テグスはストリングスに使えるか?
 私は釣りはやらないが好奇心が強いので、ふらりと入った近所の釣具屋でテグス(釣り糸)を見て「これはバドミントンのストリングス(ガット)にならないものか?」と思った。そこで、早速実験開始ぃ〜

 まず テグスの種類について調べてみた。テグスの素材にはナイロンフロロカーボンPE(高分子ポリエチレン)があるそうだ。3種類の素材が売られているところを見ると、それぞれに長所、短所があるに違いない。

 ナイロンストリングスはバドミントンでもおなじみなので、フロロカーボンとPEについて調べてみたところ、PEについてはGOSENがテニスストリングスとして研究していたが、引っ張り強度はナイロンの3〜4倍も強いものの熱に弱く結節強度も落ちることからストリングスとしては加工しにくく断念したとの情報が得られた。したがって、ここではフロロカーボンがストリングスとして使えるかどうかを調べることにした。

 フロロカーボンはフッ化ビリニデン樹脂の通称である。クレラップでおなじみの呉羽化学が1970年代に釣り糸として商品化させたのが最初である。ナイロン(1.16)と異なり比重が大きく(1.78)水に沈む、また屈折率が1.42と水(1.33)に近いので水中で見えにくい(魚に悟られない?)のがメリットのようである。もっともこのような性質はバドミントンストリングスとしてはあまりメリットになるとは考えられない。
 フロロカーボンは吸水性が無く低温にも強いことから手術用の縫合糸や、リチウムイオンの二次電池、超純水などを流すパイプの内部などに幅広く使用されている。また一般商品としては釣り糸の他、バイオリンやギターの弦などにも使われてる。
 ではその物理特性はどうなのか? 気になるのは強力(どの程度の力に耐えられるか)である。強力と一言でいっても、「引っ張り強力」と「結節強力」がある。「引っ張り強力」とは糸を両方から引いたときの切れるまでの力の強さである。また「結節強力」とは結び目が耐えられる力の強さである。ナイロンもフロロカーボンも糸を作るときの温度や圧力などによって「引っ張り強力」「結節強力」ともに変えることができるので一概にどちらが強いとは言えないらしいことがわかった。呉羽化学の釣り糸の場合、結び目が多いので比較的結節強力を重視してつくっているようだ。バドミントンの場合結節は4カ所(縦糸・横糸のそれぞれの始点と終点)しかないが、釣り糸に比べてハトメの部分で折り返すことによる劣化や摩擦がどのように影響するのかは不明である。

 さっそく呉羽化学製のテグス「シーガーエース」(Seaguar ACE)16号を購入した。50m巻がメーカー希望小売価格5200円だが、半額セールで2600円で購入できた。もちろんフロロカーボン製で標準直径0.66mmとある。ひょっとするともう少し太いものもあるかもしれないのだが、店で一番太いものであった。バドミントンストリングスは10mで500円〜1400円程度なので、値段的には同じくらいである。
 呉羽化学のHPでは「シーガーエース」シリーズは二重構造になっており、結節強力と、瞬間的な力に対する耐衝撃性の両方を高める役割を果たしているようである。耐衝撃に関してはナイロン素材の釣糸に比べて1.6倍の強度を誇っていて、ナイロンの方が結節したときはプツンと切れやすいといえる。

 カタログデータはさておき、実際に実験してみると、約40ポンドの引っ張り強力をかけたとき、じわりと伸びながら最後にプツンと切れてしまった。同じ実験をGOSENのBS301(旧1800T ゲージ0.72mm)でおこなうと、同じく40ポンドで切れてしまったので、両者の強力はほぼ同じと考えることができる。ただし、切れ方は異なり、シーガーエースは結び目で切れ、BS301は結び目でないところが切れた。ゲージの太さが違うので一概には言えないが、なんとなく物理特性が違うことは実感できた。

 では「シーガーエース」をラケットに張ってみる。普段使用している分銅式ストリングマシンを用いて、テンションは24ポンドに設定する。ラケットはBRIGESTONEのSVXである。長尺ラケットで私が普段ノックなどに使っていて手になじんだものである。ゲージの0.66mmはYONEXのBG66(ゲージ0.66mm)とほぼ同じ太さなのだが、ツルツルした感触と水中で魚に悟られないため透明になっているので、なんだか違和感がある。約40分で張り終えてみるとやっぱり妙な具合であるが、新鮮な感覚もあり掌で軽くたたいたりして自分で悦に入ってしまった。(笑)張るときに気を付けることは、フロロカーボンはナイロンより硬いので巻グセや糸ヨレがつきやすくなるということで、よじれたりしないようにすることである。

 さっそくシャトルを試打してみることにする。まずはショートサーブのように軽く打ってみるが、特に違和感はない。他のラケットと比べてみてもあまり分からない。ハイクリアを打ってみても、なんだか打球音が低いのにちゃんと飛ぶ。スマッシュもできるし問題は音だけだ。もちろん耐久性はもう少し使ってみないとハッキリしたことは言えないのだが、バドミントンストリングスとしても使えそうな感触である。もうすこしテストをした後、報告したいと考えている。
2000年10月28日

後日談
 その後、テグスストリングスを張ったラケットを何度か試打した。その結果は「打球音が悪い」ということ「振動が吸収されずに手に伝わる」ことである。素材の問題なのか表面処理のような素材の加工の問題なのかは不明だが、スウィートスポットに当てた打球でも手にビィーンとした振動が来る。
 素人考えだが、撚り合わされたマルチフィラメントを使うナイロンガットでは振動がフィラメント間の摩擦として吸収されるのに対して、単一繊維のテグスでは振動がダイレクトに伝わるのではないだろうか。これはストリングスとしては最悪だが、釣り糸としては魚がかかったことを釣り人に知らせるには良い性質である。
 またストリングスには表面加工が施してあり、シャトルとの接触時間が長くなるようになっている。表面加工には断面が鳴門巻のようにギザギザになったものや YONEXの技チタンのようにネバネバするものがあるが、そのような加工をしていないテグスではカットなどのキレは悪そうだが、実際に感じることはできなかった。  さすがにゲームには使えないが、天井照明にキラキラするテグスはルール違反に問われなければ相手を幻惑させることができるかもしれない。
 また耐久性については使用時間はゲームなども含めて10時間くらいである。その後1年以上放置したあと思い出して使ってみたが切れることはなかった。
2001年12月5日