ハイスクールの卒業式。学帽っていうんでしょうか、ひし形で房飾りがついてるやつ。
あれを憎々しげに踏みつぶす女の子。学校なんて大嫌い、教師なんて大嫌い、同級生はみんなバカ。
映画『ゴースト・ワールド』の主人公のイニードは、そんな女の子。
メガネかけてて、ブサイクで、いきなりパンクファッションに身を包んだりするような女の子。
ダサいのが我慢ならない。頭悪いのが我慢ならない。欺瞞・偽善が我慢ならない。
でも周りを見回せば、そんな奴がほとんどじゃん。だから、彼女は不機嫌になる。
気に入らないものには、冷笑で応える。
この『ゴースト・ワールド』は、そんなイニードのふてくされっぷりを見る映画だ(※1)。
鼻持ちならないブサイクな少女を演じる、ソーラ・バーチが素晴らしい(※2)。
つるんでるかわいい友人にばっかり話しかける男どもを見るときの、「やれやれ」っていう表情を見て欲しい。
アヴァンギャルドを気取る美術教師に対する、「あーあ」っていう表情を見て欲しい。
彼女のひねた行動のいちいちが、可笑しくって憎らしい。
実は、イニードのことを、僕はよく知っている。
クラスの中で平気で浮いていたあの娘や、大学の入学式で不機嫌そうに輪を離れて立ってたあいつや、
悪口を言うときにがぜん冴えまくるあの人や…。
かく言う僕だって、イニードみたいなことをしてた。嫌いなものは、徹底的にバカにしてたからね。
電車で前に座ってる人のズボンの丈の短さがイヤ、友人がカラオケで歌う歌謡曲のいじましさがイヤ、
ファミレスの店員の無意味なバカ笑いがイヤ、テレビタレントの何も言ってないに等しいコメントがイヤ、
おっさんの若い頃の無茶自慢がイヤ…。
何も面白いことなんかないアメリカのスモールタウン(※3)。
将来の道を決めなきゃいけない頃だけど、イニードは、もう少しもう少しって、モラトリアムの時期を延ばしている。
で、そんな彼女は、ブルースオタクの中年(?)と知り合う。これがまた、社会に適応できないダメーな男。
でも、自分の世界を持っている男の方が、当たり前にぬるい日常を送ってる友人たちに比べたら、魅力的に見えちゃうんだ。
そこで、そんな彼に恋人を見つけてあげようと、イニードは思い立つ。この屈折ぶり。
結局、ブルースオタクにも彼女ができる。それも、イニードの美意識からすればつまんない女。
仲良かった親友も少しづつ社会に溶け込みはじめ、今までみたいにつるめなくなる。
「あんたも文句ばっか言ってないで」って諭される始末。
あらら、イニードはいつしか取り残されてしまう。
ブルースオタクのこんなセリフがある。
「世の中の90%は、ビッグマックとRV車で満足なんだ。でも、僕はその中に入れない」(※4)
そう、自分はその他大勢の人たちとは違う。
そう思っていたけど、裏を返せば実は世の中からはじかれていたのは自分の方だったってことだ。
うーん、身につまされる。まったく笑い事じゃあない。10代の頃って僕もこんな感じだったなあ。
今だってそんなに変わってないだろ。昔よりは自意識を飼いならす方法を覚えてきたけどさ
。ああ、焦れてばかりいた10代にはもう戻りたくない(※5)。
世の中の90%に入れないイニードは、どうするんだろう? ふてくされながら彼女は、足を踏み出す。でもどこへ?
10代、まだ先が長いということが恐ろしい。そんな一歩に胸が熱くなる。
※1 監督は、マンガ家ロバート・クラムのドキュメンタリー『クラム』(未見)を撮ったテリー・ツワイゴフ。
ちなみに、『ゴーストワールド』は、ダニエル・クロウズって人のマンガが原作。
よっぽど、マンガ好きなんだな、この監督。ちなみに、この原作もオモロイよ。
※2 『アメリカン・ビューティ』でも、不機嫌な彼女が観られる。僕は、もうすぐ公開の『穴』に期待。
※3 くすんだスモールタウンに不似合いな、彼女のヴィヴィッドな色のTシャツに注目!
※4 正確じゃないけど、こんな感じのセリフ。これは、応用の利くセリフだね。
「ビッグマック」と「RV車」の替わりに、気に入らない流行りものを入れてみよう!
※5 去年観た映画で一番好きだったのがこの映画だけど、同時期に観た『ウォーター・ボーイズ』っていう日本映画も、
面白かった。これは、素直に「10代っていいなあ」って思える映画。
2002.4