トレーニング・コラム(2001.4〜)
vol.1 空サッツ
vol.2 ゴム段
vol.3 マット飛び込み
vol.4 試行錯誤 その1
vol.5 ローラー・サッツ

 [vol.6〜vol.10]

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vol. 1  (から)サッツ (サッツ・シムレーション)
 スキージャンプのトレーニングの中では、最も有名、かつ固有のものである。

 選手が台の上でアプローチ姿勢を組み、トレーナーは低い姿勢で選手に相対する。選手はジャンプ台のカンテで踏みきるのと同じイメージでサッツを行う。サッツの瞬間にトレーナーは、選手の腰を両手で受け、そのまま腕を伸ばして直立する。TVの画面でよく見る練習だ。

 子どもが下川で初挑戦する前から、見よう見まねでやっていた。もちろん体重の軽い子どもとはいえ、失敗するのが怖くて、最初は肩でサッツを受けていた。しっかりと立ち上がり、膝を張って腰に支点が来るようになれば意外なほどうまく取れるようになる。上の子だけでも小学校時代3年間で3000本近く取っていると思う。

 子ども達がジャンプを初めてまもなく、文部省制作のTV番組にスタジオ参加で出演する機会があった。
その時のゲストであった河野孝典氏(リレハンメル五輪メダリスト)が子ども達のサッツを受けてくれた。
番組収録後、上の子に河野氏の空サッツはどうだったか尋ねると「お父さんより手の送りが速くて、大ジャンプした気分だった」とのこと。素人である自分と、全日本のコーチでは比べものにならないが、その言葉を聞いて、今まで自分は空サッツの目的を勘違いしていたことに気がついた。

 空サッツは、いわゆる素振りとは異なり、ただ回数が多くても練習の効果は少ない。また、サッツ動作だけの練習ではなく、クローチングを組むことに始まり、サッツ後の空中バランス、そしてランディングまでの一連の動作を全てイメージするものなのだ。
 サッツを受けるトレーナーとは別の人間がフォームをチェックし、選手自身が動きや力の入れ方を修正する。野球で例えるならばトス・バッティングに近く、いわばイメージトレーニングの部類にはいるのではないかと思う。

 サッツの受け方にも人によって違いがある。受ける瞬間に引いた足を踏み込んで素早く体を支える、すなわち懐へ入っていくやり方と、足を踏み込まず飛び出してからの前へ進む動きを止めないように、ゆっくり後ろへ下がっていくやり方がある。
 かつて、全日本コーチの中で最も受けるのがうまいと言われたバシャ・バイチさんは後者の受け方だった。あの大きな体で地面に這うように構え(おそらく選手の視野に入らないようにしたのだろう)、選手の下半身の動き(腰の軌跡)に合わせてスムーズに支えていた。一流選手のキレのあるサッツに対してあうんの呼吸で受けている。さらに、身長が高いので空中での視線を保ちやすいのだ。

 いずれの受け方であっても、支えるとき肘は曲げずに円運動を描く。力自慢が支えようとすると腕で持ち上げてしまう場合があるが、支える手は腰の動きの補助動作でもあるので持ち上げては意味がない。
 また、踵の部分に踏み板をつけるかつけないか(飛び出し角度が変わる)、台の高さなどは、選手の体格や技術レベルによって変えていくべきである。特に受けてのトレーナーがプロ級であればよいのだが、ただ支えるだけなら台の高さにはもっと留意すべきだと思う。

 札幌五輪の時は、まだ空サッツは行われていなかった。いったい、誰がこのような練習法を編み出したのだろう?ジャンプ競技に革新をもたらしたと言っても過言ではないと思う。    
(2001.5)

 

vol.2  ゴム段 (ハードルを用いたプライオメトリック)
 跳躍力の筋力は、重いものを持ち上げる場合と異なり瞬発的な力を養うことが必要である。
 プライオメトリックというのは、飛び降りたときの着地の筋肉収縮を、そのまま次の跳躍へとつなげるトレーニングである。一番簡単なものは、階段を段とばしで上がっていく..つまり、片足が階段に接地したら、そのまま踏みきり運動を行うというものである。
 あるいは、BOXジャンプといって、いくつかの台を並べ、台から飛び降りる着地の踏ん張りでそのまま次の台に飛び乗る、というのもある。

 全日本選手がオフトレでよく行うのが、連続したハードルの両足飛びである。やや高めに設定したハードルをリズム良く両足で越えていく。先の理屈で言えば、ためらったり止まっては意味がなく、着地の時の沈み込みを次の跳躍に生かさなければならない。たまに1つのハードルを跳んでは向きを変え、また跳ぶという練習を見ることがあるが、これでは意味がない。

 ところが、ハードルを低めに設定しても、3つ、4つ並ぶと、だんだんと腰が引けて最後は引っかけてしまう。あるいは、ためらいがあるとリズムが狂って止まってしまう。どうしてもハードルの場合、引っかけないようにハードルを見てしまって視線が動いてしまうのだ。一般的なハードルは片足踏みきりだが、両足で跳ぶとなると若干の恐怖心があり、やむを得ないことなのだろう。

 そこで、小学生へのハードル指導の導入に習って、ハードルのバーをゴムひもに替えてみた。
 たったこれだけのことだけど、練習の質は大きく変わったのだ。引っかけて転ぶ恐怖心がなくなった分だけ「前へ」の意識に集中でき、リズムがとぎれなくなった。また、最初の高さをうんと低くすれば、アプローチ姿勢から入ることも可能になった。
 なによりも、ゴムひもとビニールテープがあれば、どこでもできるのだ。もっとも、壁の端にビニールテープでひもを貼りつけた場合、もう片方は人が持たなければならないが..。

 自宅下の公園で、この練習をやっていたところ、小さな女の子が2人近寄ってきた。
「わたしもやりたい!いれて!」
 考えてみれば、昔ながらのゴム段あそびと同じではないか..!?
                                            
(2001.4)

 

vol.3  マット飛び込み
 札幌五輪の映像を見ると、空サッツの原型を見ることができる。 1人が中腰で小さなマットを持ち、選手がそのマットに向かってサッツを行う。また、さほど昔ではないが、カゼ薬のコマーシャルで、チビッコジャンパーが一斉にサッツ動作を行い、保護者が胸で受けとめる、というシーンがあった(たぶん札幌の少年団だろう)。

 サッツを行い、マットに飛び込む練習は、もっとも古くから行われていたジャンプの練習なのだろう。ただ、常々疑問に思うこともあった。人間の反射動作として、マットに飛び込む瞬間、目をつぶってしまうのではないか..と。

 しかし、この懸念はあさはかな素人考えであった。マットへの飛び込みは践み切る方向性と力のいれ具合が目的であって、それ以上のものを要求する練習ではないのだ。特に、サッツの基本練習の中では、首のつけ根に意識を持ち、そこをカンテの向こう側へ投げ出す事が必要である。俗に言う「背中へ抜く」という感覚だ。この感覚を身につけるためには、正面に人が相対する空サッツではなかなか効果が得られない。特にビギナーでは、垂直に立っているつもりでも、実際のジャンプ台では体が逃げてのけぞることが多くなるのである。

 膝が戻って腰が残る和大にとって、マット飛び込みによる「カンテの向こうへ投げ出す」意識を体に覚えさせることは直面する大きな課題でもあった。
 しかし、学校などには大抵ある厚手のマットは、個人で購入しようとすると相当高価なのである。小型のものでもン万円はする。そんなとき、TV番組の中で高橋竜二選手が自宅で古布団やマットレスを重ねサッツ練習をしている場面を見て「やっぱり、これしかないな」と思った。

 ちょうど、自宅から200mも離れていないところに市のリサイクルセンターがある。そそくさと行って相談してみた。残念ながらマットレスは衛生上、リサイクルの対象にはなっていないそうだが、事情を聞いてしっかりしたマットレスが集積所に来たとき確保して置いてくれるとのこと..。なんでも聞いてみるものだ。
 1週間ほどして再び行ってみると、簡易ベッド様のしっかりしたマットをいくつも取っておいてくれた。まさに、拾う神あり、とはこのことだ。しかも、売り物ではないから全てタダ!拾う神とリサイクルセンターの職員の皆さんに感謝!

 実際に効果は大きかった。マットレスをもらってきてから3ヶ月、膝が戻る欠点は残ったが下から践みきる力強さは格段に前へ向かうようになったのである。これこそ空サッツの練習目的とは異なり、素振りに近い反復練習の意味合いが強いのではないか。特に、空サッツではそこそこ蹴れるのに、ジャンプ台では重心が前へ行かない選手にとっては大切な練習過程であると思う。また、マットレスは置き場所に工夫が必要なものの自宅で日常的に行える点が魅力である。

 より効果的に行うためには留意点がある。
 まず、静止した台より践みきりを行うので、本人が気がつかないうちに践みきり動作にごまかしが出てしまうことがある。たとえば、踵を上げつま先で前へ飛び出したり、水泳の飛び込みのように台を後ろへ蹴ってしまう..などである。
 改善のためには、台が後ろへ若干滑るようにすればよい。台にローラーをつけることも試したが、ものすごい勢いで台が後ろに跳んでいくので危険である。箱状の台の底にシートなどを貼っておけば、後ろへ蹴ってしまっても2〜30cm程度ずれるだけですむ。
 そして、練習の時に腰が上がらない(直線的に立ち上がっている)場合や、押し上げる力にパワーがない場合、真後ろに人が立って腰を送る補助動作を加えてやればよい。原理的には、幾多のアスリート選手を生み出した「初動負荷トレーニング」と同じである。
 ただ、この場合もマットの位置を調節しておかないと、跳びすぎて顔面を地面に強打したりするのでくれぐれもご注意を..。
                                             
(2002.6)

 

vol.4  試行錯誤 その1(閑話休題)
 子ども達がジャンプを始めた頃のトレーニングといったら、まさに見よう見まね..、試行錯誤の連続だった。ジャマイカのボブスレーチームを描いた映画『クールランニング』のノリ、あるいは『つりキチ三平』に学ぶ創意工夫の世界である。もちろん、徒労に終わりムダであったものも多いが、こういうことを考えること自体が楽しいことだと思う。

 きわめつけの失敗に、滑車式ジャンプ・シムレーションがある。
 以前、スポーツドキュメンタリーのプロジューサーにこの事を根ほり葉ほり聞かれたが、まじめに聞き入っているプロジューサー氏の表情を見て、万が一にも番組にされたら日本中の笑いものになってしまうという危機感が芽生え、話を途中でやめてしまった..。

 児童公園のアスレチックに、滑車を使ったロープウェイ(ターザン滑車)がある。これにぶら下がって遊ぶ小さな子ども達を見て、ジャンプの練習に応用できるのではないかと思った。
 布ベルトを縫い合わせハーネスをつくる。子ども達にスキーを履かせ滑車のスタート台に立たせる。ここで、ハーネスの背中部分に滑車のロープを固定する。この体勢からクローチングを組み、サッツを行う。腰の後ろでロープに吊られているから、ホンモノのジャンプのように滑空することができる..

 子ども達も親の提案ですっかりその気になっていたのだが、やってみて一発で「ダメだわ。こりゃ..」と気がついた。子どもの体は滑車に吊られたまま進んで行くが、どうやっても体がグルグル回転してしまう。スキー板を履いているから反動がついて、まるで逆立ちしたヘリコプター。モーグルであれば超難度のエアーなのだが..。

 1回であきらめてしまうのは悔しいから何度か試していたが、そのうち子どもは目が回って気持ち悪くなって泣き出してしまった。気がつくと団地の中の児童公園だったので、住人達がいぶかしげに集まり、人だかりができている。ついには、つれあいがたまらず飛び出して来て「こんな恥ずかしいマネは2度としないでくれ」と猛烈に怒られてしまった。今から考えると、よく110番通報されなかったものだ..。
 今でも、笑い話のつもりでこの話を関係者にすると、結構、真剣に怒られる。「そんなヒドイことを..」

 でも、まあ最初の頃は、何をやっても周囲の眼はそんなものだった。
 児童公園というのは、意外と人間模様が行き交うところだ。空サッツを受けていたら、オバチャンに「我が子でも、ケガでもしたらどうするんだ」と真剣に説教されたり、塾帰りの女子中学生がストレス解消にとマット飛び込みに交じったり、ある時は暴走族が子どものサッツを受けてくれたり..。
 やっと最近は、ジャンプの練習だとわかってもらえたようだが。

 

vol.5  ローラー・サッツ
 空サッツは合理的なトレーニングではあるけれど、全てのポイントをカバーしているわけではない。
 それは、静止状態からのサッツであるからだ。実際のジャンプでは時速70〜90キロという高速から践みきるわけであって、そのアプローチスピードを生かしてカンテにインパクトを与えなければならないのだ。固定された台では、その微妙なバランス、力加減がわからない。

 リレハンメル五輪の直前、鳥人バイスフロクのこんなトレーニングが紹介された。
 傾斜をつけた平均台をレールとして、そこに取り付けた台車の上でアプローチ姿勢を組む。台車はゆっくりと平均台の上を滑り、その状態から空サッツを行う。
 「なかなかうまいことを考えたものだ」と、その時は素人ながらに感心しただけで終わったが、実際の成果は想像を超えるものだったと思う。何しろ、ライバルであるノルウェーチームより「サッツに弱点あり」と指摘されても、モノともせずに最長不倒で金メダルを勝ち取ったのだから。

 子どもがジャンプを始めたとき、飯山の元コーチより、自宅の庭に作ったローラージャンプ台を見せてもらった。原理は、先のバイスフロクが使っていたものと同じ。ただ、アプローチ部を工事用の櫓を改造して作ってあるので台車自体が結構なスピードを出す。また、それだけ勢いがつくと人では支えられないので、マットへ飛び込むようにできている。同じものが、北海道・下川の体育館にもあるという。
 これなら、キレのあるサッツが身につくであろう。しかし、個人で作るには少々大がかりで、場所をとる。そして、スピードが出るためにタイミングをとるのが難しいことも事実だ。

 なんとか工夫ができないか..とずっと思案していたところ、思わぬ福音がもたらされた。
 いつも練習で使っている自宅そばの児童公園が改修となり、幼児用の大きなローラーすべり台ができたのだ。これをトレーニングで活用しない手はない。一般のすべり台と違って、ローラーすべり台は傾斜が緩やかだ。しかも大型なので10mはアプローチが取れる(難をいえば、若干のカーブがついている)。
 早速、つま先が固定できる特製サッツ下駄をつくり、まずはクローチングで滑らせてみた。斜度よし、スピードよし、感触よし!そこから踏み切るには若干のコツが必要だが、練習効果は充分に得られるとふんだ。それに、子ども達も結構よろこんでいる。

 問題は、幼児が遊んでいるときはできないことだった..。「小さな子がマネして危ないからやめてくれ」というヤンママからの苦情も承った。世の中、そうはうまくいかない。が、願いは確実に天に届いていたようだ。
 昨年、北海道で指導者研修会が開かれた際、車輪付きサッツ台の効用が検討され、各地で実践されつつあるとSAJの役員氏からご教示いただいた。先の苦労話をすると、なんと札幌の少年団が使っている台車式サッツ台を1台、すぐに譲ってくれたのだ。(制作者は札幌・手稲少年団の鈴木さん)
 本当に有り難かった。使い方は、いたって簡単。ローラースキーの上に台が付いていると想像すればよい。傾斜10度程度のアスファルトで、ゆっくり動かして空サッツを行う。バイスフロクがやっていたように、どうもスピードを出さない方が案配がいいようだ。
 現在は、練習で使いながら、台の高さなどを調整、改良している。先日、台に少し高さを持たせてどべ吉にやらせてみたら、見事に支える手を飛び越してしまった。「原田ばりの高さ..」などと笑っている場合ではないが。

 一方でこんな話も小耳にはさんだ。
 北海道の某長老コーチが、全日本Jr.の選手をつかまえ、「最近、ローラーサッツなんて流行っているが、あんなものは意味がない。膝が戻るヨーロッパ人のためにあるんだ。」と言っている。
 ノルウェーチームがバイスフロクに対して「サッツに弱点あり」と主張しながら、五輪で負けたことを思い出してしまった。笑わば笑え..。意味があるかないかは、試して判断するべきものだと思う。
                                              
(2003.5)  

 

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