太宰治論を読む - 奥野健男著2004年1月9日 元の本は1973年に文芸春秋社から刊行。 戦争中の太宰について、奥野健男は次のように書いている。 「文学年表などによって調べてもわかるように、日本の文学全体の傾向として、太平洋戦争中は目立って作品が少くなり、また芸術として自立し得るすぐれた作品はほとんど影をひそめている。戦争下の三年半は日本の文学が壊滅し停止してしまった空白の期間とさえ言うことができる。/ところが太宰治は、その三年半の間に、生涯の作品の三分の一にあたる分量の仕事をしている。しかも芸術的に充実度の高い、傑作をいくつも書いている。太宰にとって戦争期は、わき目もふらず自己の芸術的完成に専念できた猶予の期間であり、豊饒の時であったのだ。日本にこういう作家がいたということは、文学史上特筆されてよい事実である。」(223〜224ページ) 手元にある近代日本総合年表(岩波)から、太平洋戦争中(昭和16年12月8日〜昭和20年8月15日)の、昭和19年、20年の小説を抜き出してみる。 【昭和19年】 6作品のうち、3作品が太宰のものである。確かに太宰だけが、なのだ。太宰の何が、こういう結果をもたらすことになったのか。弱さがいつでも弱いわけではなく、強さがいつでも強いわけではない、という事実だけは知っておいたほうがいいように思える。いまだって私など、時代の動きに流されやすいから、太宰の戦時中の姿は追求に値する課題であるような気がする。
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