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 太宰治論を読む

高山秀三『蕩児の肖像/人間太宰治』

2005年11月4日 
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28 高山秀三『蕩児の肖像/人間太宰治』  津軽書房2004年7月20日
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すごく充実した読書体験だった。生前の太宰治を知る人の回想記や、太宰の作品から、太宰治の人間像を再構成した著作である。

著者の確かな人間理解に支えられた、類書にない読み応えのある大作で、太宰治のイメージが鮮明な像を結んでいるだけではなく、太宰の作品を解くカギをも与えてくれる。

たとえば、次のような記述には思わずうなってしまう。

「太宰治がその臆病な性格にもかかわらず辿った冒険的な、危険にみちた人生行路は、この生家のどっしりとした存在感への依存心が原因のひとつになっていた。貧しい小作農の苛酷な労働の上に成り立つ生家の富は、一面では太宰にとって負い目であり、その一生を覆っていた罪悪感の源泉のひとつであったが、その才華を十全に発揮して散っていった太宰の破天荒な文学的人生は生家の潤沢な財産の濫費を抜きにしてはありえなかった。」(38ページ)

「太宰治はトラブルがいくつか重なればほとんど死ぬしかないというほどに、現実的な問題処理能力が極度に欠けている人間であった。また、生来の資質か、それとも成育史上の欠落が原因なのか、ふつうよりもはるかに容易に生死の境目を越えることができる人間であった。生涯に何回も自殺(未遂)を繰り返したことは、非常に根深い、特異な資質を太宰が抱えこんでいたことを示している。」(131ページ)

「太宰の生育史を取り扱った研究は、母から愛されなかったことにその幼年期の問題を見て、そこから後年の作品の特徴を見ていく傾向が一般的である。しかし、現実の太宰の幼年期には、養育者が入れ替わったり別離が反復されたりする不幸はあったが、それでもほとんど一貫して非常に豊かな養育者の愛情があったこと、そしてそれが後年の太宰の作品が一面でもつ肯定的な、豊かな情感の源泉になっていることをここで強調しておきたい。」(278ページ)

「なによりも太宰をくつろがせたのは、父が亡くなり兄が早世したその家に太宰よりも年長の男性がいなかったということかもしれない。津島家のなかでも幼いときは父源右衛門を恐れ、父亡きあとは長兄文治の癇癖を恐れつづけてきた太宰は、父性的な存在がなによりも苦手だった。幼いときに叔母とその娘四人、さらに子守のたけと一つ部屋に寝起きしていたことから、太宰が最も闊達に振舞える環境とは、女性ばかりに囲まれたなかで唯一の男性として女性の関心を独占するハーレムふうの形式のものになっていた。」(313ページ)

引用し出したら、切りがなくなるほど随所に、はっとするような知見がちりばめられている。

著者は「あとがき」で、太宰治という作家の人間性に「無限の好感と関心を覚える」と書いているが、太宰に自己を重ね合わせるように語る著者の論述に、私もまた自己を重ね合わせるようにして読んだ。著者の資質が、太宰の人間と文学を掘り起こしているのだと思う。

そして著者と同じように、「太宰の生涯は、人間的な欠点や弱さ、どうしようもなさを抱えながら、それでも総体としては見事に生き、大きな仕事を果たした一生である。」(186ページ)という感懐を抱いて、この本を読み終えることができた。

太宰ファンには第一に薦めたい本である。


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