「新幹線での光景」
ここは新幹線の中、外は日も落ちて、暗闇の中を走っている。乗客は静まり返っている。寝ている人もいた。
その車両には、やんちゃな男の子が乗っていた。彼はおとなしくしているような様子もなく、通路を走り回って
いた。そのうえに、シートの肩を叩いていったりするので、乗客たちは迷惑そうな様子を示していた。
最初は注意をしていた母親も、とうとうあきらめたのか、その内に注意することもせず、子供は執拗に
はしゃぎつづけるだけとなった。
周囲の客は誰も、子供に注意を与えるようなことはしなかった。傍観したままだ。
眠りを妨げられた女性も、怪訝な表情はみせるけれども、子供を放任している。
その車両の総意は、あきらかにNGであった。
通りがかった車掌に期待が寄せられたが、その車掌も通り過ぎていった。
社内にあきらめの空気が満ちてくる。
と、その時、高齢な男性が子供を抱きとめた。膝の上にのせて、あやし始めたのである。
そのうちに子供は抱かれながら眠ってしまった。
社内は静寂を取り戻したようだ。
男性は終点までの二時間の間、子供を抱いたままであった。
その間、母親は何をしていたのかは定かではない。
母親の態度は無責任であることは否めないが、乗客の態度をすぐに批判することはできないでしょう。
混んでいる社中で痴漢に襲われている女性を助けるのに躊躇したり、こわもての男性の暴力を傍観したり
したことは誰しも経験がありますから。
社中から外に出たときに、その男性は、こう言ったそうです。
「私は子供が嫌いなんですけど。」・・・・・・・・・と
子供はむやみに叱り付けてはいけない。まずは聞いてあげることが大切なのだと、言いたかったのでしょう。