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 埋草コラム

2003.9.19
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小さな丸い光・馬鹿でかい消しゴム
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一体あれは何だったのかと思えるような、
不思議な感覚を体験したことがあります。

小学校低学年のころだったと思う。
家の近くの原っぱで、
いつものように一人で遊んでいたときのことです。
夕日がなぜか、
ちょうど10円玉くらいの大きさの、
たくさんの丸い光に分離して見えるのです。
着ている服にも、
赤や黄や緑などの丸い光となって、
水玉模様のようにいっぱい映っていました。
「お日様というのはたくさんの、
小さな丸い光でできているんだな」と、
そんな不思議な光景を平然と受け入れながら、
けれども強烈な孤独感を
味わっていたのを憶えています。

いまでも、そのときの感覚はよみがえってきます。
こんな感覚は個人的なもので、
人に伝えることなど不可能だと考えていました。

ところが、同じような体験を書いた本を読んで、
びっくりしたのと同時に何となく嬉しく感じました。

ドナ・ウィリアムズ著『自閉症だったわたしへ』
(河野万里子訳・新潮文庫)の中に、
作者がはじめて見た夢として、
次のような記述があるのがそれです。

「あたりは一面真っ白の世界。
何ひとつなく、どこまでも果てしなく白い世界。
そこをわたしが歩いている。
そしてわたしのまわりだけは、
明るいパステルカラーの丸がそこら中にいくつも浮かんで、
色とりどりにきらめいている。
そのきらめきの中を、わたしは通ってゆく。
きらめきもわたしの中を通ってゆく。(略)
わたしは、空中にはさまざまな丸が満ちていることを
発見した。じっと宙を見つめると、
その丸がたくさん現れる。
」(ゴシックは引用者)

言いたいことを、
ずっと的確に言ってもらったような気がします。
あのときの出来事は、
白昼夢を見ているようなことだったのだろうか。

2 

もう一つは、高校のころのことです。
やはり一人でいるときに、
理由もなく襲ってくる感覚です。
口の中に馬鹿でかい消しゴムが押し込まれ、
足首より先がどんどん身体から
離れていってしまうような感覚に襲われる。
そしてそのとき同時に、
不安をともなった焦燥感がやってくるのです。

やはり、同様な感覚が描かれている小説を読んで、
びっくりしたのと同時に安心もしました。

「「はあ、来るな」と思つてゐると
えたい(原文傍点)の知れない気持が起つて来る。
――これは此頃眠れない夜のお極まりのコースであつた。
変な気持は、電灯を消し眼をつぶつてゐる彼の眼の前へ、
物が盛に運動する気配を感じさせた。
膨大なものの気配が見るうちに裏返つて微塵程になる。
確かどこかで触つたことのあるやうな、
口へ含んだことのあるやうな運動である。
回転機のやうに絶えず廻つてゐるやうで、
寝てゐる自分の足の先あたりを想像すれば、
途方もなく遠方にあるやうな気持に
直ぐそれが捲き込まれてしまふ。

本などを読んでゐると時とすると
字が小さく見えて来ることがあるが、
その時の気持にすこし似てゐる。
ひどくなると一種の恐怖さへ伴つて来て
眼を閉いではゐられなくなる。」
(梶井基次郎「城のある町にて/昼と夜」、ゴシックは引用者)

そうなのです。この通りの感じなのです。

読書はこんなふうに、
自分だけの感覚だと思っていたことを、
より深く再体験させてくれることがあります。
同じような体験をした人がいるという、
そのことだけでも少しはほっとします。
こんな変な気持ち、自分だけだったら、
やっぱり寂しいものですし。

この二つの不思議な感覚、
短期間に何回か体験しただけで、
その後体験したことはありませんけれど、
一体あれは何だったのか、
ずっと気になっていることも確かです。


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