「失語症ライブ」へようこそ!
「失語症ライブ」ってどんなことをするの?
そんなご質問にお答えしたくて、「埼玉県失語症者のつどい」で行われた遠藤尚志先生の「失語症ライブ」を
ご紹介します!
1.まずは 「失語症の方」 と 「会話パートナーの方」 がペアになります
失語症の方のお隣に座ってくださった「会話パートナー」の役割ですが、これは「かゆい所に手が
届くようなお世話」という言い回しの通りだと思います。
かゆい所をかいてもらう時のことを考えてみますと、「ここですか」「いやいや」「じゃ、ここかな」
「あー、もうちょっと、もうちょっと」というようなやりとりがあって、最後に「そうそう、そこ!
そこ!」ということになります。
失語症の方との会話においても、このような「そう、そう、そう」をいう声が何度も聞かれることが
理想です。会話パートナーの「おっしゃりたいことは、こういうことですか?」という問いかけに対
して、失語症の方の「そう、そう、そう」という声が、そこかしこで響き合う地域社会と人間関係を
作っていきたいものです。
そうは言っても、言葉は人間の背中のようなごく限られた範囲のものではなく、海のように広くて深
いものです。そして、そこを人の考えが自由に駆けめぐり、折々の様々な思いがただようわけですか
ら、失語症の方の「よき理解者」になって、それを言い当てるということは並大抵のことではありま
せん。
私たちは、これからもさらによき理解者となれるよう、努力を重ねてまいりたいと思います。そのよ
うな努力を楽しみながら続けるチャンスのひとつとして、この歌と踊りの「失語症ライブ」があるの
です。
2. 一緒に踊ります!
失語症の方たちは、言葉によるやりとりが苦手です。そこで最初に、体を通じてのコミュニケーショ
ンから入っていきましょう。
いつもの通り、私たちのつどいのテーマソングである「365歩のマーチ」の歌に合わせて踊ってみ
ます。
介添えの人の動作を見るだけで真似のできる方はそれで結構ですが、見ただけではどういう風にやっ
たらいいのか分からないという方のためには、直接相手の方の体に触れて教えてあげてください。
ではやってみましょう!
まずは歩きます。
♪ しあわせは歩いてこない だから歩いてゆくんだね
次は指を1本立てます。
♪ 一日一歩
続いて、指を3本立ててください。そして2本です。
♪ 三日で三歩 三歩進んで二歩下がる
次に、腰にこぶしをあててから思い切り天に向かって突き上げます。
♪人生は
もう一度こぶしを腰にあててから天に向かって、1、2、3と突き上げましょう。
♪ ワンツーパンチ
今度はまた元気がなくなって、こぶしでオデコをぬぐい、そして目の回りをぬぐいます。そして腕を
振って歩き続けましょう。
♪ 汗かき ベソかき 歩こうよ
人差し指を前の方に突き出して、足跡をたどります。
♪ あなたのつけた足跡にゃ
ここで、きれいな花を咲かせましょう。腕を上げて大きく広げてから、手のひらをゆっくりとヒラヒ
ラさせながら、きれいな花を咲かせましょう。
♪ きれいな花が咲くでしょう
腕を前後に振ります。そして太ももを大きく上げて大地を踏みしめましょう。
♪ 腕を振って 足を上げて ワンツー ワンツー 休まないで歩け〜
最後の ♪歩け〜♪ のところでは、片手を挙げて「敬礼」してください。
さぁ、これだけの動作を介添えの方は、相手の方に教えてあげてください。そして、もう一度、会場
の皆さんもご一緒に踊りましょう。
3.「ハイ」と答えていただきます!
言葉の始まりは、自分の思い通りに声が出るということです。そこで皆さんのお名前を順番にお呼び
して、ご本人から「ハイ」とひと声だけ返事をしていただきます。
進め方は、まず介添えの方が「私は○○から来た○○です。普段は○○をしております」と、自己紹
介をしてください。
その上で「今日の私のパートナーは、○○から来られた○○さんです」と、お隣の方を紹介してくだ
さい。そうしましたら、私たちが全員で「○○さん」とお呼びします。ご本人から「ハイ」というお
声が聞こえると嬉しいですね。
では、やってみましょう。(「ハイ」という元気な声が聞かれるたびに、会場に大きな拍手が響き渡
りました)
4.「こんにちは」の挨拶を言っていただきます!
続いて毎日の挨拶として「こんにちは」と言っていただきましょう。
介添えの方から「○○さん、こんにちは」と声をかけて、相手の方にマイクを向けてください。でき
ない場合は無理じいしてはいけません。「どんぐりころころ」の歌に合わせて言っていただくと、う
まく引き出せる場合もありますよ。
次の方も苦しそうですね。介添えの方は、途中の「どじょうが出てきて」のところを歌って、相手の
方の口元にマイクを向けてください。
介添えの方 ♪ どじょうが出てきて
お相手の方 ♪ こんにちは
会場から大きな拍手が送られました。大変お上手でした。言語は左の脳の能力なので、失語症のため
に言葉がうまく言えない場合であっても、歌ならば上手に歌えるという方がおられるわけです。
5.身近な人の名前を言ってみましょう!
では、今日の新しい勉強に移りましょう。今回のテーマは「人の名前」。固有名詞です。これは難し
いですよ。私たちも年を重ねてきたり、極度に緊張していたり、疲れていたりしますと、しばしば
「顔は思い出せるのに、名前が思い出せない」ということを体験するものです。失語症の方であれば、
その苦労は毎日であり、毎回のことですね。
6.できない場合の対処
まず、お名前が言えない場合はどうするのか、ということを考えおきます。
言えない場合には「自分の名前がわかるか」ということを確認します。まさか自分の名前まで忘れて
しまったのではないか、ということの確認です。
ところでまったく声が出ない、という方もおられるのですね。まったく声が出ない場合にはまず「食
事をしているか」ということを調べます。先ほど奥様が「食事はしています」と発表してくださいま
した。ということは、口の回りを動かす筋肉は、ちゃんと動いていることを意味します。
「あなたは、小泉純一郎さんですか?」とうかがった時に、「その通りである」と答えられた方はお
られますか?(「ハーイ!」と元気良く手が挙がる)
なるほど、今日は小泉純一郎さんまで出席してくださったわけですね。ご苦労様です。
(Kさんが、大きな声で「こ、い、ず、み、じゅん、いち、ろう」と言ってくださった)
ちゃんと他人の名前まで言えるじゃありませんか。そういう方は、自分の名前も言えますよ。頑張っ
て言ってみてください。
7.課題を難しくします!
自分の名前が言える人に対しては、介添えの方は「あなたの一番大切な人の名前を教えてください」
とうかがってみてください。その人のお名前が言えるでしょうか。
右片麻痺の方は、たいていはやさしい気持ちを持っていて、心の底で「自分にとって一番大切な人は、
この人だ」ということはわかっているものです。でも、思いがあっても、その人の名前を言うとなると
失語症のためになかなか出てこない、というのが辛いところです。だからこそ、練習いたしましょう。
Kさんにうかがいます。あなたの一番大切な人の名前を教えてください。
「う〜む、・・・。」(思い出そうとして苦しそうです)
ふだん使い慣れていない言葉は難しいですよ。よく練習しなくちゃ。
「う〜む。あ、そうだ。よしえ、だ」(会場から拍手が送られます)
よく思い出してくださいました。よしえさん、は奥様ですね。そしたら次は、日頃のご恩をねぎらっ
て「よしえさん、ありがとう」と言ってみましょう。
「ありがとう、あれっ、ありがとう」
そうですね。失語症の人は一つひとつの言葉が言えても、二つを続けて言うのは難しいものです。
「よしえさん、ありがとう」と二つ続けて言うんですよ。
「よしえさん、・・・あれっ」
一つひとつは言えても、二つの言葉をつなげて言うのが難しいということであれば、そのあたりが当
面の目標になります。
8.フィナーレ
今日も、あっという間に時間が来てしまいました。最後はいつもの通り「頭、肩、ひざ、ポン」の手
遊びで締めることにいたしましょう。この「頭、肩、ひざ、ポン」は失語症者の国際交流会でも、い
つも最後に行うものです。英語圏では英語で、韓国では韓国の言葉で行いました。
今日は日本ですので、日本語で行いましょう。まず、動作を覚えてください。動作のできる方は、体
にふれながらそれぞれの言葉を歌に合わせて、はっきり言うようにいたしましょう。では、伴奏をお
願いします。
♪ 頭、肩、ひざ、ポン、ひざ、ポン、ひざ、ポン、
♪ 頭、肩、ひざ、ポン、目、耳、鼻、くち、
最後に「くち」のところでしっかり手で口をおさえて、今日の後半のピアノ伴奏をしてくださった越
知直子さんに、皆で感謝の投げキッスを送りましょう。チュッ!
*2002年5月18日に開催された「第8回埼玉県失語症者のつどいインさいたま」記録集を、
ご了解のもとに、一部転載させていただきました。
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