若者たちのもうひとつの学校
作品名:えんとこ
監督:伊勢慎一
2002年作品
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「えんとこ」のタイトルは、“縁あるところ” “遠藤滋のいるところ” から誕生し
ました。
全介助の遠藤滋さんと彼を介助する若者たちの日々を、3年間にわたって記録したドキュメ
ンタリー作品です。
50歳になる遠藤さんの若々しい笑顔と、日頃妙に顔が似ているように感じられる青年たち
一人ひとりが、くっきりとした輪郭を持って見えてくるのも魅力の作品です。
遠藤滋さんと伊勢真一監督は学生時代からの友人で、既にその時に障碍を持っておられた
そうですが、その後徐々に進行し、食事から排泄まで介助なしでは暮らすことができな
くなりました。
伊勢監督作品「奈緒ちゃん」の上映会を通して久々の再会をし、伊勢監督は障碍が進行し
ていることに驚き、それでも相変わらず前向きで元気な遠藤さんに感激したそうです。
彼を撮りたい! 撮って作品として世の中に生み出すことで、友人にエールを送りたい!
伊勢さんのあたたかい思いが感じられる作品でした。
寝たきりの遠藤さんの体位を変えて、背中のマッサージや足の運動をする青年がいます。
タトゥをした長髪のその青年は、仲間たちとのライブでは叫ぶように歌うロッカーなので
すが、静かに丁寧に遠藤さんに接しています。
「僕にもできるんだから、誰にでもできますよ」
遠藤さんは、彼らに時給600円を支払っています。今時のバイト代としては安いけれど、
無償ボランティアではなく報酬を支払っているのです。
それでも、24時間介助の必要な遠藤さんにとって、介助者の募集とシフトを組むのは大
変な作業です。突然、未経験者がやってくることもあるようです。
「こうして」「つぎはこうして…」と、遠藤さんが根気良く指示を与え続けなくてはなら
ない時もあります。次の担当者が時間になっても来ないなんてこともあるようです。
暮れもお正月も遠藤さんの介助は続きます。女子高生もいれば、中国からの留学生もい
ます。ベテランとなった介助者もいますが、就職や結婚などでやめる人もいて、いつも
介助者不足に悩んでいます。
交代の時の短い会話と申し送りノートが、彼らをつないでいます。でも、一番彼らをつな
いでいるのは、遠藤さんなのだと思いました。
申し送りノートが山になっています。ノートには、介助のことも書かれていますが、自分
の思いや悩みを書く若者もいます。
遠藤さんの心がきっちり自立しているので、若者
たちは、「不自由って何だろう?」「幸せって何だろう?」「生きるってなんだろう?」
と、自らと会話し、自らと向き合い、介助者同士のつながりも生まれていきます。
「えんとこ」が、若者たちにとって“もうひとつの学校”になっているんだなぁ…と思い
ました。
1999年11月「メイシネマ上映会」で、再び「えんとこ」を観ました。
やっぱり、ロッカーのリョウ君が一番印象に残りました。キャンプ(野宿)生活をして
いるリョウ君の様子を知りたいと遠藤さんが言うので、遠藤さんに代わって撮影隊が多
摩川のほとりまで出かけて行きました。
背の高い草を分け入っていくと、川原にテントが一張り、ポツンとあります。一人ぼっち
の彼のパートナーは一匹の猫。オシャレな首輪を付けてもらって、のんびりと目を細めて
います。
「寒い時は一緒に(猫と)寝るし、お腹がすいても寝てしまう…」
遠藤さんの背中を丁寧にマッサージした指が、川の水と戯れます。何かを考えている手。
何かを掴もうとしている手。その指の繊細な動きに、思わず見とれてしまいました。
初めて見た時にも、とても印象に残ったのですが、改めて遠藤さんのお母さんの障碍を持
つ息子さんとの距離の保ち方にも心打たれました。
食事サービスのない時、近所に住むお母さんは、食事を届けにやってきます。タッパか
ら小鉢などに移し替え、きれいにお盆に並べると「お願いします」と、介助者に渡され
て帰ってしまわれるのです。
玄関での丁寧なお辞儀が印象に残ります。このお辞儀は、撮影隊の皆さん(息子の友人たち)
に向けたられたものでもあると思うのですが、介助者の方に「私は帰りますので、宜しく
お願いします」と、きっぱりと言っているようにみえました。
別の日、遠藤さんが食事サービスのメニューをひとつひとつ鏡で見て、何?と説明を求め
るシーンがあります。若者が上手く説明できないところもおかしいのですが、空腹を満
たすだけの食事ではなく、生活を楽しむというのでしょうか、そういう豊かな心を、お
母さんから受け継がれたのかなぁ…と思いました。
障碍があっても自立した生活はできる! それどころか、若者たちは遠藤さんに励まさ
れているのです。「自分らしく生きてみてごらん!」と。
とても気持ちの良い映画でした。
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