上級者は なぜハイテンションなの?

 ラケットのカタログを見ると「適性張力」なるものが記載されています。張力とはガットを張るときの引きの強さのことで、一般に「テンション」といわれています。(元々テンションの日本語訳が張力です)ここでも 張力といわずにテンションということにします。

 適性テンションの値はラケットにもよりますが、多くのラケットは16〜22ポンドの値になっているようです。しかし上級者の中には適性テンションを越えて30ポンドといった超ハイテンションでガットを張っている人も多く見受けられます。テンションを上げることにどんなメリットがあるのでしょうか。また初心者がハイテンションのラケットを使うとどのようなデメリットがあるのでしょうか。

 ラケットのガットを張っている部分をストリングドエリアといいます。シャトルがラケットに当たったときストリングドエリアはバネのような働きをします。図のように一旦たわんでから再び元に戻るときの反動でシャトルを反発させるのです。ラケットが同じだとすると反発の強さはガットの張りの強さ(テンション)で決まることになります。テンションを上げると同じ力を加えたときガットは変形しにくくなります。ストリングドエリアのバネが強くなったと考えてもよいでしょう。その結果起きる現象として

(1).打球音が高くなる
(2).反発係数が低下する
(3).スウィートエリアが小さくなる
(4).コントロール性が向上する

(1)の打球音については、弦楽器の弦(ガット)と同じで、ハイテンションにすれば高音になります。カーンという金属音に近い音で、スマッシュを打ったときなどは心地よく感じます。
(2)硬い板にシャトルを当ててもあまり跳ね返ってきません。同様に、硬く張れば反発係数が低下し反動が弱く同じ力で打てば飛距離は出ません。反発係数とは シャトルとラケットの衝突によって生じるエネルギーのうちシャトルに運動エネルギーとして伝えられるエネルギーの割合です。
(3)スウィートエリアとはスウィートスポット周辺の部分で、グリップに伝わる衝撃が一定の値より小さい部分をいいます。ここにシャトルを当てると気持ちよく打つことができます。スウィートスポットとスウィートエリアについては別のところで詳しく説明します。
(4)ガットがたわみにくいので、シャトルの入射角と反射角が安定し、コントロールは向上します。

 さて、世界チャンピオン級の上級者のスマッシュ初速は時速300kmに達するものもあるといわれています。しかも、そのような上級者は反発係数の低いハイテンションのガットを使っています。これは一見矛盾するようにみえますが、実はガットのテンションには別の秘密もあるのです。これについて考えてみました。

 ストリングドエリアはシャトルが衝突するとバネの働きをすると述べました。バネであれば弾性限界というものが存在します。ガットはシャトルが衝突することによって伸びますが、伸びることのできる長さを越えるともはやバネとしての働きを失います。これが弾性限界です。また衝突エネルギーが強いと、ガットの並びが正方形の格子から変形するなどによって反発に用いられるエネルギーが失われます。こうして一定の衝突速度を越えると反発係数は低下することになります。テンションが高いと衝突による伸びはテンションの低いときより小さくなります。すなわち、弾性限界はハイテンションの方が高いことになります。

 図はテンションの違いによる反発エネルギーの違いを模式的に示したものです。黒い線はラケットとシャトルの衝突によって生じるエネルギーです。赤い線は低いテンションで張ったガットで打ったときのシャトルに与えるエネルギー、青い線は高いテンションで張ったガットで打ったときのシャトルに与えるエネルギーを示しています。
 垂直に落下してくるシャトルを打つときのラケットとシャトルの打球方向の相対速度はラケットの速度と等しいので、図の速度はラケットのヘッドスピードを示していると考えてもいいはずです。ヘッドスピードが遅いときはローテンションのほうが反発係数が大きく速い速度でスマッシュを打てますが、ラケット速度がAを越えると、反発係数はハイテンションのほうがかえって大きくなるという現象が起き、ラケットを速く振れる(=ラケットの運動エネルギーが大きい)上級者はハイテンションでガットを張った方がよいことになります。またスウィートスポットを多少はずして振動が大きくなってもラケットの持つ運動エネルギーがそれを相殺してくれるので、ブレの影響は小さいといえます。

 実際のシャトルの初速度を計算してみましょう。初心者のヘッドスピード(v)は約25m/s程度です。反発係数(k)は0.5 程度なのでラケットから見たシャトルの速度は 25×0.5=12.5m/sです。これにラケットの速度 25m/sを加えるとシャトルの速度は 37.5m/sとなります。37.5m/sは時速135kmとなります。 ところが同じラケットで50m/sのヘッドスピードで振ると反発係数は0.2程度に低下しますから、単純に2倍の時速270kmのスマッシュが打てないことになります。50×0.2+50=60m/sとなり時速216kmとなってしまいます。
 これでも十分に速いのですが、テンションを上げることによってヘッド速度の反発係数低下を0.3程度に抑えることができれば、 50×0.3+50=65m/s となり時速234kmと8%以上の速度向上が見込まれます。

 テンションと反発係数の関係はラケットの剛性(フレックス)やガットの太さ(ゲージ)や材質、気温などにも影響されますのでこれ以上の考察は難しいのですが、あまりハイテンションで張るとガットの耐久性が低下し切れやすくなりますし、下手をすればラケットの破壊にもつながります。そして規定値以上で張ったためメーカー保証も受けることができなくなります。またパワーのない初心者がハイテンションで張っても、ハイクリアなどが飛ばず無理をして肩を痛めたりします。自分のスウィングスピードに合わせたテンションを選択すべきでしょう。
2000.5.15
再掲 2009.5.10