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 埋草コラム

2000.10.20
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映画『生れてはみたけれど』を読むように見る
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青木富夫著
『子役になってはみたけれど/小説突貫小僧一代記』(都市出版1998年)
という本を読んだ。
青木富夫さんは突貫小僧という名の子役で、
私の大好きな映画『生れてはみたけれど』
(小津安二郎監督、1932年松竹)
に主役格で出演していた人だ。

この映画、サイレント版なので、
当時は弁士が映画館で
セリフをしゃべっていたらしいが、
映画自体には音声がついていない。
いまこの映画(ビデオが出ています)を
音声なしで見ると、
映画をまるで読むように見ることになる。
普段見ている映画では味わえない体験だ。

この映画を見ていると、
音楽や声というものが、
いかに人を受身にするかが分かる。
サイレント映画はだから、
映像を積極的に
「読め!」と迫っているようなものだ。
それでエネルギーを集中して、
一生懸命見ることになる。

それにしても、
何度見ても笑ってしまう映画だ。
70年近くも前に作られたということが
信じられない。
1932年といえば昭和7年だが、
昭和初年の家族の姿として
想像していたものを、
見事にひっくり返してもくれる。

突貫小僧がものすごく面白い。
この映画から66年後に、
突貫小僧(青木富夫さん)は
さきほどの本を出すことになるのだが、
巻末に掲載されている
出演映画の本数を見て驚いた。
ざっと数えただけでも250本に上っている。
近いところでは竹中直人の、
『無能の人』(1991年)にも出ている。

私にとっては、
『生れてはみたけれど』の突貫小僧が、
突貫小僧のすべてであるのに、
突貫小僧にとって『生れてはみたけれど』は、
映画人生のほんのひとこまに過ぎないということが、
この本を読んでいるとよく分かる。
そんなことは当たり前のことだけれど、
そのような転倒した考えに
私はいつでもとらえられてしまう。

思い入れのある人や物事に、
バランスよく遠近法を使いこなすことは、
すごく難しいことだと思う。


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