東方ソックスハンター

 魔理沙は、手に入れた靴下の臭いをかいでみた。
 ガクッ。
 魔理沙は、気を失った。

[誕生]

 星空は、幻想郷に照明などないせいか、どこまでも奇麗で透き通っていた。
 大の字で寝ていた魔理沙は、そのまま空を見上げながら、後頭部の痛みに顔を歪めた。
「ほっとけよ。…私は…好きでやってるのさ」
 星にむかってそう言った魔理沙は、顔を動かして、手に握った靴下を見つめた。
「…気が遠くなるほどの快楽か」
(註・多分違う)
 魔理沙は、笑った。笑って、笑いつづけた。
 靴下を持ったまま顔に手を当てて、再び、気を失う。
 霧雨魔理沙、暗号名:ソックスマジカル。
 ソックスハンターの誕生である。
 星は、小さな星の、そのまた小さな幻想の、そのまた小さな人間を見て、一度だけ瞬いた。
 それだけだった。

[承前]

 私は、なぜここに居る…。

アリス「追え! 逃すな!」
 重廃棄物として厳重に保管されていた幻想郷の1tの靴下が盗まれた。
魔理沙「おい、生きてるか」
チルノ「ええ、なんとかね。…末端価格12億円の靴下か」
魔理沙「…生き残っていたらな。行くぞ」
 魔理沙とチルノは、風呂敷きを担いだまま走った。
 サーチライトに照らされる二人の影。
アリス「人形たち前へ! …撃て!」
 弾幕を風呂敷きにかすりながら、走っていく二人の影。
 ブラインドを下ろしながら、笑うお嬢様。
 魔理沙がスターダストレヴァリエをまきながら脱出した。
アリス「冬コミ版春の京人形-Lunatic-!」
魔理沙「それありか!」
チルノ「ノォ!」

 夜明け前、紅魔館上空。
ルーミア「おっはよー」
魔理沙「…?」
ルーミア「今日だっけ。紅魔館に新しい本棚が入るっていうのは」
魔理沙「そうか」
ルーミア「…熊○弁じゃないのね」
魔理沙「…私はもともと使ってないぞ?」

 前夜、深夜の紅魔館図書室。
チルノ「…この本棚の中に、1tの靴下が…」
フランドール「フフフ、任せておいて。ああ、靴下。イィ。すごくイィわ!」
魔理沙「やばくないか?」
チルノ「大丈夫、バカだから。それよりほとぼりがさめるまで、番、よろしくね」
魔理沙「なんだって?」
チルノ「私もメイドになるよ」
魔理沙「おい」
チルノ「12億を、フイにするなんて言わないよね」
 12億ってあんたマジで信用してたのと魔理沙は思ったが、いざバレたら恐いので、何も言わなかった。
 言えん、とても私の趣味とは言えん。
チルノ「そんな顔しないで。一年の辛抱だしさ」
フランドール「ふふふ、神聖な図書室の本棚の後ろに、汚くて臭い靴下がつまっていると思うと…フフフフ、アハハハハ!」
魔理沙「…」

ルーミア「どうしたの?」
魔理沙「いや、なんでもない」
ルーミア「…ふぅん。なんだか陰があって格好いいね」
魔理沙「え?」
ルーミア「なんでもない。じゃねー」
 ルーミアの後ろ姿を見ながら、魔理沙は靴下で汗を拭いて、そのまま真っ逆様に墜落していった。

[かどわかされて]

魔理沙「次のターゲットは?」
美鈴「…Miss.Rがはじき出したターゲットは、これです」
 魔理沙は、写真を一瞥して希少品入りのホットドッグをかじった。あまりうまくない。
魔理沙「報酬は、いつもの神社の賽銭箱に」(どうせ霊夢は見ないし)
美鈴「幸運を祈ります」

 紅魔館、地下室(フランドールの寝室)。
魔理沙「ということだ。どうする、お前達は?」
チルノ「私は降りるわ。末端価格で12億の靴下があるのに、そんなしけた仕事してどうなるの?」
フランドール「ふふふ、嫌がる靴下から弾幕を奪う…フフフ、イィ、すごくイィわ!」
(註・かなり違う。というか弾幕関係ないし)
魔理沙「…OK。それじゃあ、私と妹君でいくさ」
チルノ「待ってよ、足がつくようなことしないでよ。…ねえ! …なんでそこまで靴下にこだわるの!」
魔理沙「まだ見ぬ臭いが、私をかき立てるのさ」
フランドール「フフフ、そういうことよ」

 紅魔館、正門前。
4面中ボス「どうしたんですか?」
美鈴「…いえ」
 4面中ボスは、少しだけ微笑むと、少し高い位置にある美鈴を見た。
 小さな幸せを感じる。
 美鈴は、魔理沙とフランドールの手にかかる4面中ボスを思って胸を痛めた。
美鈴「…馬鹿な…何を考えている」
4面中ボス「はい?」
美鈴「…いえ」
 4面中ボスは、頭部の翼を揺らして微笑んだ。少しだけ、頬が赤いのを感じる。
美鈴「…」
4面中ボス「はい?」
 自分が好かれていると、確信したのは、それがはじめてだった。
 美鈴は、編んだ髪をかきあげて照れる。
美鈴「…実は…」
4面中ボス「はい」
 バタ。
 4面中ボスが、倒れた。
フランドール「フフフ…」

 く・つ・し・た。

 異様なポーズのまま、両手に持たれるバナナの皮。
魔理沙「良くやった、ソックスシスター。じゃあ、いただくか。…何?」
美鈴「やり方が乱暴過ぎるわ!」
魔理沙「おいおい。ソックス中国」
美鈴「私をその名で呼ぶな!」
フランドール「フフフ、興奮してるわね、あなた。興奮しているわね!? イィ、スゴク、イィわ!」
魔理沙「そうか。じゃあ、手伝え」
美鈴「…だ、駄目よ」
 美鈴は、4面中ボスをかばうように手を伸ばして前に立った。
魔理沙「駄目…っておい。依頼は?」
美鈴「…」
魔理沙「靴下脱がせるだけだろうが」
美鈴「駄目と言ったら駄目です」
魔理沙「…お前…」
フランドール「フフフ…ノーマルのフリを。無駄よ。あなたはもう…」

 だ・ん・ま・く。

フランドール「の、虜」
 異様なポーズのまま、両手に持たれるバナナの皮。
魔理沙「…おまえ、わざと間違えたろ」
 遠くでブラインドを下げて見ているお嬢様が、口だけ笑わせた。
美鈴「私を変態のように呼ぶな!」
 美鈴は、二十日物の靴下を懐から出しながらフランドールに投げつけた。
 悶絶するフランドール。魔理沙は、靴下を華麗によけながら懐に手をやった。
魔理沙「…実力行使か!」
 魔理沙が、伝説の1年靴下を出す。あまたの敵を倒してきた、伝説の靴下。
魔理沙「…私達に言葉はいらないと思わんか」
美鈴「…フッ」
 魔理沙は、光る液体を飛ばしながら地面に飛んだ。
 息を吸い込んで、倒れる美鈴。
 美鈴は、意識が飛ぶ刹那、4面中ボスに向かって、手を、伸ばした。
 4人が別々の方向をむいたまま発見されたのは、それからずいぶん経ってからである。

[悲惨]

 お嬢様は、ブラインドを下ろしながら、外の風景を見た。
 口だけを、笑わせる。

フランドール「フフフフ、ソーックス」
魔理沙「どうした」
フランドール「緊急の仕事よ。お姉さまからの」
魔理沙「報酬は?」
フランドール「咲夜の二十日もの。メイドなのに洗濯なしという貴重品」
魔理沙「…いいだろう。やばそうなヤマだな」
フランドール「BINGO」

 妖々夢、某所。
レティ「どうしたの?」
橙「…ううん、悪寒が」

フランドール「今回だけは、拒否する権利を与えてもいいと、お姉さまは言ってるわ」
魔理沙「断られるとは思ってもいないくせに。…あのお嬢様」
 魔理沙の脳裏をよぎる、血と靴下にまみれた少女の顔。
魔理沙「いいさ、たまにはそういうのも悪くない」

 そして、迷い家に悲劇が訪れる
橙「ソックス!」
魔理沙「私の名前だ。地獄に行っても忘れるな」
 魔理沙は、二十日物の靴下を顔に押し付けた。
 倒れる橙。猫型の嗅覚にこの刺激はきつすぎた。
 魔理沙は、靴下を胸元に収めながら、風に踊る眉を、相棒に向けた。
フランドール「行こっか」
魔理沙「ああ」
 並んで歩くフランドールと魔理沙の髪が揺れた。

[陰謀]

美鈴「ひさしぶりですね」
魔理沙「で、今、彼女はどうなんだ」
美鈴「ソックスハンターとは関係ないでしょう。…なんですか、そのヒソヒソ話は!」
フランドール「フフフ、秘密よ」
魔理沙「なんのことかな」
美鈴「…ゴホン。えー、そう、本題です。Miss.Rは1tの靴下を買ってもいいと言っています」
フランドール「ごまかしてるわね」
魔理沙「ええ、そりゃばっちり」
 美鈴は、気を込めた拳を魔理沙の眉間に向けた。
魔理沙「OK。受けようじゃないか」
美鈴「…それでいいんです。それに条件が一つあります」
魔理沙「なんだ」
美鈴「…全員の靴下を」
魔理沙「分かった。この紅魔館の全部の靴下だな」
美鈴「…頼みましたよ」
 美鈴が立ち去る。
フランドール「気をつけたほうが、いいかもしれないわね」
魔理沙「…ああ。…そうだ。そのために、用意して欲しいものがある」
フランドール「なにかしら」
 魔理沙は笑うと、靴下を取り出して嗅いだ。
 首がガクガク揺れた。
魔理沙「この快楽を味わうのも、最後と言うことだ」

[最終回]

 紅魔館屋上、中天に紅い月の浮かぶ晩。
 魔理沙は、アタッシュケースを置いた。
お嬢様「来たわね」
フランドール「フフフ。1tの靴下の目録と、そして、みんなの靴下よ」
美鈴「…おっと。その前に代金をいただこうか」
お嬢様「…代金は、これよ」
 お嬢様は、指を鳴らした。
霊夢「そこまでよ!」
 物陰から、残機ボム共にフルスペックの巫女が出てくる。
 向けられるお払い棒。
魔理沙「…」
フランドール「裏切ったわね」
お嬢様「フフッ。悪党の信義なんて、そんなものよ」
 お嬢様は、薄く笑った。
 傍らに立つ霊夢が、スペルカードを抜いて、腕を伸ばした。
霊夢「…」
 ボムの照準を、お嬢様に向けた。
霊夢「あなたもよ。レミリア」
レミリア「え? なにそれ」
 霊夢は、揺れる瞳をお嬢様に向けた。
霊夢「…私の足袋だけで満足していればよかったのに…」
レミリア「…女は、いつも新しい靴下を求めるものよ」
魔理沙「おいおい、仲間割れか。これで、50:50だな」
レミリア「どうかしら」
 お嬢様は、霊夢の方を向いた。
レミリア「すいません、もうしません。ごめんなさい」
魔理沙「あ、きったねー。それありかよ」
レミリア「黙れ。勝てば官軍よ」
 フランドールが、隣で頬をひくひく言わせている霊夢を見た。
フランドール「…ふ、そろそろ最後のようね」
魔理沙「そうだな」
フランドール「やりますか」
魔理沙「ああ」
 フランドールは、手に持った秘弾の符を放った。
 そして、弾幕に巻き上がっていくたくさんの靴下達。
 魔理沙は靴下と共に爆風に飛ばされながら、満足げに笑った。
 あの時と同じ星が、自分を見ていた。

目次