以前、韓国において現存する最古の棋譜は1886年、金玉均の対本因坊(土屋)秀栄戦である…という話を紹介しました。さて、金玉均が母国で当時身をもって体験していたとは、いかなるものだったのでしょうか?

囲碁の歴史の本を読むと、『中国で生まれた囲碁であるが、その発展を見たのは日本においてである。本因坊算砂らによってそれまであらかじめ星などに配置されていた石が取り除かれたことにより、布石理論が革命的な飛躍を遂げたからである』云々という文章をみかけます。そうです、碁はその原点において、まっさらな碁盤の上で対局されていたわけではなく、黒と白が互いに星などに石を置き合い、ある程度盤を狭めてから、対局が始まっていたのです。朝鮮半島においては、この「あらかじめ星などに石を配置した」碁こそが、20世紀に至るまでのに他なりませんでした。この碁を(スンジャ・パドゥ「巡将碁」)と呼びます。さて、そこでは一体どのような碁が展開されていたのか?といいますと…

「あ、これ知ってます。日蓮対吉祥丸でしょ」
違います(?)。下の棋譜(92手まで)は、1927年、(ユン・キョムン、白番、当時の国手だそうです)と (ソン・ドゥジュン、黒番、若手の挑戦者とのこと) の間で打たれた1局、なんと金玉均の棋譜からさらに下ること40年、これがなんと巡将碁の現存する最古の棋譜なのだそうです。

(1)
(1-92)



この碁は互先のようですが、ご覧のように、白が自由に第一着を打ちます。「自由に」というのも、石を隅・辺にそれぞれ置き合った後、黒が天元を占める手を第一着としている棋譜もあるようなのですが、恐らくこの天元打ちは、いわゆる「お約束」であり、暦学、北極星の発想に基づいた必勝の手ではなく、ましてや顔面土色にしてわななく手で必死にキセルを抑えつつ打つような背水の手ではないであろうからです(?)。当然ながら中央からゴリバキビキボリ戦いの連続、きっと金玉均も強腕で犬養毅などの棋客をてんてこ舞いさせていたことでしょう。


悲しいビットマップイメージによるハングル囲碁用語講座』、第11回『布石総ざらい』


《今回の単語》
1 若しくは
コバヤシ・リュー
ソリ・ニュー
小林流
2 スチェ・ニュー 秀策流
3 若しくは
ミニ・チュ・ポソ
ミニ・チュ・ニュー
ミニ中国流
4 若しくは
チュ・ポソ
チュ・ニュー
中国流
5 ヒャ・ソモ 向かい小目
6 テガソン・ポソ タスキ型布石
7 ワカレ
8   ス・ナヌギ 手割り
9 マッボギ 見合い



○●
あるとき、講座の題材を求めて色々な韓国の囲碁のページを巡っていたところ、某布石紹介のコーナーでこのような文字に出会いました。



「ソリニュー・ポソ」: 「ポソク」は布石ですが、ソリニュー(本来は「ソリム」+「リュー」なのですが、くっついて発音されるとこうなります)とはなんぞや?「ソリム、ショリム、ショリン、ショーリン?少林最高オウイェー♪?」と某映画の一シーンが浮かんだところでようやくこれが「小林流」の韓国風音読みであることに気が付きました。大体の場合はしっかり

 「コバヤシ・リュー」

と書いてあるのですが、中にはこのようにすでに言葉として「韓国化」してしまっている場合もあるようです。さすがは小林光一というべきでしょうか。…といえば触れないわけにいかないのが「秀策流」。こちらは歴史の重みというべきか、

「スチェ・ニュー(要するに「秀策流」の韓国風音読み、発音に注意)」

という言い方が一般化しているようで、

「シューサク・リュー」

という言い方を凌駕している模様。さて、この他の布石はどのようにいうのでしょうか。

 「サ・ヨンソ 三連星」
 「ヤ・ファジョ ニ連星(両花点)」

あたりは以前出てきましたが、折角ですから

○●
「ウジュリュー 宇宙流」

も覚えておきましょう。そのまんまですね。



○●
今大流行の布石といえばミニ中国流。こちらは

「ミニ・チュ・ポソ ミニ中国式布石」
もしくは日本同様
「ミニ・チュニュー(発音に注意)」

と呼ばれているようです。…というわけで、中国流はこれらから「ミニ」を取り去り…

「チュグクシク・ポソク」もしくは
「チュニュー」

といいます。これに「高い」「低い」をつければもう完璧。

  「ノプン・チュニュー 高い中国流」
  「ナチュン・チュニュー 低い中国流」


○●
小目の布石も見ておきましょう。 「スチェ・ニュー」

を先ほど見ましたが、他にも勿論

「ヒャ・ソモ (「向小目」の韓国風音読み)」⇒⇒向かい小目

や、

 「マジュボヌン・ソモ(『向かい合う小目』の意)」⇒⇒ケンカ小目

○● タスキ小目

 「テガ・ソモ 『対角小目』」

などもあります。タスキは小目だけには限りませんから、

()「テガソン・ポジン 対角線布陣(布石)」⇒⇒タスキ型布石

なども忘れるわけにはいきませんね。


○●
その他になると、 「ヤ・サ 両三々」 

 「ヤ・ウェモ 両目外し

などもうマニアックなものばかりですが、今だと

 (  )(21) 
「ウ・チウィエン(若しくは『オ・チョウォン』) イシピセギ・シンポソ 呉清源21世紀の新布石」
あたりが流行の先端?でしょうか。



○●
この他、布石に関する言葉を学びつつ会話・文章の例文などみてみましょう。以下は例によって徐さんに教えていただきました。

   ?


「イ・キョクァヌン・オヌッチョギ・チョウッカヨ? このワカレはどちらがいいでしょうか?」

「結果」
どちら
「側・方」

ここでは、「ワカレ」という言葉に「結果」という言葉を宛てています。「ワカレ」には、「カリダ 分かれる」という動詞から派生した「カリム」という言葉もあり、

 「ホガゲ・カリム 互角のワカレ」

というように使うことができます。次はどうでしょうか。

  .
「シリワ・セリョグロ・ナヌィオンネヨ 実利と勢力のワカレですね(直訳:『実利と勢力に分かれましたね』。」

こちらは「ナヌダ 分かれる・割られる」という動詞を用いたなかなかハイレベルな例文でした。
ちなみに、この「ナヌイダ」を自動詞にすると「 ナヌダ 分ける」となるのですが、こちらの動詞をさらに名詞化して…

  「ス(手)・ナヌギ」
とすると、「手割り」の意味になります。



○●

ちょいと戻って、「このワカレはどちらがよいでしょうか?」に対する答えを見てみましょう。折角前回形容詞を見たことですから、ここで利用しない手はありません。

   「ムロン・ペギ・チョッスニダ 勿論白がよいでしょう。」
  「フギ・グェロクニョ 黒がつらいでしょう。」

なんだか「グェロクニョ」といわれると本当に「ウェ〜〜本当につらい」という感じですね。


○●
先に「ッチョ 側・方」なる言葉がチラリと出てきましたが、これを使って…

         .
「フギ・ヤッチョグ・モドゥ・トゥオソ・フギ・ウセラゴ・セガッカニダ 黒が両方を打って、黒が優勢だと思います。」

というのも「序盤らしい」表現です。また「…ラゴ・セガッカニダ …だと思います」なる表現はなかなか応用が利くのではないでしょうか。
両方
「優勢」
「センガッカダ 思う」


○●
さて、日本にあって韓国にない用語…というのも勿論存在します。例えば日本では「手どまり」という言葉を使いますが、韓国語の場合は
    
「イゴッシ・マジマ・ナムン・クン・ゴッ ここが最後に残った大場。」

のように言うそうです。
最後
残る


○●
布石の用語も掘り下げればきりがありませんが、最後に序盤に必須の「見合い」を採り上げておきましょう。こちらは…

 「マッボギ」

といいます。「マッタ」とは「待ったをする」ではなくて「合う」という意味、単に!「マッジャ!」というと「そう、その通り!」の意だそうですが、を取り出して言葉の頭につけると「相…、互い…」という言葉を作ります。既に
 「マッ・パドゥ 互い先の碁」

という言葉が出てきましたが、先ほど見た

  「マジュボヌン・ソモ ケンカ小目」

の「マジュ」もこの仲間でしょうか。この他にも

 「マッ・クヌ 切り違い」

という言葉があります。これはまたどこかで紹介することにしましょう。以下は使用例です。

AB  .

「AワBヌン・カッカ・マッボギ AとBはそれぞれ見合い。」

「各々」


そういえば、日本の囲碁の本では、「見合い」という言葉を紹介する段には必ずといっていいほど「『見合い』といっても、『本日はお日柄もよく…』のアレではありません」という冗談がついてまわりますが、韓国においては『囲碁じゃない方の見合い』は「マッソン」または単に「ソン」というのだそうで、残念ながらこのギャグは通用しないようです。ちなみに以前某碁会所で

「いや〜、序盤ってのは難しいな。ドン・ジョバンニだ」

というお言葉を拝聴し妙に感銘を受けたことがありましたが、果たしてこれが韓国で通じるかどうかは定かではありません。


とバカな話はともかく、これで布石は一段落です。次回は、定石変化を見つつ、復習をかねて石の形についての単語を学んでみることにしましょう。

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