
その子はイチバンの友だちだった。友だちという言葉では足りないほどの存在だったんだ。 彼に出会ったのは高校1年生の時。ボクたちは同じクラスだった。人見知りする性格のボクは、入学した頃はなかなかクラスメートと話すことができなかったんだけど、彼はそんなボクにとても自然に話しかけてきてくれた。それからの1年は、すごく楽しい1年になった。彼はずっとボクと一緒にいてくれたんだ。その姿はまるで頼りなくって危なっかしいボクにいつも付き添ってくれている保護者のようだった。彼はいつもボクの前を歩いてくれて、ボクが苦手なものやボクに悪い影響を与えるものは、先に排除してくれた。それにいろんなコトを教えてくれた。ボクがふざけてカバンをぺちゃんこにした時も、すごく怒られたし、女の子を呼び捨てにしてると、女の子は「さん」をつけて呼ばなきゃいけないって怒られた。 そんな彼とも、大学に入った時点で会えなくなった。彼は大阪の大学に行ってしまったんだ。彼は大学院に進んだから、6年間彼とは会わなかった。でも、就職してから思いがけずに再会して、また以前のような友だちづきあいが始まった。 ボクが結婚してからも、ケンカしたりすると駆けつけてくれたし、いつもボクの味方をしてくれた。離婚する前の年の大晦日、ボクがひとりでいることを知って、夫婦で駆けつけてくれて、一緒に年を越してくれた。いつも迷惑ばかりかけてたのに、彼はこんなボクのことを「優しくていい子」と言ってくれた。ただわがままなだけのボクにそう言ってくれたんだ。たまに夫婦でボクの会社に遊びに来てくれて、ボクが働いてる姿を見て、「すごく楽しそうに働いてる」ってほめてくれたりもした。 ボクはボクで、そんな彼のことが大好きで、ずっと友だちでいられることに何の疑いも持ってなかった。でも、それは間違いだったんだ...。 ある年の夏の日。彼は二度と会えない人になってしまった。誰にも予想できない突然の出来事だった。彼は自分で死を選んだんだ。誰にも相談せずに。人の死はつらくて、さみしくて、この人だからつらい、この人だからつらくないっていう違いはないけれど、あんなに悲しくて、あんなに泣いたお葬式は初めてだった。あんまりボロボロになってるボクを見て、友だちが教えてくれた。「人は生まれつき神様に使命をもらってるんだよ。まわりの人を幸せにするっていう使命をね。彼は一生分まわりの人を幸せにしたんだよ。だから神様に、もういいからおいで、って呼ばれて行っちゃったんだよ。」って。確かにそのとおりだった。彼はホントにすごくいい子で、彼のまわりにいる人たちはとても幸せになれたんだ。ボクもそのうちのひとりだった。 生きてる間ずっと、あまり自分のことを考えずに人のことばかり考えていた彼。きっとこれからはいっぱい神様に大切にしてもらえると思うんだ。天国で幸せに暮らして欲しいな。
『遠くの君へ』 15年前、危なっかしくって頼りなくって、君がいないと何もできなかった、何も決められなかったボクも、いつの間にかちょっとだけ大人になって、いろいろひとりでできるようになったよ。でもね、何かつらいことがあったり、迷ったりすると、空を見上げて君に相談するクセはなおらないよ。君が大切にしていたドラえもんのネクタイ、ボクがもらったんだ。仕事がうまくいかない時、負けそうになった時、あのネクタイをしめるんだ。君がほめてくれたボクにもどれるように。そっちの暮らしはどう?ボクはなんとかがんばって生きてるよ。だから、ずっと見守っててね。