太宰治が恐がった湯河原の不動明王

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太宰治が恐がった
              不動明王を見に湯河原に

                                                            2007.10.30UP

1 山岸外史『人間太宰治』で知る

太宰治が恐がったという、
不動明王の石像を見るために、
湯河原に行ってきました。

不動明王は左の祠の中
         (2007年10月25日撮影)

山岸外史は『人間太宰治』(1962年筑摩書房)で、
太宰が不動明王像を見て恐がったことに、
「異様なものを感じた」として、
次のように記している。

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 ある日、××園という湯河原の名所? にいったことがある。小さな梅林もあって、いちおうの小公園になっていた。腰掛茶屋などもあって小規模ながら名園? になっていた。そこで写真をとったり、酒を飲んだりしている間に、掛茶屋の主人が、この奥に不動の滝というのがあるからみていってくれといった。じつに小規模な庭園であった。何十歩か歩くと、もう庭はゆきづまった奥になっていて、そこに小さな滝があった。なるほど、その滝の、崖下の傍に不動像らしい七八十センチほどの石仏がたったまま、滝の飛沫をあびていた。ぼくは、近くまでいってその像をみたいと思って、小さな崖沿いに二十メートルばかり厚い落葉を音もなく踏んで歩いていってみると、鎌倉仏だというだけあって、なかなかいい出来であった。何年かまえの大暴風雨のときの崖崩れであらわれたものだという。その縁起は別として、たしかに鎌倉期のものに相違なく、眉、眼、鼻の彫りも雄渾で、姿も凛々しく落着きがあった。いい出来だとぼくは思った。
 「おい、太宰、なかなかいい出来じゃないか」

 ぼくは背後を振りかえった。太宰もそこまできていると、思っていたのである。

  ところが、太宰ははるか向うの庭園の小道のところにしょんぼりと立ってぼくを待っていた。
 「おい、案外、みられるよ。いい出来だ。ここまできてみないか」

 ぼくが大きな声で呼んだが、太宰は、ついにそこまでこなかった。仕方なく、ぼくはひとりでその石仏をみて引返えした。「どうしてみにこないのだネ」とぼくがいうと、太宰の答えはじつに振るっているものであった。
「山岸君、恐いのですよ。ぼくは、ああいうものは恐いのですよ」

  それは異様な言葉だった。ぼくはながいつきあいの間に、太宰に何回か異様なものを感じているが、このときの太宰にもやはり異様なものを感じた。〈恐い〉ぼくは「へえ」と思って、逆に驚いたものである。ぼくはそれきりなにもいわず、また、もとの掛茶屋の方に二人でひき返した。しかし、太宰は、こういうもの(注・原文は傍点)をたしかに子供のように恐れた(注・原文は傍点)ようである。
 (略)
 「君は、なにか悪いことをしているのじゃないのか」そういって太宰をみたとき、太宰はひと言も答えず口をもごもごさせていた。そして「恐いのですよ」と、またいった。

 (このとき撮った写真がある。なにかのとき編集者にもってゆかれたままになっているが、ぼくが酒であかい顔をしていて、その背後に太宰がすこしくしょんぼり(注・原文は傍点)として立っている写真である。それに、この日の実感がよくでている。)

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このときの写真が、
太宰の説明文つきで存在するらしい。
まず、その写真と説明文を探すことにした。
説明文はすぐ見つかったが、
写真が見つからない。

 

太宰の写真説明文

太宰治が不動明王像を見たのは、
昭和17年4月下旬頃のことだという(※1)

その日の実感がよくでていると、
山岸外史が記述している写真とは、
昭和17年5月16日発行の「芸術新聞」に、
次の太宰の一文とともに掲載されている
写真のことのようだ(※2)

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太宰治「ぼくの説明」(全文)

 背景は、湯河原、不動滝である。左隅に小さく、不動明王が見える。前方の人物は山岸外史、後方はぼくである。
              (『太宰治全集10巻』1990年筑摩書房版・所収)

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この「芸術新聞」は、
国会図書館にも所蔵されていないため、
太宰がしょんぼりと立っているという写真は
見ることができなかった。
残念! です。
どこかで見ることはできないだろうか。

 

3 湯河原に 

太宰治が恐がったという、
不動明王像をこの眼で見てみたい。

湯河原駅ホーム

2007年10月25日9時32分、
東京駅から熱海行きの東海道線に乗る。
11時21分、湯河原駅着。
そこからバスに揺られ、
20分で不動滝バス停に到着。
バスを降りるとすぐ、
不動滝入口の看板が見える。

入口から石段を、
少し上ったところに茶屋がある。
太宰と山岸外史はここで、
酒を飲んだのだろうか。

太宰と山岸はここで酒を?

奥に滝が見える。
滝から流れ出る小川に沿って進むと、
滝の手前に小さな橋がかかっている。
橋を渡ると、
滝の左にある不動明王まで行く道がある、
はずだが……。

あれ!?

立入禁止だ。
崩落の危険があるらしい。
不動明王の裏手の崖が、
危ないのだろうか。

ここからでは、
祠の中の不動明王像の表情が見えない。
困った、というより、どうしよう。

そうだ!

双眼鏡がある。
持ってきてよかった。
双眼鏡で表情を観察する。

不動明王というので、
猛々しい表情を想像していたが、
どちらかというと柔和な表情をしている。
恐がる太宰に、
「異様なものを感じた」と記している、
山岸外史の気持ちも分かるような気がする。

表情を見ることはできたが、
写真が撮れない。
    ・
    ・
しばらくすると、周りには人がいなくなった。

いまだ!

キョロキョロ、ドキドキしながら、
不動明王のあるところまで駆け上がって、パチリ。
挙動不審ですね。
すみません。

不動明王像

 

帰りに、湯河原駅近くの「小松庵」で食べた、
天ざるは美味しかった。

小松庵で天ざる

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※1:1999年筑摩書房版・太宰全集13巻の山内祥史氏作成の年譜による
※2:1990年筑摩書房版・太宰全集10巻の山内祥史氏の解説による


山岸外史『人間太宰治』は絶版ですが、サイト「日本の古本屋」で見つけることができるかもしれません(2007年10月30日現在: 多数あり)。
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