34. さそり座の季節に 〜友人に捧げる星〜

いよいよ夏本番です。
この季節を代表する星座のひとつ、さそり座が午後8時ころ南中するようになってきました。
六百山の陰で姿を現すのは少々遅れますが、これから次第に早まって、
夕空を赤い1等星アンタレスと見事なS字カーブで彩ります。
そのサソリがしっぽを浸している天の川も、上高地の思い出として
しっかり心に焼きつけておきましょう。
昨年、ご自分の誕生星座・さそり座も 天の川も、
この上高地で生まれて初めて見ました! と
しきりに感動なさっていたお客さんのことが思い出されます。

そしてまた今年、私は特別な想いをもってこのサソリを見上げています。
個人的な、また重いテーマでもあるので書くことにためらいも感じますが、
私はこの冬、山の仲間を一人亡くしました。
学生時代のワンゲルの同級生で、癌であったことを知ったのは
突然の訃報のその後でした。一昨年だったか暑中見舞いに
「上高地の空気を吸えば少しは気もまぎれるかもよ」
というような、脳天気な絵葉書を送ったことも悔やまれます。
時折連絡はとり合っていましたが、もう二度と本人には会えないとは、
正直考えたくありません。

死後、なにかできることはないかと考えた末、彼女にひとつの星をプレゼントすることを
思い付きました。
夜空には数え切れないほど星が輝いていますが、名前が付いて
いるものは一部で、申請すれば希望の名前を登録することができます。

人は亡くなっても天国へいくとか、星になると言われたりします。
「死」についてどう考えるかは人によってさまざまですが、
やがて誰にも訪れるこの問題を意識することは、じつは
自分が「いかに生きるか」を考えることであって、決して後ろ向きの
暗いテーマとは言えないと思います。

A tribute to M. F
(正式名はイニシャルではなく友人のフルネームですが)
と名付けられたその星は、彼女の誕生星座である さそり座β星の傍で、
いまもひっそりと輝きを放っています。
この星名は、米国議会図書館に永久保存されるとともに、
本当に短い間でしたが、山や学校で一緒に過ごした
友人との思い出を永遠に留めておく、仲間同志の目印ともいえます。

私が利用した“星名登録”システムについて、興味のある方はお尋ねください。
自力で新しい天体を発見するほかに星の命名権を得られる制度
として画期的なもので、お祝い事などの特別な贈り物として
利用される場合が多いようです。


上高地ビジターセンターだより 『マガモ新聞』 No.155 (1997年7月22日発行)より

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