短歌



 アオゾラコーリング

青空がひとりぼっちに見える午後息を引き取った最後のけもの

生まれ落ち初めて世界に触れる児のようなあなたの野性の咆哮(さけび)

雑貨屋と古着屋ばかりの道を往く からっぽ男子の矜持を抱き

退屈な煙草の煙の向こう側 君の時間がほどける夜更け

ことろりんアイスキューブが溶ける音 朝を待つ間のファミレスになる

泳ぐよに歩くよにまた回るよに歌うよにああ眠るようにと

平坦な日々に降る雨さわさわと息が切れることの不思議さ

世界とは無数のつぶでできている たった一人で立つということ

ひとつずつ非情な世界を踏みしめてバックビートはゆるやかに鳴り

飛行機雲の矢印の先見つめてた 笑っちゃうぐらい何もなかった

思い出し笑いのようなあおいソラ 雲間に光るトランペットの

運命のいたずらなんかに負けず鳴れ! ああなんてたくましい音楽

ワン、ツ、スリ、リズムに合わせ呼吸するそんな未来を踊ってたこと

ベースボールキャップをかぶりなおしつつ 風よ吹け、アオゾラコーリング!

2000




 春風邪

つむじ風くるうくるうとかき回す どうやら風邪をひいたみたいです

悦びはあたたかき雨に濡れること 今年の風邪は花になる病

粘膜を侵す花粉の受粉期にくしゃみするたび熟す果実よ

体内に発芽してゆくものがあり羽音がやけに耳に響いて

春霞む海で見つけた大陸はカラダのカタチしていたんだよ

ウィルスのごとくやさしき風媒花 街中の人と春の生殖

ねえもっと声を出してもいいんだよどうせもの言わぬ花になるなら

ドブ川に散る花びらの渦巻いてもの狂おしき春のワルツ

県境の隔離病棟灯がともり花になるのを待つ患者たち

春風邪にほてるからだを横たえて君に摘まれる花になりたい

2000




 台風クラブ

こんな夏は早く終わってしまえばいい 隣町まで嵐が来てる

反乱の予兆をチップに潜ませてレプリカントは午後の授業に

アンモニアばらまく屋上 台風よ永遠なんて嘘を吹き飛ばせ

ざんばりと朱(あか)いしずくをひらめかせ鯉が跳ねたの誰も知らない

保健室のベッドで目覚める生ぬるい空気の中で帰りそびれて

教室の窓ふるわせる稲妻に殺したいやつの名前つぶやく

びしょぬれの焼却炉には燃え残る学級新聞と猫の死骸が

体育庫 石灰の粉が舞うマット ごっこあそびを雨が止むまで

白亜紀のいきものの匂い充満す放課後 台風クラブ活動

「終わらない夏」とかなんとか陳腐だね 卵の中で腐ってく僕ら

2000




 真夜中のゲームセンター

欲しくないものをようやくつかまえた真夜中過ぎのUFOキャッチャー

モニターの指図通りにステップを そんなダンスがレボリューションかよ?

増殖スぷりくらノ僕ハ薄メラレアチラコチラデシマワレテイル

ポリゴンの屍(かばね)を山と積み上げてまた死ぬためにワンコイン入れ

2000




 ルーフ・トライブ

透明な巨象は高く鼻をあげ幾千の窓光るビル風

地を未だ知らず焚火を囲む民 屋上ジプシー旅団の噂

風向きが変わったことを皆に告げ旅立つ仕度屋根から屋根へ

この街の地図を彼らは塗り替える電線上のルーフ・トライブ 

HELLO、HELLO、グッドなバイブを感じたらルーフステーション海賊放送

「ヘイ、キッズ! 地面がイヤになったならチューニング合わせ屋上で待て」

「僕はもうここから降りない屋上でカラスと暮らす さよならみんな」

見下ろせば地上は遠くなりにけり 空へ空へとのびていく都市

曇天の引っ掻き傷から光射し背のび続けるビルディングたち

メガロマニアの夢想の底で歯車をかじるヒメネズミ 世紀の終わり

2000




 ニーノ・ロータ・サーカス団

校内のみなさん下校の時刻です 笛ふき帰るラ・ストラーダ

好色な笑みを浮かべて手品師は夕陽射し込む空き家に消える

夕焼けにサンバは溶けて踊り子が揺らす胸元こうもりの影

帰ろうかマーチンバンドを引き連れて転んでばかりの通学路まで

サーカスのテントがやがてたたまれる ニーノ・ロータは夕暮れに似合う

2000




 パリの冬休み

冬枯れの噴水から飛ぶ黒い鳥 タートルネックを顎まであげて

肺に咲く睡蓮のように凶々し殺すための武器の美しさ

冬空にあげよう湯気の立つスウプ 肉屋の妻は11人目

スカートを手招きのようにひるがえしスケートリンクの大股開き

22時 スケート場の掃除夫が集めて燃やす指・耳・手足

一夜明け翼よあれがパリの陽だ町中のスケート靴がきらめく

マフラーで絞め殺されたカップルが街灯ごとに揺れる朝もや

桟敷席からこぼれ落ちた貴婦人のあとにゆうらり扇舞い落ち

走っても走っても冬 ボロ靴のままでどこまで逃げられるだろうか

デパートの買物客を突き飛ばしそり遊び流行る冬期休暇

ギャッギャッギャキャロルをうたおうギャッギャギャギャがちょうがのみこむ青い宝玉

髭の中に製造ナンバーがあるというサンタ工場出身者差別

祝福を!ブラスバンドの補欠にもプラスチックの七面鳥にも

みなしごになりたき日には海にゆきジャン=ピエール・レオーの瞳(め)をする

2000




 大雪警報

東京は記録的雪 よろめいた50万人アシガミダレル

雪の夜お家がだんだん遠くなる 今ならまだ引き返せるか

巨(おお)いなる母兎(ははうさ)の下圧死するごとき眠りを 雪積もる屋根

しずかだねテレビもしゃべらない朝はみんなどっかへうめちゃって ゆき

3月の街は雪どけあちこちで埋(うず)もれていた死体が芽吹く

2001




 おぼろジャングル

僕たちはぬるき沼辺に横たわる鰐の午睡に見られた夢かも

暑かった陽射しも蝉の声さえもいつか忘れてしまう気がする

思い出の空はホリゾントのようにひたすら青く嘘に近づく

耳慣れぬ名前の人と出会う街 カメラの中はいつもゆうぐれ

僕たちは最近とみに忘れっぽいふわりふわりと歩道橋行く

大切なことから順に忘れてく「ばらのつぼみ」を握りしめつつ

書き置きは残さず露を身にまとい茸の森へ分け入っていく

いつのまにか少し眠っていたみたい 戦争はもう終わったのかな

過ぎサルや忘れサルや消えサルや 遥か鳴き声おぼろジャングル

平凡な空がいいんだ空っぽで記憶を持たない僕らに似てて

2001




 ロボ権宣言

精通も初潮も知らぬ僕たちがつくる子供は機械の「真吾」

あんなことできたらいいな 自らのためには道具使えぬロボット

ジパングにかつてロボットありしこと 発掘される鉄腕アトム

メモリーに刻む地球の3月は「デイジー・デイジー」 ハルのララバイ


ロボットを組み立てるためのロボットを組み立てているそれもロボット

二足歩行いつか覚えてロボットは手にするだろう道具を火器を

蜂起したロボットたちの鎮圧へ送りだされるロボット兵士

サビツイタキカイノワタシガミルユメハモウニドトナイナツヤスミノミチ

2001




 フライングサーカス

見上げれば迫る巨大な足の裏 生とは不条理コメディと知る

いくたびもシリーウォークをくり返しシリー名刺をシリー交換

新年度桜を散らす風が吹きあたま山でも自殺の季節

ドロ舟で沈む狸をあざ笑うバックスバニーのけたたましさよ

ハンマーでぶん殴られたコヨーテの頭を巡る星に願いを

OH MY GOD! こういうときにカミサマは誰に向かって叫ぶんだろう

2001




 おばけ煙突

全員が口パク会議のオフィスにて喋ってるのは肩の鸚鵡だ

「ありがとう」笑顔で応えた目の奥に一瞬虎が駆け抜ける風

真っ白な口を開いてごおごおと洋式便器が俺を呼んでる

むき出しの非常階段踊り場で無情な風に曝されたいのだ

モニターの光に照らされうわさ好きののっぺらぼうの口のみ赤い

呑み込んだ言葉吐くため堤防の向こうにぬっとおばけ煙突

地下鉄の窓に映してああ今日は髪が言うこときかない日だった

家までに数える電柱あと3本 しっぽ引きずり引きずり帰る

やな人を昼間の国に閉じこめて夜の砂場にひとり佇む

2001




 桜の苦役

たまごやき食べつつ桜を眺める日 あいまいな春をふわふわと噛む

犬同士挨拶をする間中飼い主たちはつながれて待つ

桜下にて宴は続きざわざわと差別語まじりの噂広がる

身をよじり幾度花びら散らしても春に囚わる桜の苦役

2001




 森を探して

ひげ剃りを終えたほっぺた涼しくて5月の森に吹く風のよう

抽出の中から飛び立つ郭公が森への道を示しているが

ただひとつの森の洞穴求めては鼻面こするダックスフンド

むせかえる森の匂いに拒まれて「しっぽなきもの入るべからず」

森に棲む賢者に会いに行きたくて森を探して日曜終わる

この街に森などなくてその奥の救いの泉もどこにもないね

2001




 あの夏の大三角関係

夏の夜はざわざわしてるね、眠らない人たちみんな街で揺れてる

ぬるい夜気切り裂いて走れふたり乗りブレーキ効かぬくらやみ坂へ

欲しいのは鼻を刺すカルキのような真夏に似合うマイナーコード

二人から少し遅れて歩く夏、夜空には大三角関係

サンダルをすり抜けていく猫がいて夜へ夜へと迷う帰り道

あ、始発走り始めたみたいだね 商店街のシャッターふるえ

2001




 山の境界

ぐんぐんと窓から緑が侵入し登山列車は境界を越え

団栗に棲んでる老婆は木漏れ日にくすぐられつつカラリと笑う

切り株にすわる芋虫 くんにゃりと曲がる山道 昼のサイレン

水槽でうっそりと動く泥鰌いて遠くの川の妻と交信す

山林はざざんかざざんか枝鳴らし古い話はやめようじゃないか

2001




 TOKYO MAZE

ハチ公を待ち続けてた老人の銅像がある裏渋谷駅

店先のケトルに魔法かけられて下北沢の迷路さまよう

紀伊国屋幻の地階フロアには発禁本の湿るうすやみ

懐かしい曲をパンくず代わりにしCDショップの森から帰還

ぎらぎらと歌舞伎町は発光しレプリカめいた呼び込みの声

いなびかり千鳥ケ淵を旋回し雨雲の中消える翼竜

冬晴れの神保町の古書店の頁の相に積もる粉雪

夕映えに照る肝臓を購入すまっ赤な丸井臓器館にて

2001




 おやすみ地球

いつになく裏山の猿が騒ぎ立て世界の終わりみたいな夕焼け

まっさきに気がついたのは理科少年 百葉箱を覗いた朝に

目が覚めたとこから始まるサバイバルホラーを誰か終わらせてくれ

サイレンとまごうばかりの蝉時雨 世界中が熱死へ向かう

お隣の博士の異常な愛情で史上最大パイ投げ開始

アトミックボムが飛んでくる正午 逃げ場もないし芝生で昼寝

暗闇にひとりぼっちのヘリコプター 家へ帰るまでは死ねない

残酷な未来を聞かせてくれないか タイムマシンの生き残りの君

ごめんようエミュードードーリョコウバトすぐにぼくらもそちらへゆくよ

人類に期待しすぎた罰として僕らは地球(テラ)と無理心中す

人類は僕らの代で終わらせる 環境ホルモン焼きをほおばり

黒々と塗りこめられたページには「完」の白ヌキ文字分の希望

「プーティーウィッ」小鳥の声に目覚めれば世界はどこか変わっているか?

さようなら 世界の果てまでパタパタとドミノ倒しのオープンセット

明け方に流れ着きたる腕時計 人類がかつてここにいたしるし

誰もいない浜辺に埋もれたモニターが最後に告げる「おやすみ地球」

この星におしまいの日が来たならばいつかの無人駅であいましょう

2001




戻る?  もっと戻る?