『迷亭君、君の碁は乱暴だよ。そんな所へ這入ってくる法はない』
『禅坊主の碁にはこんな法はないかも知れないが、本因坊の流儀じゃ、あるんだから仕方ないさ』…

このような文章が『我輩は猫である』に加えられたのは1906年のこと。当時、『本因坊の流儀』を守るべく当主の座にあったのは本因坊秀栄でした。1887年に本因坊を再襲名して以来、年を経るごとにその技を深めていった晩成の名人にも、この時代、死の影が静かに訪れてようとしていました。その健康はすぐれず、床に伏す時間も多くなり、特にこの1906年に名人位に上がったこともあり正式な手合を打つこともなくなっていました。
そしてこの時代、秀栄に継ぐ力量を誇り、坊門の跡目最有力候補であったのが、皆様ご存知の通り田村保寿、後の本因坊秀哉です。
保寿は最初から坊門に身を置いていたわけではありません。若き日の彼は村瀬秀甫が創設した方円社で腕を磨き、将来を嘱望される存在でした。ところが、幇間的な囲碁打ち稼業に嫌気が指して、17歳の時に方円社を飛び出して囲碁を捨て去り、商売の道に実を投じた、とは若く熱い血のなせる技か。
しかし、囲碁の歴史にとっては全く幸いなことに、その企ては失敗に終わります。逃れられぬ運命を感じ取ったか、彼は再び囲碁の道に戻ることを決心しました。とはいえ、自分から蹴り、除名までされてしまった方円社にはもう戻れない、それなら本因坊家に入門を申し込むしかない…しかしどうやって?

そんな時に、口添え役を買って出たのが、前回触れた金玉均であった、といいます。勿論秀栄が以前から保寿の才能を認めていたこともあるのでしょうが、とにもかくにも金玉均の公式な仲介のおかげで保寿は無事坊門にその活動の場を見出すことが出来、後の名人に向かう道への新たなる第一歩を踏み出すことができた、というわけです。

このように、「民族初の棋譜」と併せ囲碁史に重要な足跡を残した金玉均。しかし彼はあくまで政治家であり、祖国を想う運動家でした。1894年、彼は「岩田周作」として10年近くを過ごした日本を離れ、新たなる動きを求めて上海に渡り、…当地で李朝の刺客の放った凶弾の前に倒れました。享年43歳。

悲しいビットマップイメージによるハングル囲碁用語講座』
第5回『碁を打つからには石を取ろう!その3:大石を取る前夜』


《今回の単語》
1 ッサウ 戦い
2 チミ 打ち込み
3 チュグ 死に
4 トゥリョダボ ノゾキ
5 イウ ツギ
6 ックヌ キリ
7 ツブレ
8 ギョ 攻撃
9 コンマ 弱石
10 テマ 大石


○●
前回は小さな石を取る用語を覚えたので、今回からはグレードアップして大石取りに挑戦です…が、少し寄り道をしてまずはそこに至るまでの過程、いわゆる差手争いの段階から見てみることにしましょう。

○●
さて、往々にして盤上の「戦い」「ッサウ」はいきなり、ひょんなことから始まるものです。

『迷亭君、君の碁は乱暴だよ。そんな所へ打ち込む法はない』
⇒⇒(打ち込み)「チミ 侵入」


○●
『禅坊主の碁にはこんな法はないかも知れないが、本因坊の流儀じゃ、あるんだから仕方ないさ』
『然し死ぬばかりだぜ』

⇒⇒
(死ぬ) 「チュタ」
(死に) 「チュグ

(このように、多くの場合には「ム」もしくは「ウム」を動詞の基本形につけることで名詞型を得ることができます。先ほどという言葉がありましたが、これも「ッサウダ 争う」という動詞から来ています)


○●
『臣死をだも辞せず、況んや肩をやと、一つ、こうノゾイてみるかな』

⇒⇒
(ノゾく) 「トゥリョダボダ」
(ノゾキ) 「トゥリョダボ


   

○●
『そう御出になったと、よろしい。薫風南より来って、殿閣微涼を生ず。こう、ついで置けば大丈夫なものだ』

⇒⇒
(ツグ) 「イッタ」
(ツギ) 「イウ

○●
『おや、ついだのはさすがにえらい。まさか、つぐ気遣はなかろうと思った。ついで、くりゃるな八幡鐘をと、こうやったら、どうするかね』
『どうするも、こうするもないさ。一剣天に倚って寒し−ええ、面倒だ。思い切って、切ってしまえ』

⇒⇒
(キル) 「ックンタ」
(キリ) 「ックヌ

○●
『やや、大変々々。そこを切られちゃツブレてしまう。おい冗談じゃない。一寸待った』

⇒⇒
(ツブレる) 「マ・ハダ (「マン」は「亡」という漢字、「ハダ」は日本語の「する」という動詞に当たる)」
(ツブレ) 「マ


(「我輩は猫である」より一部都合よく改変)

○●
どうやら迷亭先生、独仙禅師の「攻撃」
「コギョ
の前にタジタジの由。弱石を抱えておおわらわです。弱石のことは
「コンマ」
といいます。「コンマッたなー」…ではオヤジギャグですが、実際のところ「困馬」という漢字を当てます。当然ながら、ここでは石を「馬」に例えているわけですが、この路線を推し進めると?
「テマ 大馬」
「大石」、また
「ミセマ 未生馬…未だに生きていない石」
という単語に出会うことになります。さあ、迷亭先生のの運命や、いかに?

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