「運命」解説台本

茂木大輔:作

禁:無断転載、上演など

@27.3.04:三鷹市芸術文化センター

オープニング:

オケ板付き、チューニング、明かり落す

(録音で)

(チューニングの音、客席のざわめき)

「とても寒い」

「こごえそうな寒さだ」

「12月も終わりだというのにこの劇場には暖房がない」

「これからベートーヴェンの新しい、5つめのシンフォニーが初演される」

「ベートーヴェンは偉大なピアニストだ」

「4つめのピアノ協奏曲も初演される」

「どんな曲なのだろう」

「6番目の交響曲も今夜初演される。」

「エロイカ交響曲は長すぎて難しかった」

「美しいメロディもないし、優雅なメヌエットの変わりにふざけたスケルツォがついていた」

「こんどは、トロンボーンやピッコロがオーケストラに加わっているらしい」

「どんな大きな音がするというのだ?5つめの交響曲は・・」

溶暗

指揮者登場

*ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」第1楽章

(T1−T53/1:クラリネットの3連符は不要)

・初演について

・当初はこちらが5番だった

>ベートーヴェンの「運命」

ボンに産まれる、父親の厳しい教育、ウィーンに移る、デビュー、社交界の寵児、天才だがさまざま不幸、失聴、ハイリゲンシュタットの遺書、英雄交響曲。

*「英雄」第1楽章H−M?

*「英雄」第2楽章冒頭=?

>第5交響曲について

ベートーヴェンが有名であること

最も有名なオーケストラ音楽

シントラーの逸話

なぜ、有名なのか?この冒頭の音楽的な性質は?

「おかあさん、僕のアイスクリーム知らない?」

「御姉ちゃんが食べちゃったわよ」

*「運命」#1,T1−5

「やったー!東大に合格したぞ!」

*運命#1:T1−5

>悪いほうの運命ににあっている。

不安な感じ。

調性がない。ユニゾンである。

**「運命」T1−5,和音つき(Es-Bb)

本当はハ短調であり、確立するのはここ。

*T6−7でFermata

冒頭のオーケストレーション

クラリネットを含むこと、コントラバスが高音域なこと。

まだ最大音量ではない。

これは実は旋律をなしている。類似のものがコレ

*ベートーヴェン:交響曲第4番第1楽章冒頭

T1−T6/1

リズム動機は全曲を貫くが、第1楽章では細胞のようなもの

*運命:T1−T62(ホルンまで)

これをメロディに直してみると:

**運命:T1−24(メロディに直した版)

これではだらしないのでリズム細胞を合体した。

この先が第2主題になる。

*T59(ホルン)ー繰り返し

低音に鳴る動機、意外に快活な音楽、小結尾は同じ楽想であり、管楽器と弦楽器を入れ替えている。

ここで、ちょっと気をつけておいていただきたいことがある。

*第1ヴァイオリンのみ:T63−66(第2主題)

シドレと上がる音程が核。覚えておいて欲しい。

>ホルンの呼び声は展開部でたびたび活躍する。

*T179(Gmの拡散)−T242(木管ppの中の鐘の音)

上昇と下降、拡散と集束に注意。

再現部冒頭、凄まじいオーケストレーション、ハイドンもモーツアルトも書かなかった音。

*T243−T252

再現部にはしだいに旋律の本来の姿が見えてくる。

そして:

*T253−カデンツア(T268)

>カデンツアの追加について

*T269−T302(ファゴット直前)

ホルンの信号が鳴るところに来た。音楽は今度はハ長調をとる。ここで・・

*T303−T306

当時のホルンの楽器にはこれらの音は出なかった、しかしハ長調に転ずることも明快に。楽器方を直した時代もあった。

さて、第2主題が長調に再現されて平和になるが、これでは終わらない。異例に長いコーダが襲いかかる。

*T361−406

第2の展開部ともいえる充実した構造だが徹底的にハ短調を確保。

最後には、メロディが姿を現すが、その感傷さえ自ら経ちきるように、こうして終わる。

*T483−終わり

ところで、ここは自筆譜では、オーケストレーションまでされた延長版が残っている。

***T483−500に入らずに>結尾スケッチ(自筆譜からオーケストレーション)のエンディング

初演直前に彼はここをカットした。

自筆譜には最後まで修正をづつけるベートーヴェンの執念が残っている。

>今度は作曲過程を見てみる。まず最初に現れる、1805年ごろのスケッチでは、主題がこうなっていた。

***ノッテボーム1:11p.

***ノッテボーム2:12p

少しあとでは、今よりちょっとなだらかなこんな形も残っている。

***ノッテボーム3

***ノッテボーム4

第1ヴァイオリンだけでこんな旋律をやるバージョンも・・・

***ノッテボーム5:p71

(第2楽章)

同じくノッテボームによると・・・

***ノッテボーム6:14p

これは結局・・・

*運命#2:T1−T22/1(主題1全体)

非常に充実した、英雄的な主題。木管が受けて、幾度も同じことを確認している。

*T18/3−21/1

ここにも「シドレ」があることに注意。

これは変奏曲になっている。主題は2つある。2つめはこれ。

*T22/3−T57/1

クラリネットが伸びていたところまでが「主題」で、変奏が始まったことがわかるだろうか。

ハイドンにも緩徐楽章の変奏曲は多いが、この主題は少なくとも5つの極端に雰囲気の異る音楽が交互に出現する非常に充実したもの。主題自体にはあまり変化を加えないところから次第に変貌させていく音楽。テーマの終わりは半終止であり、先につながるようになっているのも緊張を持続させる特徴。

トランペットが高らかに吹き鳴らしたものをここでもう一度聞く。

*T31/3−T35/1

ここにもシドレが、しかもハ長調で堂々と。これはなんでしょうか。勝利?凱旋?

傷ついた兵士の行進もあります。

*T166/3−T176/1

ちなみに、楽章の終わり近くには不思議な、官能的でユーモラスな変奏が、わざわざテンポを速めて、意味深げに現れます。ファゴットと、そのあとのオーボエにご注目を。

*T205−T213/1

このオーボエ・ソロ、不思議なものですが、これにも「シドレ」が潜んでいます。

(第3楽章)

第3楽章に進みましょう。

一般的には「スケルツオ」と言われることが多いのですが、ベートーヴェンはこの音楽にスケルツオとは書いていません。

スケルツオ(いたずら)とは、こういう音楽です。

*「英雄」第3楽章:T1−T196(トリオの直前)

しかるに、運命の3楽章はこうなっています。

*「運命」#3:T1−T45/1

この音楽は、スケルツォでも一般的なメヌエットでもありません。

この音楽を作曲していた紙に、ベートーヴェンはこの音楽を書き写していました。

*モーツアルト:交響曲第40番第4楽章T1−T16/1

類似ははっきりしていますね。ベートーベンは晩年になっても、モーツアルトを最大の敬愛をもって見つめていると語っています。しかし、ここにはもはやモーツアルトの疾駆する悲しみなどという次元ではない音楽が出現しています。この、地獄の底から呼ぶような不吉な、暗黒の音楽、そして咆哮するホルン。

*(ホルンのみ)T19−26

これが「運命の動機」ということには御気づきですね?

これはなにか、非常に不吉な運命の君臨を象徴しているように思われます。

しかし、まったく意外に、トリオにおいてはこのような音楽がくり広げられるのです。

*T133−トリオーT160(2回)

まったくエキサイティングです。コントラバスの高速運動をベルリオーズは「象の踊り」と呼びました。

ゆっくり弾いてもらいましょう。

*(Vc,Kbのみ)T140−T146/2

さて。もうおわかりでしょうか。極端な対象をなすアレグロとトリオ、アレグロを支配するのは運命、そしてここにはシドレの動機。

さて、普通、メヌエットやスケルツオはダ・カーポして同じ音楽を繰り返すものです。ここでも、確かにそうなっています。しかし、全く違う音量と、楽器法がつけられているのです。トリオの饗宴の頂点から、次第に冷えて、こんな音楽になっていきます。

*T184−T280/1

これは、死の音楽、ヴァニタスであり、骸骨、死神、乾ききった世界のメッセージですね。

これが、あのホルンの咆哮した運命の君臨と同じ音楽だということは、なにがどうあってもピアノや室内楽では表現することができません。交響曲が、管弦楽というもののこうまで広い可能性を充分に発揮した音楽だということは、まさにこの瞬間に現れていると言ってよいでしょう。音楽が進むと、さっきはあのコントラバスのトリオが現れた場所には、こんな音楽が待っています。

*T317−T349

連打されるティンパニ、引き伸ばされる弦楽器、「予感」の表現は、やがて爆発によってカタルシスを迎えます。しかし、ここは一日に2回聞くところではありません。本番で聞いて下さい。

さて、

フィナーレにあたって、5人の奏者が入場してきます。

ピッコロ、コントラファゴット、そしてトロンボーン。

ご紹介のために、フィナーレの音楽をこれらの楽器だけで聞いてみましょう。

*「運命」第4楽章T1−T26/1(A)

明らかな勝利、

第2主題のチエロ

*T44/4−T57

*(Vc、Kbだけで)同じところ

第3楽章の回帰

*T106/4−175

トロンボーンの君臨と金管のメカニズム

*T317−336/1

*第1ヴァイオリンのみで同じ所(上昇動機、最初)

コーダ:ブルレスケ、ピッコロの上昇動機、コントラが茶化す運命。

*T362−390/1

*コントラファゴットのみ:同じところ(最初)

>>スケッチではハ短調6/8のフィナーレも構想されていた。

***ノッテボーム7:15P

>>まとめ

ハイリゲンシュタットの遺書(朗読)

失聴と運命の戦い、勝利

感謝しましょう。

では、本番をお楽しみに。

来年度予告:

「ハイドンの朝と晩」

ハイドン:交響曲第8番「夜」第2楽章アンダンテ(繰り返しまで)

後半:「運命」全曲

アンコール:

*ベートーヴェン:交響曲第8番第2楽章