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オレはアイツの笑顔が大好きだった。
+笑顔の行方+
オレ達は同期でアカデミーの教師になり、それからずっと同じ道を歩んできた。いつも一緒に笑い、そして涙も共に流してきた仲だ。
アイツは気が付いていない。
オレがアイツのことをどれ程大切に想っているかを。いつも一番近くで気の置ける仲間を演じている。この先もずっとそのつもりだ。お互いが伴侶を得ようとも、そうすればずっと共に居られる時間があるのだと、そう思っていた。
いつもの様に今日も午後から二人で受付に座っていた。
最近なんだか顔が優しさを増したような気がするのは気のせいか。
「なんだ、イルカ。最近顔がやけにニヤけてるじゃねぇかよ〜」
少しちくりとする胸の痛みをやり過ごして、からかうように言うと、一瞬顔を赤くして次には人の背中をバシバシと叩く。
気の合う同僚で親友。
こんな時は引き攣りそうになる表情が辛い。
「なんか良い事会ったみたいだな〜。どうしたんだよ。」
丁度受付もこの時間は閑散としていて私語をしていても誰もいないから安心だ。
こういった時間に共に過ごす時間も自分にとっては楽しい時間なのに、今日はなんだか少し辛い。
「まぁ…良い事って言うか。うん。嬉しい事は最近合ったかな〜?」
「へぇー!オレには内緒かぁ?これだけつき合いが長いってのに!何だよつれないな〜。」
茶化して言うもイルカはそれ以上何も言わなかった。
ただ、やっぱり嬉しそうに笑っているだけ。
その事に少し寂しさも募りながら、いつか絶対に聞き出してやろうと心に決めた。
自分の知らないイルカが居るなんて、耐えられないと思ったから。
しかしその秘密は程なくしてあっさりと解ってしまった。
それは夕方、もうすぐ自分達の受付業務が交代の時間になろうとしていた時だった。
人も疎らな受付の入口に最近よく見かける上忍の姿を見付けた。
その人は里が誇る優秀な忍だ。
最近は下忍育成を担当しているのでこういった時間にもよく見かけるようになった。
見た目とは違い結構気さくだ、とイルカは話していた。
何故、イルカがそんな事を知っているというと、イルカが教えていたアカデミーの生徒達がこの人の下忍担当になって交流を持つようになったとかなんとか。
はたけカカシ。二つ名を持つ里一番の上忍。
カカシさんはこっちを見て優しい目で笑った。それが何か違和感を覚える。
自分の方ではない、イルカの方を見て笑ったのだ。
背中が寒くなるのを感じてぞわぞわと嫌な気持ちが沸き上がる。
カカシさんは手にヒラヒラと報告書を持って受付の前に立った。
「これ、お願いしますネ。イルカ先生、もうすぐ終わりでショ?」
まるで「迎えに来ました。」と語尾に付きそうな言い方に目を丸くした。
横を見れば、イルカはあまり変わらない笑顔を向けていた。
だが、オレには解る。ずっとずっとイルカを見てきた俺には解るんだ。
イルカがカカシさんの事を思ってる事が。
気が付いてしまった。
なんて哀しい結末だ。
イルカが他の女を選ぶのなら諦めもついたのに。
寄りによって同性でしかも里一番の忍を選ぶなんて。
いや、それは違うのかもしれない。
イルカが選んだのではなく、イルカが選ばれたのだろう。
イルカの人柄と優しさに。
カカシさんが惹かれて、カカシさんがイルカを選んだのかもしれない。
だったらアンタは人を見る目がある。
だってオレの大好きなイルカを選んだんだから。
「もうすぐ交代も来るし、お前もう帰る仕度して来いよ。カカシさん待たせても悪いだろうし。」
そう言ってオレはカカシさんの報告書をイルカから奪って手を振った。
「そうか?悪い。この埋め合わせはちゃんとするよ。」
イルカはそう言ってオレに笑ってくれた。
大好きな笑顔だった。
カカシさんの報告書に目を通し、判子を押す。
「受理致しました……」
どうしてもカカシさんの顔が見れなかった。何となく重い沈黙がそこに流れた。
きっとカカシさんは気が付いているんだろう。
自分がイルカに対して持っている感情に。カカシさんも同じ感情をイルカに抱いているのだから。
顔を上げられずに用もない報告書に目を通していると、頭の上から声が振ってきた。
「アンタ…イルカ先生と同期なんだってね。……よく、イルカ先生がアンタの話題を出すんだよネ。」
その言葉にハッと顔を上げれば、少し困ったように笑っているカカシさんが居た。
その目が本気だという事が解るほど優しく笑っていて、「はい」としか答えられない。
そして居たたまれなくてまた目を反らそうとした時。
「――――ごめん、ネ…――――」
その先の言葉は、ガラッと音を立てて引かれた戸で掻き消された。
「お待たせしました。行きましょうか。」
帰り支度を済ませたイルカが入ってきた。そしてオレの方に悪いと手を合わせて、笑った。
交代の時間になり、席を立つ。
窓の側に寄れば、イルカとカカシさんが歩いていくのが見えた。
少しだけ肩が触れて寄り添って歩く姿があまりにも自然で。
目の奥が熱くなる。
オレが見ている事に気が付いたイルカがこちらに向かって手を振った。
小さく振り返すと、カカシさんもこちらを見ていた。
そしてイルカがカカシさんと目を合わせた時。
凄く幸せそうに微笑んだのが見えた。
大好きなイルカの笑顔だった。
――――――――あの人が今オレの生きてる意味だから。
掻き消されたカカシさんの言葉はオレの耳には届いていた。
大好きだったイルカの笑顔は。
オレには向けられる事は無いけれど。
それでも、きっとオレはずっとあの笑顔が大好きなんだと。
笑って泣いた。
了