「はじめの一歩」の魅力とは


 20世紀末〜21世紀初頭を代表するボクシング漫画の一つとして、すっかり定評を得ている「はじめの一歩」。
 高度経済成長時代には「あしたのジョー」が絶大な人気を誇り、その後、ボクシング漫画を書こうとする人、あるいは、ボクシングを始めようとする人に少なからず影響を与えていた…らしい(←当時はまだ私は子どもだったのでよくわからなかった。まあ、名前くらいは知っていたが)が、もはや、このマンガは「ジョー」と並び称される位置に到達したと断言しても良かろう。
 「一歩」の魅力については、kaz8の一言コラムでも細かく検証していくことになるであろうが、このコーナーでは、その中でも特徴的なものをあげておこう

 ・リアルさ

 これは作者である森川先生の勉強熱心さによるところが大きい。と、同時に、彼が「友達づくりの名人」で、辰吉丈一郎やら高橋ナオト(元日本フェザー級王者。現在はボクシングジム会長)やら、ボクサーの友人・知人をたくさん持っていることも、リアルさの実現に寄与している。リアルなパンチの姿を描くために、スチール写真ではなくビデオを参考にしたり、知り合いのボクサーを呼んで目の前でシャドーをさせて絵を描いたり、しまいにはセコンドとしてリングにまでたってしまうほど(マンガのため、というだけではないにせよ、ボクシングジムのオーナーにまでなってしまったぐらい)…これだけ徹底的に取材を重ねている作者なのだから、リアルなストーリーが描けて何ら不思議はない。
 もっとも、私は本格的にボクシングを学んだことがないので、ここでいう「リアル」というものの尺度は、テレビや新聞や雑誌で仕入れたボクシング情報によるものである、ということを追記しておく

 ・設定のユニークさ

 この手のボクシング漫画でありがちなのは
    ・不良がボクシングで更生する
    ・親がボクシングをやっていて、自然にやりはじめた、あるいは親の果たせなかった夢を果たす
   という主人公の設定である。
 確かに、昔は不良で今ボクサーとか、2世ボクサーというのはそんなに不自然な設定ではない。現に「一歩」にもこのタイプのボクサーはいる
   (不良上がり:鷹村、木村、青木、間柴、千堂・・・他たくさん
       2世:宮田)

 ところが、である、この中で、主人公・幕之内一歩(←すげー名前だよな(^_^;;;)だけはこのいずれのパターンでもない。
 むしろ、ボクシングを始めるまでは、運動音痴、というほどまでのことはなかったが(←あったかな(^_^;;;)、いじめられっこであんまり目立ったところはなかったいわゆる「ぱっとしないただの高校生」。
 隠れていた才能はあったものの(これがないことには始まらない)それを激しい練習で、徐々に開花させていく、という点がかなり希有なパターンである。一歩は、マンガの主人公としてはめずらしいほど、実にフツーの人なのだ。
 特筆すべき点は、この「徐々に」という点。一歩は笑えるほど(笑ってはいけないんだろうけど・・・)不器用で、なかなか劇的には成長しないものの、ジムの会長である鴨川源二の的確な指導やジムメイトのアドバイスで1つ1つ課題を克服して、はじめの一歩、次の一歩・・・と丁寧に伝説のボクサーへの階段を昇っていくのだ。
 これ、簡単にいうけれど、この過程を読者を引きつけるように書けなければ途中で連載打ち切りになるわけで(そんな漫画なら世の中にごまんとあります)相当難しい。冗長になることをさけるために、陰で練習を積ませていつのまにやら成長させてしまう手抜きの漫画も少なくない。
 その中で、主人公を段階的に成長させて日本王者になるまで30巻。世界王者になるまでには100巻かかるのでは?と思わせるほど丁寧な物語作りをしながら、読者を飽きさせない・・・という森田先生の技量は、実に素晴らしい。そうそう誰にも真似のできることではない、と思われるが、いかがであろうか。

 負けさせ方

 たいてい、物語の主人公とは負け知らず、ということが多いのであるが一歩もまあ、まずほとんど負けない。2002年12月現在、一歩の戦績は19戦18勝(18KO)1敗。日本フェザー級王者を6度防衛中で国内に敵なし、と言われるところまで成長してきた。
 問題は、この19戦のキャリアの中での1敗。これがミソなのだ。
 これは「一歩」だけではなく、「ジョー」でも(力石戦での敗北)ポイントになったところではあるが、いかに主人公を負けさせるか・・・これは難しい。これに成功すれは、その漫画はほぼ後世に語り継がれる名作になれるであろうが、中にはそれに失敗して・・・そのまま連載打ち切りに なった例もなきにしもあらず。
 これに成功したというだけで、もう「一歩」は歴史に名を残す漫画になったことは間違いない。


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