三鷹市芸術文化センター

名曲の森探検隊:プレレクチャーVol.3

「調は音楽の血液型?」

25.3.2004:@三鷹市芸術文化センター

1:「調」とはなにか

・鍵盤上の配置、どこが半音になっている?

長音階、短音階

・白鍵の上で長和音、単和音、減和音を探そう

・白鍵の上で主要3和音を押してみよう

・白鍵の上で長音階を弾いてみよう

・白鍵の上で短音階を探そう

・黒鍵も使って、ほかの:ドの音だけでなく!!(どの)音からでも音階が始められることを実験しよう

・それらを楽譜に表すときには「調号」を使います。

2:「調」同士の親戚関係

*なるべく多くの共通した音を音階に持っているのが近い調。

・属音、属和音、属七和音とトライアド(増4度音程)

・ドミナントとその解決

・属調(Cに対してG>#1コ)

(下属調)(Cに対してF>b1コ)

・平行調(Cに対してa)

・同主調(Cに対してc>b3コ)

・近親調と遠隔調

*コツ:長調の調号から短調を計算するには、#を3コ減らす。(bを3コ増やす)

3:それぞれの調の性格

・調が持つ気分、弦楽器との関係、金管楽器との関係

・#系とb系の出会い系

・#、bとはどういう意味?また、何コまでつくの?

・調号と臨時記号

・作曲家による調の好み

・機会的性格が規定する調

4:「転調」と「移調」

・調を移るのが転調、調を移すのが移調。曲の中には転調があり、楽譜屋さんは移調をする。

*移調楽器について

(クラリネット、トランペット、ホルン)

5:ソナタ形式音楽の基本的な構造と、そこで「調」が演じる役割

・提示部、展開部、再現部、コーダからなる

・提示部と再現部は基本的に同じ音楽

・ただし、提示部で主調(C)をとるのが第1主題、属調(G):違う場合もあり:をとるのが第2主題で、再現部ではどちらも主調Cをとる。第2主題という言い方は、主題として第1主題に対比されていることも条件だが、なによりこの「2つめの調をとり、再現部で主調に移されている」ことを判断の条件とする。

例:

・モーツアルト:交響曲第41番「ジュピター」ハ長調

第1楽章ソナタ形式

T1:C−C,T2:G(#)−C(提示ー再現)

・モーツアルト:「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」第1楽章

ト長調ソナタ形式(#)

T1:G(#)−G,T2:D(##)−G(#)

・提示部は繰り返されるが、提示部の終わりは属調(V)

・繰り返しをまたいだとき、展開部の入り口は属調であり、さまざまに転調してドラマを作り、主調(再現部)に戻ってくる瞬間を準備する。

例外:ベートーヴェン:交響曲第8番へ長調(b)

第1楽章ソナタ形式

T1:F(b)−F,T2:D(##)>C−Bb(bb)>F(b)(第2主題が出現したときの調が予定と違い、後に正しい調で確保する)

短調の場合、第2主題は提示部では平行調、再現部では主調をとるのが古典的。

例:モーツアルト40番(g)第1楽章、第4楽章ともソナタ形式。

T1:gーg,T2:Bb-g

例外:

ハイドン:交響曲第83番「めんどり」ト短調

第1楽章ト短調ソナタ形式(bb)

T1:g(bb)−g、T2;Bb(bb)-G(#)(平行調の長調になっている。)

・ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

第1楽章:ハ短調ソナタ形式(b3コ)

T1:c−c,T2:Eb-C(c-moll が正格):全曲の構造に対応

・ベートーヴェン:「第9」第1楽章二短調ソナタ形式(b1コ)

T1:d(b)−d(b),T2:Bb(bb)-D(##)

参考:音名、調名とその表記(イタリア、ドイツ、日本語)

長調:Dur(ハ長調=Cdur,「C」)

短調:moll(ハ短調=Cmoll,「c」)

日本語音名、ドイツ語音名(読み方)

その調の長調/短調の調号、名曲とその性格。

*ド:C(ツェー):ハ

*ハ長調(#bなし)の名曲:

・ハイドン:交響曲第63番「ロクスラーヌ」、第82番「熊」チェロ協奏曲

・モーツアルト「ジュピター」ピアノ協奏曲第21番、オーボエ協奏曲

・ベートーヴェン:交響曲第1番、ピアノ協奏曲第1番、「運命」のフィナーレ

・ベルリオーズ:幻想交響曲

・シューベルト:第9番「グレート」

>(その調の特徴)調号がないために最も演奏しやすく、明快、単純、軽快、祝祭的。しかし逆に言えば半音階を含まないため深刻な表現には不向きであり、やや表面的な印象がある。

*ハ短調(bbb)の名曲:(以下、断りないときは交響曲をさしています)

・モーツアルト:「ハ短調ミサ」

・ベートーヴェン:「運命」、ピアノ協奏曲第3番、「悲愴ソナタ」

・ブラームス:第1番

・ブルックナー:第8番

・マーラー:第2番「復活」

・サン・サーンス:第3番

>ハイドンにも少しの前例があるとはいえ、この調は「運命」によって完全に特徴づけられた、深刻、悲痛、重厚な調。同主調に最も明るいハ長調を持ち、深刻な開始から明るいフィナーレに移れるということも有利。

ド#:Cis:嬰ハ

嬰ハ短調(####)の名曲:

マーラー:交響曲第5番。ほかにはあまり見当たりません。

>#4個の調というのは決して演奏しやすいとは言えず、壊れやすい印象がある。過敏、刺激的、エキセントリック。

*なお、嬰ハ長調(#######)(!)はなく、異名同音で「変ニ長調」(bbbbb)になります。

(異名同音)レb:Des:変ニ

変ニ長調(bbbbb)の名曲:

ありません・・・

*なお、変ニ短調(bbbbbbb)(!)はなく、嬰ハ短調(####)になります。

レ:D:ニ

ニ長調(##)の名曲

・バッハ:管弦楽組曲第3番、ブランデンブルク協奏曲第5番

・ハイドン:第101番「時計」第104番「ロンドン」

・モーツアルト:35番「ハフナー」38番「プラハ」フルート協奏曲第2番(オーボエ協奏曲と同じ曲)

・ベートーヴェン:第2番、ヴァイオリン協奏曲、ミサ・ソレムニス、「第9」フィナーレのメロディ(歓喜の歌)

・ブラームス:第2番、ヴァイオリン協奏曲

・マーラー:第1番

・チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

・シベリウス:第2番ほか多数

>ニ長調はトランペットが華やかな祝祭調(トランペット調)であり、輝かしく高貴な印象。バッハの「ロ短調ミサ」は平行調のニ長調をとる楽曲をグローリアなど絢爛たる音楽に用いている。ブラームスの2とシベリウス2は自然描写というポイントで一致している。

・ニ短調(b)の名曲

・アルビノーニ、マルチェロほか:バロックのオーボエ協奏曲多数。

・モーツアルト:「ドン・ジョヴァンニ」、ピアノ協奏曲20番

・ベートーヴェン:「第9」

・シューマン:第4番

・ブルックナー:第3番

・フランク:ニ短調の交響曲

>哀愁を帯び、表出的、歌謡的な調で、協奏曲も集中し、(平行調のへ長調も参照)「オーボエ調」といえる。古典派以降ではなんといっても「第9」の調である。これはフィナーレを同主調のニ長調にするための設計といえ、ニ短調そのものはやや女性的で繊細、柔和な調といえる。フランクの交響曲が調性で呼ばれるのもそのためだろう。

ミb:Es:変ホ

・変ホ長調(bbb)の名曲

・モーツアルト:交響曲第39番、ピアノと管楽器の5重奏曲、管楽器のための協奏交響曲、弦楽器のための協奏交響曲

・ベートーヴェン:交響曲第3番(英雄)、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

・ブルックナー:第4番「ロマンティック」

・R・シュトラウス:「英雄の生涯」、ホルン協奏曲

ほかにシューマン3,マーラー8、シベリウス5など。

>ホルンが非常によく鳴る調であり、ホルン調とも言える。おのずと男性的、幅広く雄大な、英雄的音楽が多い。管楽器の室内楽にこの調が多いのもホルンのため。

*変ホ短調(bbbbbb)は非常にまれ。

ミ:E(エー):ホ

・ホ長調(####)の名曲

ヴィヴァルディ:「四季」より「春」

バッハ:ヴァイオリン協奏曲

ブルックナー:7番

これ以外に、交響曲にはあまり見当たらない。

>ヴァイオリンの一番高いe線に関係した調、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲はフィナーレをホ長調にすることを見越してホ短調で開始。ある意味ヴァイオリン調であると言える。

・ホ短調(#)の名曲

・バッハ:マタイ受難曲

・メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲

・ブラームス:4番

・チャイコフスキー:5番

・ドボルジャーク:新世界

・シベリウス:1番

・ショパン:ピアノ協奏曲第1番

>異常なほどの名曲の森であり、しかも「メンコン」に始まり、ロマン派重要交響曲がこぞってこの調をとっていることは特筆。センチメンタル、憂鬱、曇り空、透明な悲しみなどが連想される「ロマン派の調」。

ファ:F:へ

へ長調(b)の名曲

・ヴィヴァルディ:「四季」より「秋」

・バッハ:ブランデンブルク協奏曲第1,第2番(どちらもオーボエを含む。)

・モーツアルト:オーボエ4重奏曲(双方のブランデンブルクも、この曲も、第2楽章が平行調の二短調をとる。)

・ベートーヴェン:第6番「田園」、第8番

・ブラームス:第3番

・「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲

やや、明るすぎて深みを欠く調であり、徹底的に明るい音楽に向いている。「秋」と田園が同じなのも意識的に「農民的素朴さ」を演出していると思われる。バッハのオーボエ協奏曲や、有名なカンタータ156のシンフォニアもFであるところから、二短調と並んでもうひとつの「オーボエ調」であるとも言える。ブラームス3のへ長調は僕には逆説的にすら思える。(モットーがいきなりAbを持つので長調には聞こえないことも理由)

へ短調(bbbb)の名曲

・ヴィヴァルディ:「四季」より「冬」

・チャイコフスキー:第4番

・ショパン:ピアノ協奏曲第2番

>あまり名曲の数がなく、ほぼ最も暗く演奏しにくい調。チャイコフスキーの4番も、フィナーレで同主調のへ長調をとれるという、極端に明るいフィナーレを準備するハイ・コントラストな構成で選ばれていると思われる。

ファ#:Fis:嬰へ

嬰へ短調(###)の名曲

ハイドン:第45番「告別」

>ほかにはほとんど類例なし。同主調が、最も#の多い嬰へ長調(######)になり、ほとんど簡単な演奏が不可能になるため窮屈な作曲を強いられる。告別交響曲のねじまがったような響きはそのため。あえてこの調を選んだのは疾風怒濤期の特性なのか、それとも主人に休暇を願い出るという特殊な緊張を音楽で表現したのか。

ソ:G(ゲー):ト

・ト長調(#)の名曲

・バッハ:ブランデンブルク協奏曲第3番、第4番

・ハイドン:88番「V字」、94番「驚愕」100番「軍隊」

・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番

・モーツアルト:ヴァイオリン協奏曲第3番、フルート協奏曲第1番

・ドボルジャーク:第8番

・マーラー:第4番

・ラヴェル:ピアノ協奏曲

>絶対的にハイドンの調であり、またそのハイドンを音色的に代表するフルートの調でもある。軽快、陽気、ユーモラス、男性的、誠実な感じを与える。ドボルジャークとマーラー、どちらも自然回帰にこの調を選んでいるのはブラームス=シベリウスの場合と好対照。

・ト短調(bb)の名曲

・ヴィヴアルディ:「四季」より「夏」

・ハイドン:39,83「めんどり」

・モーツアルト:交響曲25,40、弦楽5重奏曲ト短調

・チャイコフスキー:第1番「冬の日の幻想」

>あまりにもモーツアルトの40番が偉大であり、さらにモーツアルトは短調の交響曲をわずか2つ、いずれもこの調でしか書かなかったことから、ト短調は完全にこの音楽の調という雰囲気になっている。しかしハイドンの先取りされた音楽を聞くとき、やはり共通の、ドラマティックでやや大げさ、高音ホルンの醸し出す強い緊張を伴った、凝縮された調であると言える。

ラb:As(アス):変イ

・変イ長調(bbbb)の名曲

シューベルト:ミサ曲変イ長調

>これしかないが、非常に非常に素晴らしい音楽。ブルックナーには平行調のへ短調のミサ曲があり、当然頻繁にこの変イ長調にも触れる。柔和で靄がかかったような温かい調であると言える。

(変イ短調はなく、嬰ト短調になる。####)

ラ:A(アー):イ

・イ長調(###)の名曲

・モーツアルト:ヴァイオリン協奏曲第5番、交響曲第29番、クラリネット5重奏曲、クラリネット協奏曲

・ベートーヴェン:第7番

・メンデルスゾーン:第4番「イタリア」

>完全に「クラリネット調」であり、逆に言えば、モーツアルトの2つの名曲とベートーヴェンの第7交響曲が存在しなければイ調のクラリネットはすたれていたのではないかといわれている。明るさの中にすこしだけの苦味と太い流れを持ち、深みのある温かさを持つ。なお、「イタリア」は長調の交響曲でフィナーレを同主調のイ短調にしている非常に珍しい(唯一?)例。

・イ短調(#/bなし)の名曲

・シューマン:ピアノ協奏曲

・ドボルジャーク:ヴァイオリン協奏曲

・グリーク:ピアノ協奏曲

>時代を隣接した3つの協奏曲が同じ調を取ることは偶然ではないと思われる。ことにグリークの作品はシューマンの姉妹作とも言える。明るい短調であり、輝かしく、明快な女性的力強さを持つ。

シb:B(べー)>便宜上、英語のBbで表記することも。:変ロ

・変ロ長調(bb)の名曲

・バッハ:ブランデンブルク協奏曲第6番(ヴィオラ群の合奏)

・ハイドン:協奏交響曲(ファゴットを含む)

・モーツアルト:ファゴット協奏曲

・ベートーヴェン:第4番

・シューベルト:第5番

・シューマン:第1番「春」

・ブラームス:ピアノ協奏曲第2番

>元気でややユーモラス、太い響きの「ファゴット調」である。ベートーベンの4番やシューベルトの5番でファゴットが非常に活躍するのも偶然ではないと思われる。

変ロ短調(bbbbb)の名曲

・チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番

>これ以外に知りません。フラット多すぎてやはり演奏しにくいのは確か。柔らかい、しかし細目の響きでやや神経質。

シ:H(ハー):ロ

・ロ長調(#####)の名曲

>ほとんどなし。

・ロ短調の名曲(##)

・バッハ:ロ短調ミサ

・シューベルト:第8番「未完成」

・チャイコフスキー:第6番「悲愴」

・ドボルジャーク:チェロ協奏曲

>数は少ないが圧倒的な名曲が並ぶ。この調を選んで作曲すること自体が特別なことなのかもしれない。真摯な声を歌う、人間的なメッセージ、死を考える音楽に適した調と言える。

茂木大輔(2004)

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