日本囲碁改革の根本問題

 

5 棋士養成体制の欠如

             (平成18年8月18日初出)

 日本囲碁の将来はお先真っ暗である。組織的な後継者育成策が存在していないからである。体操でも、水泳でも、柔道、レスリング、陸上、サッカー、スケート、何であれ、それぞれの組織があり、選手の育成・強化に組織を挙げて取り組んでいる。どれだけ成功しているかは別問題。中には組織が腐敗したり不祥事を起こす例もあるが、とにかく組織的に取り組んでいる。

 しかし、囲碁の場合、日本棋院は組織としては選手の発掘、育成、強化に取り組んでいるとは到底言い難いのである。それは個人の篤志家、多くはプロ棋士が内弟子を取るという形でしか実行されていない。

 個々人の努力はすばらしい。木谷実氏の内弟子が今の日本囲碁界を支えている。その他にも安藤武夫氏、大枝雄介氏、林海峰氏、趙治勲氏、高林拓二氏などが内弟子を育て、今日のトップ棋士のほとんどは内弟子制度によって育てられた。菊池康郎氏ひきいる緑星学園も多くの優秀な棋士を輩出している。依田碁聖、山下棋聖、張名人も内弟子経験者である。最近では大淵盛人9段の内弟子がつづけざまに何人も入段を果たした。その厳しい教育姿勢は、今どきの日本ではたいへん貴重なものである。

 しかし、個人の努力には限りがある。こういう人たちが全国に100人もいれば話は別だが、そんなことはありえない。内弟子制度だから内実が悪いとか、程度が低くなると言っているのではない。個人に頼るのではなく、組織として取り組み、組織化・近代化・合理化しなければならないということである。 日本棋院は一時期、幕張に棋士養成施設を作り、子供たちを合宿させて鍛えていたこともある。予算の関係か、それとも指導体制を組むことの難しさからか、廃止されてしまったのは残念である。

 韓国では、国内に3000もの子供囲碁教室・塾があるという。それらの教室や塾の経営者や指導者は韓国棋院所属のプロ棋士ではない。教えるための専門家とは言えるが、ギルドに所属している有資格者ではない。それでも生徒はいくらでも集まる。日本では日本棋院というギルドの権威主義が強いので、なんらかの形で日本棋院やプロと関係のある形にしないと生徒が集まらない。韓国では次世代育成に関しては、すでにギルドの桎梏をやぶって、大衆化することに成功した。

 中国では、もっと徹底している。有望な次世代を発見し、集め、鍛えるシステムが国家の事業として出来上がっている。各学校で優秀な生徒を発見し、地方ごとに集めて特訓し、その中からさらに優秀な生徒を北京に集めて英才教育をほどこす。入段したのちも彼らは集団で生活し、常に先輩棋士の指導を受けている。

 このように国家的規模で才能を発見し、幼少期より集めて切磋琢磨させる方法は、家元制度の内弟子以外には、国家的規模での合宿方法しかないであろう。

 もちろん民主主義国日本で、共産党独裁の中国のような選手強化策を真似することはできない。しかし、日本に伝統的にある内弟子制度の良いところを活かしつつ、それを全国的な組織原理のもとに置き、たいていの競技が持っているような選手強化委員会のようなものを組織する方向をさぐることは可能であろう。そのためには、本質がギルドだという日本棋院の組織原理そのものを改革し、近代化を図らなければならないのである。

 故加藤正夫氏の遺志を受け継いで、是非とも日本棋院は抜本的な改革をなしとげてほしいものである。

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