短歌
2009題詠blogより



 肉体関係

童貞の頃のノートに残る歌詞 カーラジオからスローバラード

守られているだけじゃもう足りなくてフェンス越えればはじめての海

植物のように尖った肩をして青年になる途中の君は

カタカナのあだ名だけしか知らないが会えばハグするような関係

エロビデオ返しに行こうふわふわと自転車をこぐ夜桜の道

『アメリカの鱒釣り』藤本和子訳 栞は春の水の匂いに

言い訳になるから黙ってたけど、ってあとで言うよな梅雨の戻りは

プールからあがったあとはすみれ色した唇で焼きそばを食う

CDの真中の穴に記録する音楽になる前の音楽

私たち相対的ね サイエンス気分でボート漕げば夏雲

暗幕の裏側の襞あかあかと鯨の中のピノキオ思う

カーソルが点滅してる夜だからクリックをしに家へおいでよ

片方の靴から小石取れるまで肩を貸してた冬のグランド

ヘッドホン片耳ずつを分け合っただけの肉体関係でした

妹のようにはうまくできないなまつり縫いとかめぐり逢いとか

春を待つ アパルトマンの貧乏な絵描きのように髭を伸ばして

2010.5




 完璧な帽子掛けに捧げる歌

退屈な冬よさよなら どの庭も魔法の絨毯ばたばたと干す

世界中寓意に満ちていた頃の飾り文字から伸びる蔓草

「ニンゲンのにおいがする」と森の主 人間であることは恥ずかし

菓子の家煮立つ大鍋ぐつぐつと絵本はカニバリズムにまみれ

理科教師原子模型を組み立てる色とりどりの恍惚のなか

『航空史』序章めくれば名も知れぬ墜落者たちこぼれる五月

黒幕は父親だった その日から少年の爪噛む癖続く

水玉のフレアスカート広がるをフィルムに残すロックンロール

昨夜観たゾンビの映画思いつつロゼを静かに注ぐソムリエ

すべるよに夏の陽を曳く散水車、お早う、子供たちよお早う

灼熱のバス停に立つ 手に提げたガルシアの首重さを増して

光化学スモッグ警報 校庭にアンドロイドのあの子を残し

見下ろせば海が妊娠してる夜、ああポニョ波が、波が高いよ

探偵に引退決意させたのはアポロ月面着陸の記事

地球にて稲垣足穂仮住まい横寺日記雪ヶ谷日記

ロンドンを熱狂させたミュージカル あの秋の日の童謡殺人

王冠を二つ戴く代償に脚を斬られる絵札のジャック

10月の晴れた朝には見えるというニコラ・テスラの電気帝国

秋暮れて水晶宮は焼け落ちる19世紀の指紋とともに

外套にきらめく氷粒を見てお客の橇の早さを思う

クリスマスツリー飾れよ 子供部屋から出られないビーチボーイズ

あのビルの群れは大きくなりすぎて冬を越せずに滅びた巨人

客人はもうないだろう岸辺からゆらり離れる最後のボート

死んで生きまた死んで生き本日も粗忽長屋に朝日が昇る

完璧な帽子掛けとして立っていた彼には助演男優賞を

2010.5




 常識なのよさ

常識をわきまえなさいと言う伯母よ 来月僕と結婚しよう

カタカナを二つに分ける腰掛けに適したものとそうじゃないもの

スミタさんかカクタさんかがわからない人の名刺がデスクの角に

歯車になりたくないと言う彼を職業差別と叱る歯車

今日もまたお昼休みのタモリから森田へ戻る遅めのランチ

パソコンをわからぬ女(ひと)が華麗なる三回転半クリック決める

紳士用トイレを示す→をたどって風の丘のまで来たが

ひと通り天体ショーも見終えたしさあ言い訳を聞かせてもらおう

後藤真希の弟という名に厭きてTATTOOを刻むゴマキの弟

すみっこで頬をぷくうとふくらませ嫉妬しているピノコなのよさ

教会のガラスを割って彼が来る 式次第にはない展開だ

鳩料理食べてこの街一番の正直者の座を奪われる

日曜もすでに夕方テレビにはアンガールズがゆらりと並ぶ

ゴミ箱をなぎ倒しつつUターン カーチェイスには片づけが要る

わさびとは知らずに食べてしまったか唸るサミュエル・L・ジャクソンは

アンコール津波のように広がってやがて世界に立つ救世主

逢えないと言われそのまま引き下がるような永世竜王じゃなし

女神問うお前の落とした秋刀魚とはぎんのさんまかきんのさんまか

暮れてゆく遠くの山を見ていれば動きはじめる 牛だったのか

いざというときは近所のコンビニで香典袋やコンドーム買う

アドレスを暖炉にくべる ありがとうみんなのおかげであたたまったよ

2010.5




 ラットたち

夜ふいに一頭の牛立てる耳 群れが暴走する五秒前

要するにみんなで縄をなうわけだ さいばんいんのつうちがとどく

意図のみがあって意志なき自販機が缶コーヒーを吐き出し続け

CMのおまけみたいな番組が地デジ対応テレビに映る

次々とパンフレットは広げられカラフルに咲く災害保険

プラタナス枯れゆくままに格差社会カクサシャカイと落ち葉踏みしめ

何の罰か逆バンジーを跳ばされる場面のさなか選挙速報

造反という言葉あり生醤油にわさびの山が崩されてゆく

ウィンドウに樹脂の天ぷらそそり立つ黄金の国ニッポンである

妊娠や堕胎のうわさ脱ぎ捨てて波打ち際を駆けるグラビア

コンビニの監視カメラが四方から映す男の倒れゆく様

人々を蝕む雨に煌めける広告塔の「強力わかもと」

炎天に臨界点を越えてゆくくるうくくるう鳩くる広場

あの頃は面白がって眺めてた尊師(グル)のマスクで踊る人たち

「救済のときはそこまできています」続きはWEBで  →[検索]

どうせならキスしたまんま死にたいな防毒マスクせーので外し

てっぺんでそのときを待ち密やかに避雷針らは指を広げる

白シャツを棒に結んで降伏す無防備なその素裸の胸

どこにでも挟むくちばし掲げつつドナルドダックが戦争に行く

ひだまりが口を塞ぎにやってくるオマエハイイコホントハイイコ

両の手で砂場を掘れば滲む水 宮崎勤死刑執行

目の粗い現場写真の片隅に非常階段冷えゆく手すり

密告に怯えて窓を閉ざせども運河の水が夜更けに匂う

(誰ですか)(帰してください)(わかりません)きのこ殖えゆく取り調べ室

懲役を終えた行く手を阻むもの どこへ消えたか切符切る人

ステーションホテルに月のかかるころ消毒済の便座は冷えて

たのしいゆめがこのままつづきますように電波に濡れる痩躯のタワー

3分後 壁に身体をぶつけ出す何のテストか知らぬラットは

どこまでも世界はまだらユニバーサル映画の地球ゆるく回れど

2010.5




 夢の遅さ

笑いがお夢の遅さでひるがえり水槽高くエイが横切る

少しずつ違う常識縒り合わせ親族たちは通夜に集うも

朝の日が差しこむようなふりをして補助線を引く春の裸身に

叔父さんの語り続ける色話いつもふわふわ杯を重ねて

誰からもランチ誘われない人が文庫を開く 夏の100冊

台風が房総沖を進むころ広口瓶に揺れる梅の実

磯辺にて岩を返せばくしゃくしゃと脚を動かす命の数多

うつむいて家路をたどる男らが銀の秋刀魚の目玉に映る

幼子の背丈ほどある唇が唇求む銀幕の上

電気にも音があります宙空に指挿し入れて鳴らすテルミン

デパートの最上階の食堂を浸すナポリタン色の夕焼け

溶液に腐食していく銅版画冬の木立の枝あたりから

猫戻る未明の夢の外側でミルク皿打つ春の雨垂れ

2010.5




 世界をちょっと

眠れない夜と眠くてたまらない真昼 どちらも半透明で

東京の空を行き交う赤蜻蛉 株式会社を(株)と略せば

整備中エスカレーターステップのすべてめくられ恥部見るごとし

着々と貯めたマイナスポイントと交換したいキカイのカラダ

クレバスを滑り落ちてく犬橇のように喉(のみど)へ消える銀冠

歯の型をとるため椅子にひとりきりピンクのかたまりを噛んでいる

坂道を上った先に建つ家を引っ越すときに下りた坂道

彼らには彼らの道があるのだろう上空歩む鳶職眩し

「半ドン」という語久しく耳にせず土曜の午後の薄れゆく空

家にいる時間少なし暗がりの食卓塩のはるけき白さ

一日の終わりのはじめ例えれば馬が厩舎に帰る頃合い

機を織る姿を見せぬ鶴のよに暗いところで回るCD

ウチだけの常識だったと後に知る 見てはいけない炬燵の光

母親をおふくろと呼ぶ恥ずかしさ未だ慣れずに次郎柿剥く

コンビーフ缶を開けば絵の牛の切り離された四肢のさびしさ

アドレスをいくつもたどりここに来たホームページに焚き火のあかり

Re:Re:Re:Re:と連なる長い口論のメールの起源たどる船旅

明け方の森の湿り気充ちる部屋 触角だけを震わせている

自慰終えて徐々に陽物萎む頃はるか彼方に咲くラフレシア

みんなみんな既婚者になっていく夜だ 電気毛布の取説を読む

クロールでUターンしてきた人の手をつかみそこねてしまう夢

読みかけの本をベンチに伏せるよに世界をちょっと休みたくなる

2010.5




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