?」と、訪ね歩く様子を記録した作品が「せん せんは ほほ〜っと宙を舞った 宮澤賢治の教え子たち」です。

教え子の方々は、皆さんすでに80歳を越えておられるのですが、とても元気な方が多く、 颯爽とバイクで現われたり、スケートを楽しむ姿を披露してくれたり、現役で養鶏の仕事 をしたり、園児たちと楽しそうに遊んでいたりと、その姿にこちらも元気になり、笑顔に なってしまいました。
そして、70年くらい前の“みやざわ先生”のことを、とても鮮やかに覚えていて、生き 生きと語られるので、思わず当時の少年たちの暮らしに引き込まれてしまいました。

「バナナン大将」を歌う長坂さんの顔の向こうには、少年時代のいたずらっ子そうな長坂 さんの顔が浮かんできました。

北上川にボートを浮かべ、赤い林檎を何度も何度も水に落として、その美しさに感動して いた“みやざわ先生”の姿を、照井さんが語るシーンでは、その水に濡れて光り輝く林檎 の“赤”が浮かんできました。

瀬川さんは、いまだに“みやざわ先生”の教えを学び続けています。ノートを広げて説明し てくれるシーンがあるのですが、ノートをのぞきながら、いつの間にか教え子のようになっ てしまった私。ウンウンと頷いたり、ヘェーと感心したり、それはそれはワクワクする経験 でした。

「その時のみやざわ先生は、いつものチャメ先生ではなくて、近寄りがたい“何か”を感 じました…。それをなんという言葉で表現したらいいのか分からなくて、辞書を必死でめ くりました。そして、見つけた言葉が“畏敬”という言葉でした」
辞書をめくる時のもどかしさ。そして、これだ!と、言葉に出会い、言葉を獲得する時の 興奮。学ぶということは、こういうことなのだろうなと思いました。

長坂さんの身体の中にも、照井さんの身体の中にも、瀬川さんの身体の中にも、“みや ざわ先生”は生きている。
そして、教え子の皆さんが“みやざわ先生”のことを語る時、時間も空間も自由に飛び越え て、“みやざわ先生”に出会っている。そして、それらの映像を通して、私たちも“みやざ わ先生”に出会うことができる…。
映像の力のすごさ、不思議さ、魅力をしみじみと感じた作品でした。

* 本文中、みやざわ先生という表記をしました。
   教え子の方々の発音が優しく、やわらかかったためです。


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膨大な量の教え子の方々のインタビューが撮影されました。
それらをまとめた作品(全10巻)が完成しています!


その1
「種山が原」
根子吉盛さんが語る夏の種山が原の原風景と、宮澤先生の山 行きと、そして、夢幻劇『種山が原』の再現。

その2
「アメニモマケズ」
賢治の肥料設計の実際と岩手県東山町の石灰山で土地改良のため献身して いた時代のエピソード。

その3
「心象スケッチ」
見えない心象風景をスケッチブックに書き留める賢治を不思議そうに眺め ていた教え子たちの目撃談。

その4
「イギリス海岸」
花巻城址の夜桜見物や水争いの現場など、宮澤先生にどこにでも連れて いってもらった教え子たち。

その5
「精神歌」
精神歌の真の心を60歳を過ぎてから学び直した瀬川哲男さんの探究 心が、「農民芸術概論」の真髄に迫る。

その6
「稲作挿話」
農村恐慌の中で軍部のダム湖建設のために農業を諦めた朝倉六朗さんと、 賢治の教えをもとに鶏とリンゴの独自の農業経営を切り開いた佐藤栄作さん。

その7
「クラムボン」
夜中に梟の鳴き声を探し、川面にリンゴを落としては光りの美しさを楽 しむ賢治を語る照井謹二郎さん。

その8
「バナナン大将」
宮澤先生と一緒に演じた「バナナン大将」の精神を一生の人生訓とした 喜劇の天才長坂俊雄さん。

別卷1「長坂俊雄の艶話し」  別卷2「長坂俊雄の昔話し」もあります。
関心のある方は
「東京賢治の学校」 TEL 042−523−7112
までお問い合わせください。


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