31. 絵のなかの星空

 おさない子どもの描く絵には、青空に真っ赤な太陽が
とても大きく描かれているのを
よく見かけますね。
それが実際の尺度とはかけ離れた世界だったとしても、
大胆な構図や色彩は、大人には真似のできない感性、芸術性を感じます。

日本の子どもたちが太陽を赤く描くのは
“日の丸”を見慣れているせいでしょうか。

朝日や夕日は空・雲・地上を紅色に染めますが、実際の太陽は
肌色に近い色をしています。

よく見れば“緑”に近い信号機を“青”と言う
一種の思い込み、先入観にも似ています。
外国の子どもたちは多分オレンジかなにか、
もっと現実に近い色の太陽を描くのではないでしょうか。

 あなたが星を描くとき、型にしませんか。
またたくさまを型で表わし、明るさの違いはその大小で表現しますが、
これも考えてみれば絵の中だけの星空です。
実際には、どの星を観察しても高倍率で覗いてみても
限りなく(点)に近い光がそこに輝いているだけ。

頭上の宇宙はじつにカラフルな世界なのですが、
光が弱いため、私たちの眼には明るい星以外「色」はあまり感じ取れません。
星空をリアルに描くことはたいへん難しく、
月や太陽に比べ絵画にあまり登場しないのもそのためかも知れません


 フランスの画家・ゴッホ(1853−1890)が1889年に『星月夜』という
印象的な作品を描いています。

一度見たら忘れられない目の回りそうな表現に、芸術は
“忠実な表現”にとらわれないものであることを教えられます。
ゴッホには『糸杉と星の道』という作品もあります。

そのゴッホにも影響を与えたという日本の浮世絵にも、
星空はあまり登場しないものの、月を取り入れた場面では
広重の『月に雁』が知られています。
50年近く前に発行されたこの図柄の切手はたいへんな人気で、
高価な値が付いているそうですが、広重生誕
200年にあたる昨年、
『見返り美人』(菱川師宣作)とともに再発行され

80
円切手として甦りました。

「描く」という行為は、目の前にある風景なりモチーフに
心を動かされ、観察することから始まります。
仮に描き上げた絵が現実とは違う、極端にデフォルメされた世界で
あったとしても、描き手にもそれを見る人にも、
新しい視点を呼び起こしてくれるものではないでしょうか


上高地ビジターセンター発行 「マガモ新聞」 No.152 1997年6月19日発行より

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