太宰治論を読む - 亀井勝一郎著2004年4月2日
『太宰治研究1/その文学』筑摩書房1978年6月15日所収 初出は昭和26年(1951年)12月。『人間失格』の主人公・葉蔵について、亀井勝一郎はこう書いている。 「『人間失格』を、どす黒い傷痕のやうに貫いてゐる一つの道があるが、それは逃亡の道と云つてよからう。葉蔵はまづ「家」に対して、「世間」に対して逃亡を試みる。女に対して、左翼に対して、云はゞ恋愛と革命に対して逃亡を試みる。つひには全人間に対して試みるだらう。しかもそのすべては彼の最も深く愛さうと欲したものではなかつたか。/逃亡の涯にあるものは云ふまでもなく「死」だ。しかし葉蔵は必ずしも死に脅かされてゐない。生に脅迫されつゞけてきた。「手記」はまさにそれを語つてゐるであらう。」 逃亡は、人間(世間)と直面することを回避しようとする、葉蔵の習性のようなものだったし、死は逃亡の延長と考えられていた。だから、「逃亡の道」は葉蔵にとって、たった一本の道だったのだと思う。 そして、亀井勝一郎の言うように、葉蔵は「死」ではなく「生」に脅迫され続けていたから、そんな「逃亡の道」を歩んでいくしかなかったのかもしれない。
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