木管三都物語に寄せて

御来場深謝

なんと、ロマンティックなタイトルでしょう。

神戸、京都、金沢?紅葉?

すてきですわ。

上品ですわ。

ありがとうございます。

きっと、予想と違う所も、少々(後半全体)あるかと思います。あらかじめお詫び申し上げます。

今夜の前半のマジメで美しく格調高いコーナーは、音楽史3つの都市にまつわる作品を、三本の木管楽器で、しかも都内「御三家」交響楽団(N、読、都)の首席奏者初顔合わせセッションでお送りいたします。ファゴットは「よしだ・まさる」で姓・名ともに三文字。クラリネットは「三界」くん、「都響」の首席。略して「三・都」。


*バッハ:音楽の捧げ物より3声のリチェルカーレ

(ベルリンにちなんで)

バッハは晩年ライプツィヒの教会音楽家であったが待遇は決して良くなかった。一方息子のC.P.E.バッハは、当時最高峰の貴族でありさらに音楽家としても著名なフリードリッヒ大王に雇われてベルリン・ポツダムの宮廷に勤務していた。この息子のコネで、バッハは王の前で演奏する機会を作ってもらったらしい。バッハはライプツィヒに戻ってから、王が呈示したへんてこな旋律をあらゆる音楽に創作した曲集(音楽の捧げ物)を、王に送っている。今夜はその中から、3人でできるやつを演奏します。

このいきさつはドイツで映画になっている。老人バッハは貧乏馬車で長旅をして息子の宮廷を訪ねてゆくが、宮廷の公用語であるフランス語のできないバッハは田舎者としてひどく冷たい扱いを受けるのだった。「ここな無礼者!」と、おれが水戸黄門なら印籠を出して貴族をけ散らしたくなるような、そんな映画でした。

*モーツアルト:3管のディヴェルティメント第4番変ロ長調(ウィーンにちなんで)

ケッヘル番号さえさだかについていないほど、いつ、どういう目的で作ったかよくわからない5曲の「ディベ」が残っている。その第4番。明るく楽しく美しく、しかも短いという有り難いありがたい音楽であります。だから解説も短い。楽章、五個あり、真ん中にメヌエットをはさんで緩徐楽章が2つありお買い得。

*カントルーヴ:「田舎風の小品」より「夢」(フランスの田舎にちなんで)

三都をめぐるにはヨーロッパの田園風景をレンタカーでひた走るという楽しみがついてくる。カントルーヴは「オーヴェルニュの歌」とかでも有名なフランスの田舎作曲家であるが、ファゴットがあまりにも美しく活躍する「夢」というトリオを残している。箸休めに。

*オーリック「トリオ」(パリにちなんで)

甘いもののあとには刺激の強い今世紀初頭パリのにぎわいを冷凍しておいたようなこの曲をどうぞ。オーリックはプーランク、ミヨーなどとともに「フランス六人組」を結成していた人物。といってもこの6人組は、当時結構人気があった「ロシア5人組」(ムソルグスキーなど)に対抗してわざと作ったバンド、じゃなかったグループで、メンバー交代とか「ミニモニ」とか「ソロデビュー」とかもしていない。オーリックの、これ以外の曲を僕は全く知らないが、このトリオはすごく楽しいので繰り返し演奏してきた。今夜もやる。なぜかクラリネットにA管を使っているが、これは木管トリオでは異例中の異例な事態。三界君ごくろうさん。


休憩


後半は、ちゃんと音楽会が正しくバッハから20世紀まで(BtoC)になるように、自分なりの、自分がやりたい、自分も聞きたい、面白い!と思う、しかもクラシック演奏家が手がける「新しい音楽」というものをお届けする。

この原稿を書いている時点ではまだ新作を作曲中なのと、スペシャルゲスト平野公崇(サックス)となにを一緒にやるか相談していないため、確定しているものだけを御紹介します。でも、順番変えるかもしれません。すいません。

*筒井康隆:「ジャズ大名」(編曲:山下洋輔)

このお名前をパソコンでタイプしていてさえ体内を不思議な畏敬の念がよじりめぐりされわかもし、はちゃぎり切る。

青春時代からこのかた、自分の文化的人格形成というものは、すべて筒井康隆の著書と山下洋輔の音楽のみによって行われてきたのであるから、自分の文化的精神にとって筒井さんは神だ。創造主なのだ。

アメリカの黒人奴隷が脱走して馬車に乗り船に乗り難破して日本に流れ着き、座敷牢で毎日セッション、お殿様まで巻き込んで・・・・その過程で黒人霊歌がジャズに生まれ変わっていく様を楽譜入りで描いた超絶傑作音楽小説「ジャズ大名」。(映画もあり。)この、いかにも、ホントにそうなのでは?という変身をとげてゆく主題曲、いや「主人公曲」を筒井さんは御自分で作曲され、あまつさえクラリネットで本番を演奏されたりもしていた。天才である。これを、どうしても演奏したい、と、山下洋輔天使ガブリエル経由で御許可をお願いしたところ、降臨され、「主のお許しがでました。しかし!これだけはワシが編曲いたします!ほかのものにはじぇーーーーーったい、やらせませんけんね!」という、山下さんのダブルありがたいお答えが戴けてしまったのであります。

*梅津和時:「ベルファスト」(2001年委嘱作品)

かつて、「生活向上委員会大管弦楽団」というすごいビッグバンドがあり、僕が音大時代にはあの狭い西荻窪アケタの店などで、300人も詰め込むライブをやっていたりした。そのリーダーのおひとりだったのがサックス、クラリネットの梅津和時さん。僕はベルリン・ジャズ・フェスティヴァルなどでも演奏に接している。知的で繊細、温かいお人柄には誰でも敬愛の念を抱く、国立音大の大先輩だ。曲が素晴らしいのでクラシックも書いて下さらないかとずっと狙っていたのだが、ドイツでお目にかかった記憶だけをたよりにお願いしてみたら、こんなにも美しく繊細な音楽を書いてきてくれた。御来場の演奏者のみなさん、どうかレパートリーに加えて下さい。楽譜は僕のHPからお求めいただけます。

*山下洋輔:上野哲夫編曲「山下洋輔組曲」

自分にとって山下洋輔の音楽・著作は特別な存在である。

あまりにファンなのでドイツ留学しているうちに個人的にもおつきあいをいただくようになり、帰国後にはライブハウスやコンサートでたびたび共演さえさせていただくようになった。

そういう山下さんの曲のなかから僕の好きな曲を選んで、これまた大先輩で「ロバの音楽座」の作曲家、上野哲夫さんに組曲に編曲していだいたのが「山下洋輔組曲」。CDにもなっているが、山下さんのコンサートを聞きに行くとロビーで流れていたりする。

・ジュゲム:落語の「寿限無」の長い名前をリフにしたもの。覚えてますか?

・砂山:童謡の「砂山」を都会的コンテンポラリーに生まれ変わらせたものだが、上野編曲は尺八ムードのイントロをつけている。

・クレイ:初期山下トリオの名作。同名のレコードに発狂して山下教信者となったものは数知れない。上野編曲では原題にのっとり、奏者同士の音によるボクシングを。

・ミナのセカンド・テーマ:これも初期。坂田明さんのバスクラが耳に残る。ちなみにミナのファースト・テーマというのはなく、「第2主題」のように静かな性格ということではなかろうか。

・ピカソ:ピカソの名前はすごく長いらしいが、それを全部メロディにした。そのうえスペイン風。フェイド・アウトって、本番ではどうやるの・・・?

・メヌエット:この曲のみ、山下洋輔オリジナル・スコア。91年のカザルスホールリサイタルでのオリジナル曲。(初演はバスクラ)。夜中に夢で冒頭の音形を着想し、飛び起きて書いたそうです。名曲。

・ぐがん:初期山下トリオの決めワザ。今日は当時のドラマーの森山威男さんも御招待したが、御都合がつかず残念です。

・クルド人の踊り:この、変則リズムのダンス・ピースは、ただ素晴らしいというだけではなく、僕の作曲活動には徹底的影響を与えていて、2000年の「4つのナイフラ」(オーボエと大太鼓のために)も、今作っている、今夜初演する曲(名前がまだない)も、こうした中近東半狂乱音楽である。クルド人が本当にこのリズムで演奏するのか?を調べるために山下さんをアフガニスタンまで取材に連れていったテレビ番組があり、凄く面白かったです。

*茂木大輔:木管三重奏のためのブネンカ(新作初演)

前作「4つのナイフラ」と同じく、オリエンタルな音階に依存した半狂乱無窮動ダンス音楽。ドイツで生活していたころ、静かな日曜日の朝、家の前に停まったトルコ人の車から偉大なる音量で聞こえてくる低俗オリエンタル歌謡曲、および高尚祈りの音階などはたぶん生涯消えない記憶として鮮明に耳に残っている。同じ経験をした吉田君でなくては中間部分が演奏できないかも。(2003)

共演者について

三界英実さん

クラリネット:男です。

新しいつきあいである。僕のつたない指揮で「ジークフリート牧歌」を吹いて下さって、あまりの美しい音に胸がいっぱいになった記憶あり。ジャズなどやらせて、良いものかと悩んでいたら「都響ビッグバンド」でサックス持って写っている写真があり、「なあんだ、わかっておられる」と、徹底的にむちゃくちゃを作曲中。

吉田将さん

ファゴット:やはり男。

古い、あまりにも古いつき合いであるばかりか、(ドイツ留学時代の前から)子供のころ育った場所が同じで、行っていた模型屋が同じで、今でも模型をやっているところまで、同じ。一時期毎週のように一緒に演奏していたが、今回は久しぶりの共演です。山下組曲のCDは彼の演奏。サイン、貰って帰りましょう。

戻る