「伊勢屋の旦那」という人物

落語の世界では常連の人物です。商人の代表としてでてきます。伊勢屋しかないのかと思うくらいです。
大店の旦那といってもけして威張るタイプの人物ではありません。庶民的な旦那です。なにしろ真冬になると
火の用心のために夜回りをするのですが、昼間働いて疲れている奉公人を夜回りさせるのは気の毒だと
いって自分でやるというような性格です。でも少し愚痴っぽいところがありますね。旦那はお妾さんを囲って
いましてね。三軒長屋の真中の家に住まわせて居ります。隣は剣術指南の道場と。威勢の良いお兄さんの
家でしてね。竹刀の音がうるさいのと喧嘩が絶えないので
,お妾さんは気が休まらない。伊勢屋の旦那に苦情を言ったりしている始末。
でもこの旦那風流なところもあって、根岸に隠れ里をもっていて、定吉さんと二人で茶の湯などを楽しんで
いたりするのです。旦那は茶の湯など習ったことが無いのですが見よう見真似でやっている。
抹茶を使わないで
,青黄粉と椋の皮で泡立てて飲んでいるからお腹を壊したりしている。碁の趣味もありましてね、腕はへたときているので、碁かい所では相手がいない。同じ腕前の旦那の友達が
いましてね。へたはへたなりに楽しくやっているのですが
,待て待たないで喧嘩となってね、しばらくは碁も打てない始末。友達の旦那も同じ思いでしたが、ある雨の日に思いきってやってきた。待ちわびていたのは
伊勢屋の旦那も同じでしてね。では早速と碁の仕度をしたのはいいのですが。笠をかぶったままで
入ってきていたというような具合です。
店の番頭さんも隅には置けない人物で、旦那に隠れて芸者遊びなどをしている。桜の季節に花見ということで
舟遊びに出かける。知人に会うとまずいので、屋形船の障子を閉め切っての遊びであったが、暑くて
たまらずに、土手に上がってしまう。そこにくしくも旦那が来てしまった。旦那に見つかってしまってね、
ここで会ったが百年目ということに。
この店の若旦那はお決まりの遊び人でしてね、勘当も間近かという放蕩息子です。それでも、長男はなんとか
商売もでき、立ちまわりがいい。次男は派手な性格でして威勢の良い兄さん達と付き合っている。
三男はやっぱり堅実な性格に育っている。
こうなると三人の息子の誰に家督を継がせるべきなのか迷ってしまった旦那。息子達にある質問をして、どの
ように答えるかによって決めようとした。質問はこうだ。
「自分が死んだときに、どのような葬式をするのか?」である。
長男は、大勢の人達を呼んで御馳走をだしたりして世間に恥じないような葬式をだすという。莫大な費用を
使うという長男の答えに
,店を任せる気にはならない。次男の答えは、御輿や山車をだして、芸者衆や火消し組みなどの行列を作ったりするという案をだした。
これも心配になった旦那は、三男に希望を託す。
三男は、なるべく費用をかけないでやりたいという。人などは呼ばないでこっそりと葬式をだしてしまう。
棺おけの担ぎ人も雇うのはもったいないので、自分で担ぐという。一人では担げないと思った旦那は、片方を
自分で担ぐと言い出してしまう。ここまでけちることはないと思いますがね。
伊勢屋は多くの奉公人を抱えている。奉公人は男女とも独身である。所帯をもって店に通える身分になるには
かなりの年季が必要になる。通い番頭になると店の旦那よりも収入が多い場合もあったという。
男女が入り混じって働いている以上、恋愛感情は付き物ですよね。当然ながら店の風紀が乱れることになる
ので、旦那の女将さんなどは警戒をしている。新しい女性の奉公人がくるとなると大変だ。その人が美人だと
なると争奪戦が起こりかねないので気が気で無い。なるべく美人で無い奉公人を連れてくるなどの算段を
しているのである。
なにかと大変な伊勢屋の旦那の生活であった。