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 埋草コラム

2003.11.21
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私はミッキーマウスではない
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乗っている馬が突然暴れ出したら、
聖人でもただの人でも、
同じような反応を示すものだ、
そんな昔話を聞いたことがあります。
落馬しそうになれば、誰だって、
「ひえー」と叫んだり、
必死に馬にしがみついたり、
するしかないですね。

聖人だってただの人だって、
緊急事態になれば同じようなもので、
聖人らしく振舞うとか、
ただの人らしく振舞うとか、
そんなことはできないのかもしれない。
不利なのは聖人の方で、
みっともない格好をしたりすると、
聖人らしくないなんて言われちゃう。

この話を聞いて、
普段気取っていたって、
いざとなれば素地があらわれるものだという、
教訓なのだと思っていました。

ところが最近、
知人の女性から次のような話を聞いて、
いつもそうだとは限らないと知りました。

泊りがけでディズニーランドに、
家族四人で行ったときのこと。
遊び疲れて、暗い夜道を、
そばにあるホテルまで戻ってきた。

エレベーターに乗ると、
「よくいらっしゃいましたー」とか、
「楽しめましたかー」とか、
ミッキーマウスの声で
話しかけてくるのだそうです。
彼女も高揚した気分が、
まだ残っていたので、
「楽しかったよー」とか、
「まだ降りないよー」とか、
ミッキーの口調で応じていた。

ところが、中ほどまで昇ったとき、
突然、「どうしましたか!」と、
ミッキーのかわりに、
中年の男の声で呼びかけられた。
ミッキーになりきって、
ミッキーとの対話を楽しんでいた彼女は、
男の声の突然の侵入に、
何が起こったのか分からなかった。

幼稚園に通っている下の男の子が、
非常ベルを押してしまったらしいのです。

「なんでもありませんよー」と、
咄嗟に答えたけれど、
ミッキーの口調のままだった。
ミッキーから離れようとしても、
どうしても離れられない。
「どうかしましたか?」
「だいじょうぶですよー」
まだミッキーのまま。
「何かあったのですか?」
「すいません、間違えましたー」
まだミッキーのまま。

監視センターの人も、
もしかしたら本物のミッキーが
乗っているのかもしれないなんて、
一瞬思ったかもしれません。
でも、本物のミッキーなんているわけねーよと、
すぐ気がついた監視員は、
怪しい人物が乗っているのではないかと、
職業的な勘で気づいたようです
(誰でもそう思いますね)。

「あなたは誰ですか?」と、今度はちょっと、
詰問するような口調で聞いてくる。
それでもまだ、ミッキーのまま。
ご主人と子供たちは、
ただボーゼンとしているだけ。
妻や母がミッキーになったら、
誰だってボーゼンとしちゃいます。

「私はミッキーマウスではない」と分かっているのに、
ミッキーから離れることができない。
実に気の毒なことである。

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