上を向いて歩こう小説
前号のあらすじ
迷宮の村への足がかりとなる秘湯の村へついた竜也たちは、そこが死の村であることを知らされる。そこは戦争で使用されたカタルスによる伝染病バイオカタルの伝染病患者があつまる軍の隔離病村だった。その研究をつづける軍医キャスバル。そのキャスバルを師と慕うJunno。竜也たちはそんな二人をほおっておけず村に滞在していた。そして、バイオカタルの研究が大詰めにさしかかったとき、村を焼き払い伝染病を謀殺するために軍がやってきた。キャスバルの苦渋の決断にJunnoの悲痛の叫びは届かない。キャスバルは自らの命をかけ、村とともに消えた。キャスバルの意思を受け継ぎ、Junnoは竜也たちとともに静かな町を目指すことになった。
STORY18|発覚(1)
ガタン!
竜也は思わず立ち上がった。その勢いで椅子が大きな音を立てて床に転がった。その目はどこをとらえているかわからない。秀明が驚いたような顔で竜也を見、そしてYu-ichiへと視線を移した。Yu-ichiは静かに目をつむっている。その表情からは何も読みとれない。秀明が竜也の顔に視線を戻して、はっとした。
「もしかして、Yu-ichiは知らないのか! お前が皇太子だってこと!!!」
秀明の言葉が竜也の頭の中に響き渡る。だが、頭はその言葉には反応せず、うつろな状態だった。
『一体、どうしてこんなことになってしまったのか……』
竜也の目に、しまった!という秀明の顔がぼんやりと映っていた。
「なんだよ、また、その手紙みてるのか?」
「別に……研究を頭に入れてただけだよ」
ちょっとムッとしたような照れたような顔で手紙をしまうJunnoにKameriaがおかしそうにと笑っている。それをみていた聖が顔をしかめた。
「Kameriaさん、そういう言い方はよくありませんよ。誰にだって大切な人を想うことはあります」
「だから、そんなんじゃないってば!!」
やぶ蛇の流れになってしまった聖が肩をすくめ、竜也が話題を変えた。
「迷宮の村には、あとどれどれくらいで着くのかなぁ」
湯治の村を出て一週間。竜也たちは例のごとく野宿していた。
「明日にはつくと思うよ。ま、ボクが通ったのは随分前だから記憶が曖昧だけど」
竜也の質問にJunnoが気を取り直したように答える。
「んだよ、頼り無いなぁ」
仁の言葉にJunnoが顔をしかめる。
「だったら聞かなければいいじゃないか。行けばわかるんだし」
「まぁまぁ。聖くんの鳳凰である程度の場所はわかったけど、細かなところまではわからないし、実際に行ったことがあるJunnoくんがいて心強いんだから」
「そうですよ。私の力がまだ未熟なせいで、見えるものにもずれがありますから」
竜也のホローに聖が笑顔で頷き、Junnoが仁に向かって舌を見せた。
「それより、迷宮の村ってどんなところなんだ?」
Kameriaの疑問に、皆の視線が聖とJunnoに行ったり来たりする。先に口を開いたのは聖だった。
「残念ながら……私にはそこまでは」
「あそこは村と言うレベルの村じゃない」
「どういう意味だ?」
聖の代わりに答えたJunnoに、Kameriaが眉を寄せる。
「行けばわかるけど、村と言うよりは町、いやたぶん、それ以上」
「おまえ、言ってる意味全然わかなんねーんだよ。いつも」
Junnoの曖昧な言葉に仁が眉を寄せ、Junnoの頭を叩いた。Junnoは眉を寄せたが反撃することなく後を続けた。
「そこらへんの町より全然広いってこと。ちょっとした都市並みの広さはあった」
「なんだ、それ」
Kameriaの怪訝な顔に、仁がさらに疑問を投げる。
「基本的な質問をなんだけどさ……この国の村とか町とかってどうやって決まってるんだ」
「おまえ、それ学校でならわなかったのかよ」
「じゃあ、おまえ答えてみろよ」
仁の言葉にKameriaの視線が竜也に向けられる。竜也がちょっと笑みを浮かべて説明を始める。
「まぁ、いろいろな条件があるんだけど、大抵はその集落……人々が暮らしている地域の大きさや人口で決まっているんだ。たとえば、広さが10デクタールで人口が1000人未満なら『村』、10デクタール以上300デクタール以内で、人口が10万人未満なら『町』。まれに規定以外の場所もあって、たとえば芸術の森は基準から言えば、町だけど、『森』という特別な名称になっているし、港として普及しているところなら歓迎の港のように『港』と呼ばれるようになる」
「ってことは、結局あってないようなものってことか」
仁の言葉に竜也が苦い笑みを浮かべる。
「確かにそうかもしれないね」
「そういえば、あの村に泊まった時、先生が変なこと言ってたなぁ」
Junnoが星空を眺めながらぽつりと言った。
「変なこと?」
「ここで素性がばれたらまずいことになる。だから決して話してはだめだって」
「それはどういう意味でしょう?」
聖の視線が竜也に向けられる。キャスバルの素性は軍医、つまり軍人と言うことだ。だとすれば……
「反政府軍の村、ということか」
例のごとく静かに話を聞いていたYu-ichiが竜也に視線を向ける。竜也はひとつ頷いてみせた。
「そうかもしれない。だとしたら、町以上の規模でありながら村だという理由もわかる」
「それってどういうことだ?」
Kameriaの疑問に竜也が後を続けた。
「BLUE SKYの集落にはさっきもいったように、村や町、港、さらに街や森、都市ーー実際にはもう少しあるんだけど、それぞれが一定の基準で決められているんだ。その大元の基準はさっきも言った広さと人口なんだけど、そのほかに、それらを決めている要件として、港は当然海がなければならないし、森にはBLUE SKY保護地域である自然区域が必要になる」
「町と街の違いは?」
仁が思いついたように言った。
「街は、陸や空からの交通手段が可能な地域で、主な収益は商業。その収益が規定された年間総生産高を5年間継続されて達成されなければ街にはならない。町は空からの交通手段は必要ないし、年間総生産高も街の基準よりは低く設定されている。ま、これはほんの一部でそういった条件が、もっとこと細かく定められてるんだ」
「あああああ、なんか、頭おかしくそうだな。俺、そういうの苦手なんだよなぁ」
眉を寄せる仁を横目に、Kameriaが質問を続けた。
「で、その迷宮の村が反政府だと、どうして街や町になれないんだ?」
「他の国ではあまりみられないんだけど、BLUE SKYでは『村』や『町』と指定されたことで、外交などの権利というか資格のようなものが決まってしまう。」
そう。それこそおかしな話しなのだ。本来、外交はどこの村や町にも与えられるべきものなのに。竜也は心の中で深い溜息を吐き、話を続けた。
「つまりね。村と定められた地域には外交権はなく、BLUE SKY以外の国との取引をする権利がない。おおざっぱにいうと村、町、森、港、街、都市の順なんだけど。村に許されるのは、BLUE SKY上の地域との食料や薬品等の取引のみで、諸外国から武器や弾薬を買うことができるのは街以上なんだ。もっともその街で買うにしても国の許可は必要になるんだけど」
「どうしてだよ」
Kameriaの渋い顔にYu-ichiが静かに答える。
「諸外国との外交取引権を反政府軍に与えてしまったら、いつ暴動や内乱が起こるかもしれない。だから、反政府軍の地域には、村という身分しか与えられない」
「そんなこと起こそうってやつは、そんな身分だなんだって決まりがあったってやるんじゃないのかよ」
「仁くんの言う通り。過去に内乱が起こったのも密売で武器や弾薬を調達した村だった。でもそれは昔の話。今のBLUE SKYではその方法で90%以上内乱を防げるようになった」
「どうやって?」
Kameriaが竜也の方へ身を乗り出した。だが、竜也は首を横に振った。
「理由までは。でもそういわれている」
「んだよ。肝心なところわからないんじゃん」
仁ががっかりしたように地面に横になる。竜也は心の中でみんなに謝った。その理由は国家機密なのだ。すでにBLUE SKY全体を99%管理できるシステムが導入されているが、それらのシステムは国防だけではなく、外交問題にも発展しかねないシステムのため国家機密とされ秘密裏にされている。さすがにそこまで話すわけには行かない。
「竜也の物知りもここでが限界ってことだな」
Kameriaが笑顔で竜也の肩を叩く。竜也は肩をすくめてみせた。
「反政府軍の村だったとして問題はあるか?」
Yu-ichiの視線が竜也に向けられる。あるとすればただ一つ。自分の素性だけだ。だが竜也はにっこりと笑顔を見せた。
「特にないんじゃないかな。僕らは軍人でもないしね。さぁ、そろそろ寝ようか。明日も朝早いから」
竜也は誰にも気がつかれないよう、小さく溜息をつくと平らな場所に体を預けて横になった。





