「定吉」という人物

三度のご飯より芝居をみるのが好きな丁稚さんである。お使いに出たときなどはかなっらずや芝居小屋に
寄り道をする。店の主人はこのことを承知しているが、定吉さんの芝居好きは治りそうもない。
ある時、紙縒りを作るようにいわれた定吉さん。半日たったころ、「定吉もう何本くらいできたのか?」と
聞かれた。そこで定吉さん。「三本です。」「何。百本まであと三本なのか。」「いえ、作ったのが三本です。」
というような怠け者の定吉さんです。
定吉さんが奉公する大店の若旦那も定吉によりをかけたくらいの芝居好きだった。この若旦那、例のごとく
放蕩息子ときてうる。芝居小屋に入り浸りの毎日を送っている。
いつものように、芝居をみてきた若旦那、大旦那に見つかって、おもいきり小言をいわれるが、聞く耳など
もっていようもない。お仕置きとして蔵の中に入れられた若旦那と定吉さん。反省するどころか、蔵にあった
衣装・小道具などを持ち出してきて、忠臣蔵の七段目をやりだす始末なのだ。
珍しく旦那のお供をすることになった定吉さん。どうやら宴席にいくようだ。
「定吉。今晩お前を連れてきたのは、宴席の御馳走を折詰めにして持って帰るためだからね。他の人達が
食べ残したものも詰めてくるのだよ。それにね、帰りには玄関によさそうな下駄があったら、履き替えて
くるんだ。わかったかい。定吉。」
旦那さんは、かなりのケチらしい。定吉さんは言いつけ通りに御馳走を折詰めにして、いくつも風呂敷に
いれていた。そこからは定吉の真骨頂を発揮する。なんと帰りにその風呂敷を見事に忘れてきてしまうのだ。
これに怒ったのか旦那は定吉さんを首にしてしまうのだ。
定吉さんは居酒屋に再就職をする。いわゆるウエイターになったのだ。こういうところは如才が無いのが
定吉さんのいいところだ。酒のみにからかわれる日々。ウエイター生活も楽ではないと思い、店の旦那に
謝って、元の丁稚に戻してもらった。そんな定吉も薮入りには両親のもとに帰ることができた。
親のほうの喜びたるや察するに余りある。もう前の晩から明日が早く来ないかとやきもきしている。
夜が白んでくると、玄関の前を掃除したり
,して待っている。そのうちに定吉さんが帰ってきた。男親はもう、顔をまともに見ることさえできない。感涙にむせんでいるというわけだ。男親はあやうく肺炎で
死にそうになった時に、心配して定吉さんが書いた手紙を何度も読んで治してしまったことがあった。
それからというもの、この手紙が男親の薬ということになった。
親というものは有難いものである。
大旦那にはお妾さんがいた。正妻はそれに気がついているが、男の甲斐性と黙認していたが、ある日、
とうとう我慢ができずに、旦那のお供をする定吉に小遣いを握らせて、お妾さんの家がどこにあるのか、
つきとめてくるように言われる。定吉は旦那からも口止め料を貰うことにもなり、ていよく立ちまわるのである。
大店には女中さんがたくさんいる。男の奉公人もたくさんいる。皆さん独身である。四十を過ぎてでもある。
当然ながら女中さんは気になって仕方が無い。夜中になるとよからぬ行為に走る者がいたりするので、
女中は二階に男性は一階に寝泊りしていた。
新しい女中さんが来てそれも美人だったりすると大変である。おかみ参は騒動が起きるのを嫌がって
警戒を強めたりする。
ある日、定吉さんが、おかみさんに呼ばれた。「口入屋」に行って新しい女中さんを探して連れてくるように
ということ。この話を聞いた男性の奉公人は喜び勇んだ。早速、定吉さんに、美人の女中を連れてくるように
いいつける。しかし、おかみさんは余り器量の良くない女中を連れて来いという。
そしてまたしても、双方からpこ使いをせしまるという抜け目の無さ。
相矛盾したいいつけにどちらにしたらいいか迷ってしまう。
いろいろな場面で活躍をする定吉さんでした。