★ 星空への招待 ★


                 3. さようなら、百武彗星−

 3月下旬、“彗星のごとし”の言葉そのままに、地球に急接近して話題をさらった百武彗星。
報道された映像だけでなく、実際にご覧になった方も多いと思います。
 ちなみに筆者は北信のとある温泉宿にて、雪の露天風呂から天を仰ぎ見ましたが、湯けむり
ごしの百武彗星の雄姿は湯のぬくもりとともに、生涯忘れ得ぬ思い出です。そして、ここが
上高地なら… と今すぐ瞬間移動したいような衝動に駆られながら、想像力をかき立てられた
のでした。
 彗星は「ほうき星」とも言われるように、夜空に長い尾を引くイメージで描かれますが、今回の
百武彗星ほど立派な彗星の出現はごくごく稀なことです。鹿児島県隼人町にお住まいのアマチュア
天文家、百武裕司さん(45歳)による発見で、日本人の名を冠した大彗星が世界中の人々の
注目を集めたという意味でも嬉しい出来事でした。
 頭の部分は都会でも存在が確認できるほどの明るさ(0等級)で、1976年に現れたウエスト彗星
以来、20年ぶりの大彗星と騒がれたりもしました。尾の長さは、角度にして60°以上、つまり夜空
の3分の1です。南北に空が狭い上高地では、頭は穂高の吊尾根上空にあるのに尾は北斗七星
を貫き、その先は六百山にまで達していたのではないでしょうか。開山前のこの時期、上高地で
百武彗星を見たという方がもしいらっしゃれば、ご一報戴きたいものです。

 長いものでも1秒間程度で消えてしまう流れ星と異なり、彗星は眺めているうちにどんどん
移動していくような速い動きはしませんが、それでも地球再接近の3月25日前後、百武彗星は
あっという間に北の空を駆け抜けていった感があります。その後、5月1日に太陽の傍をかすめ、
今はオーストラリアなど南半球で見やすい位置へと移動しています。
 76年ごとに回帰するハレー彗星が話題になった1986年からちょうど10年。軌道を計算した結果、
百武彗星が前回地球に近づいたのは8,000年前、次に戻ってくるのは1万4,000年後といいます。
彗星も太陽系の一員ですが、細長い楕円軌道や放物線軌道をえがく宇宙の旅人なのです。一度
太陽に近づいたきり二度と戻ってこない彗星も珍しくありません。
 百武彗星が次回地球に戻ってきたとき、人類や地球の姿はどのように映るでしょうか・・・

  
上高地ビジターセンター発行「マガモ新聞」No.124(1996年5月28日発行)より。 文責・あさお



 追悼:2002(平成14)年4月、発見者の百武裕司さんが51歳の若さでお亡くなりになりました。
     ご冥福を心よりお祈り申し上げます。   


    
タイトルリストへ    トップページへ