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 埋草コラム

2002.8.9
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怖い話とトシをとること
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小さいころ見ていた、
ヒッチコック劇場というテレビドラマに、
ぞくぞくする怖い話がありました。
夏だから怖い話がないかと探していて、
そのことを思い出した。
ほんとに怖かったので、
いまでもよく覚えています。
こんな話でした。

『アメリカの都市に住んでいる若い夫婦が、
ある日、
前後不覚になるほど酔っ払ってしまう。
翌朝、
見知らぬ部屋で目を覚ますが、
何となく現実離れした雰囲気を感じとる。
食器や電気製品や家具がぜんぶ、
本物ではなくて模造品のようだ。

夫婦は不安になる。
食器棚の引き出しが開かないので、
思いっきり引っ張ると、
取っ手のついた表面の板だけが
はがれてしまう。
物を入れるようには作られていない。
部屋中のものが、
形だけでできている模造品だった。

夫婦は怯えて外に出るが、
人の気配はまったくなく、
無人の町が広がっている。
街路樹に寄りかかると、
木が倒れてしまう。
本物の木ではないのだ。
夫婦は本物のものが何もない、
無人の町をさまよい歩く。

空を見上げて逃げ惑う、
夫婦の映像に変わる。
夫婦は頭上からの、
大きな黒い影に追われている。
小さな女の子の笑い声。
「おじいちゃんが今朝
見つけてきてくれたの」と言う、
女の子の声が聞こえる。

女の子のおもちゃの町の中では、
身体が指ほどに小さくなった
夫婦が逃げ惑い、
それを捕まえようとしている
女の子の手の黒い影が、
二人の上に大きく覆い被さってくる。』

見慣れた部屋や町の風景がある日、
無機質の物に変わってしまうことの恐れ。
慣れ親しんでいた人がある日、
よそよそしい見知らぬ他人に
なってしまうことの恐怖。
そんな恐れの感情を喚起するものが、
このドラマにはあるような気がする。

こんな夢を見ることがある。
小さいころ住んでいた家に帰ると、
そこには見知らぬ人が住んでいて、
「あんたは誰なの?」という目付きで見る。
あるいは、
そこに住んでいる人は知っている人なのに、
なぜかよそよそしい振舞いを見せる。
こういう夢って怖いですね。

トシをとることに対する不安には、
もしかすると、
同じようなことを恐れる気持ちが、
ひそんでいるのではないかと
思うことがある。

トシをとるということは、
存在感が希薄になることではないのか。
老人になるということは、
目立たなくなることではないのか。
周囲の人があまり
注目しなくなることではないのか。

だったら、
周囲の人からよそよそしくされることで、
周囲の人や物をよそよそしく感じるように
なることかもしれない。
そしてそうなることをきっと、
恐れているのだと思う。

老人になってみなければ、
本当のところは
分からないのかもしれないが、
中年の自分のことを考えてみても、
目立たなくなるという実感はすでにあります。
元気のいい若者から見れば、
すでに存在自体が目立たないですし。

中年になるとだから、
社会的な地位や肩書きや、
いい車に乗っているとか
いい家に住んでいるとかいうことなどでしか、
その存在感を目立たせることが
できないのかもしれない。

社会的な地位や肩書きなどを
全部すてて、
「ただの人」としてみた場合、
残念ながら若さの方に
ミリョクがあるのは確かなようです。

それでも私など、
誰もがトシをとるけれど、
誰もが年寄りになるとは限らないなんて、
負け惜しみを言ったりしています。

怖い話を思い出しているうちに、
話が変な方にそれてしまいましたが、
このままにしておきます。
それではまた。

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