星空への招待


                   30. 新彗星と歯の化石。

      雨降りがつづくと遊歩道のあちらこちらに“水溜まり”ができます。そこへ砂利を埋めて
     補修する作業をしていた時のこと、通りかかった小さな男の子が、じょれんとつるはしを
     振り回す私たちの姿を見て、「お母さん、この人たち宝探しをしているの?」と尋ねていました。
     私は思わず「楽しいよ、一緒にやる?」と声を掛けそうになったのですが、土砂や雪を掘り返
     して、その下から何かが出てくる瞬間は、しんどい作業の中にも“宝探し”にも似た爽快感が
     あると言えそうです。
       それを職業とするか、趣味にとどめるかで感じ方も違うだろうとは思いますが、遺跡や化石
     の発掘と、夜空に新天体を探し求めることは違うようで似ている“宝探し”です。この春、
     ヘール・ボップ彗星が人々の話題を集めていたころ、それまで日本では見つかっていなかった
     肉食恐竜・ティラノサウルス科の恐竜の小さな歯の化石を、ある「素人」発掘家が見つけた
     ニュースが報じられました。高さ10ミリ、厚さ5ミリというその化石の発見者はもとは星を見るこ
     とが好きな名古屋市の職員です。天文の分野で養った判断力、勘が今回の発見にも役立って
     いると言います。
       夜空にまだ誰も見つけていない新天体を捜し当て、自分の名前がついたその星がやがて
     輝きを増す・・・とは夢のような出来事にも思えますが、毎年数多く発見される新天体(例えば
     彗星)の大部分はいわゆる“アマチュア天文家”の功績です。米国のアラン・ヘールさん、トーマス・
     ボップさんも望遠鏡でほかの天体をのぞいていて“偶然に”見つけた新彗星でしたが、もちろん
     発見の陰に費やされた長年の地道な努力や熱意というものを忘れてはなりません。ヘールさん
     の場合、それ以前に400時間以上を彗星捜しに費やしてきた結果、“偶然に”転がり込んできた
     幸運でした。
       隠れた「宝石」を探し出すチャンスは誰にでもありうるし、その努力の過程にこそ意義があり、
     実を結んだ時、それが一気に喜びへと昇華されていくのでしょう。「発見された後、大彗星に
     成長するか否かにはそれほど興味はない」と百武彗星の発見者自身おしゃっています。地道な
     作業をこつこつ積み重ねていくこと−−−成果はその後に自ずと付いてくるものかも知れません。
       “水溜まり”の補修を終え、凸凹のなくなった歩道を見つめながら、そんなことを考えた雨上が
     りでした。
 
       上高地ビジターセンター発行「マガモ新聞」No.151(1997年6月12日発行)より。文責・あさお 


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