スウィートスポットって何?
 バドミントンやテニスを習うと、コーチから「スウィートスポットに当てろ」という指導を受けます。またラケットの広告には「スウィートスポットが拡大」などというコピーが見うけられます。スウィートスポットとは何でしょう、少し考えてみることにします。

 一般にスウィートスポットにシャトル(テニスならボール)を当てると、ラケットを握った手のひらに来る衝撃が少なく、またシャトルが最もよく飛ぶのだと説明されています。これは事実でしょうか。まずはスウィートスポットの定義からはじめなければなりません。考えられる定義は次の二つです。(もっとあるかもしれませんが・・)
(1).インパクトのとき最も速い速度で打ち出せる点
(2).インパクトのときグリップを握った手に伝わる衝撃がもっとも小さい点
(1)については、ボールをラケット面に乗せてポンポン弾ませてみます。最もよく弾むところです。つまり反発係数が最も大きくなる点だと定義することができます。
(2)ストリングス(ガット)を張った状態で手に持ち、木槌のようなものでポンポンとたたいてみると手に来る衝撃(振動)が最も小さいところがあるのがわかります。これはシャトルとラケット面が衝突したときにできる振動が定常波となりグリップ部に波の節ができることによって生じる現象だと考えることができます。


 では(1)と(2)は同じ点なのでしょうか。実際に調べてみるとその位置は測定限界以下で全く同じでシャープな1点なのがわかります。そして このスウィートスポットの位置は丸形やアイソメトリック形状などといったラケットのフレーム形状にかかわらず同じで ラケットのフレーム面の中心から約1cmグリップ側によったところにあります。シャープな1点だということはスポットではなくてポイントなわけで「スウィートポイント」と呼んでもよいくらいです。別の稿(上級者はなぜハイテンションか?)で「慣性モーメント」を取り上げていますが、そこでも「衝撃中心」=「スウィートスポット」としてこの点までの距離を測ったりしています。
 野球のバットのような剛体(硬い物体)では衝撃中心は真芯(ましん)と呼ばれています。太さが同じ長い棒では真芯の位置は先端から3分の1のところにあります。(ちょうど定常波ができる位置です。野球のバットでは真芯に会社のロゴ(MIZUNOとか)が印刷されています。) しかしラケットは一様な棒ではなく硬いシャフトやフレームと、より柔らかいストリングスでできています。そしてストリングスの張り方によって硬さを変ることができるという複雑さがあり、スウィートスポットの位置と特性を簡単な数式で計算できるというようなものではありません。メーカーでは試作品をつくる前にいろいろな数値シュミレーションをやっているに違いありません。実際に数値モデルをつくることはパラメーターが形状・材質・フレックス・ストリングスの幅・テンションなど多岐に渡りメーカーの資料がない状態ではかなり困難です。実物で実験する方が手っ取り早く安上がりでしょう。

 スウィートスポットが点だとすれば、メーカーが「スウィートスポットが拡大」というキャッチコピーはウソなのでしょうか? これは「衝撃中心」と「スウィートスポット」の定義にズレがあることによって引き起こされているのだと考えられます。JIS(日本工業規格)では衝撃中心として野球のバットと同様の反発角度試験なるものが実施されています。これはグリップ部を固定したラケットに分銅のような硬い物体を当てて「衝撃中心」を測定しているのです。

 しかしJISに「スウィートスポット」という用語はありませんから、メーカーでは「衝撃中心」という点を故意に「スウィートスポット」という似た用語を作りユーザーに混同させるようにしているのだと考えることができます。
つまりA社の定義するスウィートスポットとB社の定義するスウィートスポットでは意味が違うことが考えられるので、スウィートスポットの広さの比較は同じ会社の製品でないと意味がありません。結局スウィートスポットとはメーカーが独自の基準で決めた「妥協できる打ち心地が得られる部分」という曖昧なものであるという結論に達しました。そして妥協できる範囲が緩く甘い会社の製品は「スウィートスポットが広い」と書いてあるのです。

 確かにYONEX社のアイソメトリックに代表される四角い形状のラケットでは「妥協できる打ち心地が得られる部分」が以前の自社製品より広くなったのでしょうが、これはスウィートスポットに当てられない初心者や中級者にとってはよいのでしょうが、確実に狙った点に当てられる上級者にとっては特に必要でないものであることは明白でしょうし、多少ズレても振動が手に来るだけでシャトルのフライトが大きく変化するなどということはありません。またこの程度の差であればストリングスのテンション調整である程度カバーすることも可能だと考えられます。

 本題から離れますが最近チタン素材を用いたラケットが増えてきました。チタンには硬くて重いという性質があります。フレームにメッシュ状に編み込まれたチタンは、ラケットの重量配分を中央から周辺へ移動させる効果を持っています。同様の考え方で以前ProKennexのラケットは両サイドがぶ厚くなっているものがありました。振りだしたラケットの中心から左右にずれて当たった(オフセンターと言います)シャトルに対して回転慣性によってラケットの中心軸(グリップやシャフトを中心とする軸)まわりにモーメントが生じますが、このモーメントを小さくする効果があります。(同じ重さでも中心が重いものより周辺が重いもののほうが回しにくいという原理を利用しています)これを「面が安定する」いいます。このこととスウィートスポットの関係は関係ありませんが、衝撃を吸収するような効果を与えることでプレーヤーの感覚ではスウィートスポットが拡大したような印象を与えることができると考えられます。

 以上スウィートスポットについての考察をしてみました。