上の図に示すように、気管の背側(U字型の上の部分)は膜状の気管筋でおおわれ、個々の軟骨は靭帯で結ばれています。 このような気管軟骨と膜状の壁によって、頚がどんな動きをしても空気の通り道が保たれるようなつくりになっています。 しかし、なんらかの原因で気管軟骨がゆがんだり、背側の膜状の壁が垂れ下がったりして、気管が扁平に押しつぶされる こととがあります。 すると空気の流れが妨げられ、呼吸に障害が生じます。 このような状態が『気管虚脱』という病気です。 気管が押しつぶされる原因は、まだよくわかっていませんが、極小型犬種やストップがつまった短頭犬種に多くみられる ことから、ひとつには遺伝的な要因が考えられています。 また、肥満した犬に多くみられることから、これも原因の一つと考えられています。 さらに、幼犬の頃から頭をのけぞらせて激しく吠える習慣があったり、ショードッグのように頚を吊り上げる姿勢を頻繁 にとる犬では、中高年齢以降に気管虚脱になりやすいといわれています。 【特徴的な症状】 軽症の頃は、運動したり興奮したりしたあと、あるいは水を飲んだり食餌をしたあとに咳の発作が現れます。 咳は『グゥーッ、グゥーッ』あるいは『ゲーッゲーッ』といったアヒルの鳴き声に似た乾性のもので、発作は短いもので 数秒、長いものでは15分ほど続きます。 軽症では、発作がおさまればケロッと元気になりますが、病状が進むと発作が長引くようになり、呼吸困難が激しくなり、 舌を出してよだれをたらしたりする症状がみられたりします。 さらに悪化すると、酸素不足から舌や歯肉が青紫色に変わるチアノーゼを呈するようになり、失神することもあります。 気管虚脱は進行すると、呼吸困難から死亡することもあります。 重症化してからでは治療も難しいため、軽症のうちから生活習慣に注意し、必要ならば早めに治療を開始することが重要 です。 【診断と治療】 臨床症状・触診・聴診によっておおよその診断がつきますが、レントゲン撮影で気管の変形が認めることにより診断が 確定します。 気管虚脱は慢性的に進行し、完治させるのが難しい病気です。 しかし、失神やチアノーゼを起こしたことのない軽症〜中等症では、日常生活の注意や薬の使用で症状を緩和し、進行を 抑えることができます。 日常生活で気をつける点は、 1. 肥満の解消(食餌療法など) 2. 喉の圧迫を避ける(散歩の時は首輪ではなくハーネスを使用する、見上げて激しく吠える習慣をやめさせるなど) 3. 暑さの回避(夏期はエアコンを使用するなど) 4. 過度のストレスの回避(興奮するようなことは避け、ふだんはケージ内で静かにすごさせるなど) 咳の症状を緩和するには、気管支拡張剤・鎮咳剤・抗炎症剤・強心剤・抗生物質などの<薬が用いられます。 チアノーゼ・呼吸困難・発熱があるような場合には、これらの薬に加えて、輸液や利尿剤の投与が行われたりします。 冷却酸素の吸入が有効な場合もあります。 病状がかなり重い場合には手術が行われることもあります。 手術は、頚部を切開し、つぶれた気管をプラスチックのリングでまいたり、ステンレスのスプリングを入れる等して 気管を補強する方法が行われますが、一時的にはよくなっても長期的には再悪化することが多く、確実な治療法では ないといわれています。 【軟口蓋垂過長】 気管虚脱は、中高年齢以降に発症する病気ですが、若い犬でも喉を押さえるとグウッっという音が出たり、いびき をかいたりするような犬が、軽度の気管虚脱と同様の症状を呈することがあります。 これは軟口蓋垂過長によるものと考えられます。 軟口蓋垂とは、人間で言うとのどちんこがぶらさがっている部分にあたり、この部分が生まれつき長く喉の方へ垂れ 下がって気道を狭くしているために、この狭くなった気道に空気が通ると、垂れ下がった部分がブルブル震えて音が (グウッという音やいびき音)が出るのです。 ブルドッグ等のストップが非常に短い犬ではよくみられるものです。 あまり呼吸困難がひどい場合には、長く垂れ下がった部分を切除する手術が行われることもありますが、基本的には 日常生活習慣上、気管虚脱と同様の点に注意して過ごさせていれば問題ありません。 ただし、軟口蓋垂過長には先天的に心臓弁膜症を合併する確率がやや高いと報告されているため、心臓のチェックは 定期的に行ったほうがよいとされています。 |