太宰治論を読む - 松本健一著2005年8月8日 著者はこの本で、太宰治の「人らしい人になりたい」という想いが、戦前から戦後の時代状況の中で、太宰の生き方と文学にどう反映しているかを跡づけている。 初期においては自己の弱さのため、太宰は「人らしい人になりたい」という想いを、生き方としては「含羞(ハニカミ)」、文学としては「道化」として表現するしかなかったという。そして、「含羞(ハニカミ)」によって、「力」(世間、政治状況など)は相対化され、「道化」によって自己の弱さは弱いまま強さに転化する。 中期になると生活的にも安定し、「人らしい人になりたい」という想いを、「含羞(ハニカミ)」と「道化」を意識化することで「軽み」にまで昇華し、中期安定期の作品群が生み出されたとされる。 戦後の後期にはしかし、この「人らしい人になりたい」という想いそのものが放棄されてしまうという。 この本には、太宰の「人らしい人になりたい」という想いが、戦前、戦中、戦後という時代状況の中でどのように変遷していったか、またそのことによって時代がどう捉えられていったかが述べられていて、太宰の生き方と文学が、広々とした場所に置かれたという印象を受ける。
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