10年たったらソラシドレ
奥田民生『LION』



♪数分のエクスタシー 昴奮のサウンドオブミュージック
  「サウンド・オブ・ミュージック」
いや、そんなもんでいいんじゃないか音楽なんて、ってな話だ。いきなり結論を言っちゃえばね。
奥田民生がソロデビューして、今年で10周年だとか。ソロになって出した最初のアルバムが、29歳のときの『29』。 ってことは、今年で、39になるってことか。
でも、この人、あんまり変わった気がしない。音楽に対するスタンスが変わらないから。

ほら、いろいろ意味付けをしたくなるじゃん。俺みたいに、音楽についてあれこれ言いたがりのタイプは、特に。 でも、民生は、あんまりそーゆーことされたがってないように見える。まあ、いいじゃん、そんなに意味はないんだからと。
確かに民生に関しては、楽曲をミュージシャンの人生と並べてあれこれ語るなんてしてもしょうがないもんな。 サラリーマンなんかやったこともないくせにサラリーマンの気持ちを歌い、子供もいない頃から息子に語りかける歌を歌う。 CMソングだって理由だけでコーヒーのことを歌い、本文と関係ない「マシマロ」をタイトルにする。深読みすんなってわけだ。
実際この人くらい、「意味なんかないよ」ってことばかり歌にする人も珍しい。何かを語るために音楽をやってるんじゃないんだよ。 いや、ホントはそれすら語りたくないんだろうけど、「まああえて言っておけば」くらいのことね(※1)。
だから、民生の歌詞は、口に出したときに音に乗ってなんぼ。 むしろ、メロディーでありサウンドの方が、「数分のエクスタシー」に近いところにいる。
そう、メロディーメーカーとしての民生は、天才的だと思う。フックの効いたポップソングの数々が、それを証明しているでしょ。 予想を裏切るコード進行で、あんなに耳なつっこい音楽を作るあたりは、さすがビートルズ・チルドレンといった感じ(※2)。 でもね、ある時期から、民生はこんなことを言い出した。
「いいメロディーってのは、もういいかなって思う」
「うたもの」なんて言葉をあちこちで目にするようになった頃の発言だったと思う(※3)。 思いきったことを言うなあって気がしたけど、今考えれば、何となくわかるね。
いいメロディーってのも、また何かを語りそうになっちゃうんだよ。 Aメロがあって、Bメロでちょっと味付けして、サビで盛り上げて、またAメロに戻る。起承転結。 うっかり、うっとり、ポロッと言っちゃいそうになる。
確かに民生のスタンスからすれば、「あんまりやりすぎてもなあ」ってところだろう。
ってことで、冒頭の「サウンド・オブ・ミュージック」になる。数分間のエクスタシーでいいじゃん。でも、それってどうすればいいんだろ?
そりゃあもちろん、ノリだよ、ノリ。思わずウォーって叫んじゃったり、腰が動いちゃったりするアレだ。
あ、これは、別に踊れるような曲って意味じゃなくって、もうちょっと広い意味ね。ライブ感覚みたいなこと。 つまり、人生と重ね合わせるような物語のような音楽じゃなく、瞬間瞬間に体が反応するようなものってわけ。

で、ようやく、今回の10周年アルバム『LION』の話だ。 ライブ大好きな民生は、10周年記念のライブをいくつかぶちかましてたけど、 このアルバムは、アニバーサリー感やスペシャル感のなさは何だろう。みごっとにいつものまんまの民生。
曲も粒ぞろいなんだけど、目立って新しい試みがあるわけじゃなし、集大成的な意味合いもなし。12曲で45分と、収録時間もあっさり。
重たいビートの「ライオンはトラより美しい」に始まり、言葉なんかそんなにいらないっていう「何と言う」、 メロの大きさが心地いい「スカイウォーカー」、韻を踏みたいだけじゃないかって思わせる「サプリメン」、 ロックンロール賛歌「サウンド・オブ・ミュージック」、夏フェスについて歌ったフォーク調の「フェスティバル」、 マイナー調のメロディでやりたい盛りを歌う「青春」…。虫歯の歌やコアラの歌まである。 はっきり言ってごちゃ混ぜ。ストーリー性もなさそう。
いやあ、民生だなあと思う。気負いもしなけりゃ、枯れもしない。 このままずっとやってくんだから、無理に区切る必要ないじゃん。変わったりまとめたりしなくていいじゃん、っていう感じか。
うん、一貫してる。意味なんかそんなになくっても、いいじゃん。つうか、だからこそいいんじゃん(※4)。 そうやって、変わらずずーっとやってきて、これからもずーっとやっていく。
思えば、ソロデビュー曲、「愛のために」は、こんな風に始まっていた。
♪となりの席ではフケた男が さんざんからんで人生語る
「10年たったら空行こう」なんて歌ってた男は、結局、未だ人生を語らず。

※1 「♪なんのための 歌だ これは」っていう「これは歌だ」、「♪真の姿は うたってないんだな」っていう「ウアホ」、 「♪伝えたいことは 言葉にしたくは ないんだ」っていう「CUSTOM」、 『LION』には「♪そんないちいち たいした理由はない」っていう「プライマル」という曲が収録されている。
※2 近田春夫曰く「一気に仕上げられた一筆書きの趣」(『考えるヒット2』)とか。 確かに、難しいことをやってるように聞こえないところがすごいわけで。
※3 PUFFYへのプロデュースで、メロディーメーカーとしての欲求は満たされたってなことも言ってた。
※4 「意味なんかいらねえっ」って言い切っちゃうのも違う気がするので、ここはふにゃふにゃと読んでください。

2004.12

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