東京君への手紙   渋谷久夫(秋田県・鹿角ジャンプスポーツ少年団副団長)   2001/11/10

 和大君、全国作文コンクール東京都代表おめでとう。
 原稿用紙40枚とはいえ、3年間のストーリーをまとめることは並大抵のことではなかっただろうと想像します。君の努力と、すばらしい文才に乾杯です。

 人々は文化の恵みを受けて幸福な生活を送っています。しかし、その存在に感謝して、受け継がれてきた文化を守り、育て継承していくことには努力を怠りがちです。
 努力とは、文化の恵みに浴するさまざまな生活体験をすることです。本当の体験の乏しい人には、文化の恵み、存在のありがたさがわかりません。
 体験によって、人は文化の恵み(価値、すばらしさ)を実感し、その文化を創造し育んだ先人の努力を発見するのです。そして、その感動をさらに伝えようとするのです。
 スポーツも同じです。体験し汗を流してみなければ、そのすばらしさがわかりません。体験は人々に喜びと感動と、そして夢を与えてくれます。それは新たなエネルギーとなって人間性の豊かさを育んでくれます。

 君の今取り組んでいる、ジャンプ競技という体験は君を育ててくれる豊かな糧でもあり、大きな体験だったからこそ40枚もの原稿に記すことができたのでしょう。君の体験は君自身を大きく成長させてくれるのです。
 「選手として活躍したい」という夢を見ることは良いことです。しかし、それは結果であって、そこにたどり着くまでの過程は果てしなく遠く厳しいのです。

 「われたゴーグル」について。ジャンプというスポーツはハードなものです。憧れと興味だけで続けられるものではない、それを体感してもらうために、あえて下川のスモールを飛ばさせてみたのです。怪我をさせるかもしれない..鬼になった心持ちで、スタートの合図を送りました。結果、ゴーグルが君を怪我から守ってくれました。その意味では生涯のお守りとなるでしょう。もっとも、高い夢を設定した君が、どのように厳しい道程を歩もうとするのか?「初めてスタート台に立ったときの思い」「飛んでみてわかる自分の弱さ、小ささ」「まっ白になった頭にひらめく挑戦心」それが大切にしなければいけない宝なのです。「とんでもない夢を見た。やめようか。」それではいけない。

 人間として「生きる力」をつけるにはどうしたらよいのか?体格や体力以前の問題として心の持ち方に甘さがあったのなら、そこから見直さなければならない。高い目標にたどり着けるかどうかはわからないが、思ったこと感じたことをやり続けることが大切なんだ。…こんなことを体験から学びながら3年間やり続けてきたことを生かしてほしいと思います。夢を果たすための努力というのは、歩み続けるための目的・目標であり、夢を果たすための保証ではないのです。君の努力の1コマ1コマに与えられた栄光でもあるのです。これは、「生きる力」が着実についている証でもある。

 「異風堂々」遥かなる道程を歩む一日一日が君を大きくしているのです。その一つ一つの出会いや出来事を大切にしてください。
 和大君、また下川で逢おう。新しい小学生(挑戦者)が君のようにがんばれるように私もまだまだがんばるよ!

Re: 渋谷先生からの手紙      笠谷命    2002/ 3/ 1

 渋谷先生のお手紙を拝読して、本当に感動しました。なんと厳しく、しかし、なんと暖かいご指導をされているのだろうかと。そして、そのご指導は、技術でもなく、勝つことでもなく、「生きる力」をつけることに収斂されているのだと。そして、その生きる力は、「夢」を信じて自分を鍛えることによって身に付くのだということを、これほど力強く説得力をもって説かれていることに、なにか、頭を殴られた気持ちです。
 私は、大学でスキー部の顧問をしております。スキーの指導をする立場ではありませんが、学生に対しては、指導者としての立場にあります。彼らに、生き生きと大学生活を送ってもらいたい、という気持ちの強さは人後に落ちないつもりですが、では何を伝えるのか、ということになると、いつしか厳しさが失われ、彼らの全部を受けとめるだけ、になってしまっているのに気づきます。
 渋谷先生の姿勢は、和大君のすべてを受け止めて、その上で、和大君の心の中にある原動力を自分で大事に生かすことを伝えて居られるのだと思いました。その原動力は、どんなものであっても「夢」なのですよね。
 「夢」を失わせずに、「夢」への前進への力を、その「夢」を持つ者の内側からわき上がらせる。これが、とても重要なことなのだと、改めて認識し直しました。
 それから、恥ずかしながら、最近仕事が忙しくて「ノーマル飛ぶぞ」の意気込みがなんとなく、後退している自分に、いらいらしていました。一昨年の夏に、着地後の転倒で膝をけがして、「とんでもない夢を見た。やめようか」という気持ちが頭をもたげてきた自分でありました。それは振り切ったつもりでしたが、心のどこかにあることも確かです。渋谷先生のお手紙を拝読して、なにか吹っ切れました。
 一度、お会いできれば幸いです。たぶん、一番できの悪い生徒として、だと思いますが。
 渋谷先生のご健康を祈念して、筆を置きます。



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