このまま時が止まってしまえばいいのに。
 世間とか仕事とか自分の中にある柵も全て棄てて、この時だけはイルカの恋人で在りたかった。優しくしてやりたかった。イルカが自分から離れられないくらいに。
「…っん……」
 重なる唇からイルカの吐息が漏れる。今まで抱いたことのあるどの女よりもイルカの声はカカシを興奮させる。それは同性という禁忌を犯しているからなのかもしれない。
 くちゅり、と音を鳴らしてイルカの口腔を掻き回す。舌で上顎を辿ってざらりとした感覚にイルカの背中がぶるっと震えた。
 大きなソファにゆっくりとイルカを押し倒す。今回はこのソファが大活躍してくれている。髭面の同僚の言うことを聞いて良かったとこの時ばかりは素直に思った。キスをしながらイルカの上着の裾に手を入れて直接肌に触れる。
 びくん、とイルカの身体が跳ねてカカシの肩を押してくるのが拒絶に感じてカカシは貪る唇を更に深く重ねた。すると苦しそうに眉を寄せたイルカが今度はカカシの胸辺りをドンと叩いてくるので仕方なしにその唇を離した。
「ちょッ…待ってください……汗かいたからシャワーを……」
 そう言ったイルカの首筋に顔を埋めて胸一杯にイルカの匂いを吸い込んだ。
「いいよ…このままで……イルカの匂い、堪らないから…」
 裾から入れた手を腹から上へと這わしていく。そして女とは違う平らな胸の飾りに辿り着いた。
「…ぁっ……」
 思わず漏れてしまったという感じのイルカの声でイルカがその場所を性感帯としていることが分かった。自分じゃない同じ顔の誰かに開発された身体は従順に快楽に弱く作られていた。
 その事に胸の裡の苛立ちが増す。
――――嫉妬か。
 悔しいほどの羨望。
 何故、今まで自分はイルカと出会うことが出来なかったんだろうか、と。この世界で巡り会う事が出来ていたなら。また結果は違う物だったんじゃないだろうか。
 着ていたシャツを胸の上まで捲り上げてカカシは指で弄られてツンと尖る胸の飾りを舌で突いた。その度にイルカの甘い吐息がカカシの耳に届く。少し胸を突き出すように、もっとと強請るイルカがまた扇情的でカカシの視覚に訴える。
 ちゅ、と女にしているように少しだけ強く胸の突起を吸い上げた。
「…はっ…ん……」
「…気持ち、イイ?…」
 そう聞けば潤んだ目でイルカはカカシと目を合わせ、こくりと頷いた。
 イルカの着ている服が邪魔で愛撫を止めずに脱がしていく。自分も着ていたジャケットとネクタイを外し、そしてシャツのボタンを外していく。
 イルカの肌には無数の傷痕が付いていた。それがイルカが忍だという事実を突きつけているようで、それを消してしまいたい衝動に駆られる。無数の傷に一つ一つキスを降らして行くカカシにイルカはその度に切ない声を上げ続けた。
「…んっ…、あっ…」
 傷は沢山あってもイルカの肌は手触りが良かった。吸い付くようにカカシの手に馴染む。それを楽しむかのようにカカシは手を胸に、腹に、脇に滑らせていく。
 上気する頬がイヤらしくてカカシはその顔を覗き込むように顔を上げた。そして甘い吐息を吐き出す口を塞いでしまうとイルカの身体は余計に敏感になったような気がした。声を抑えられて行き場の無くなった喘ぎが身体の中に溶けていくように。深く強く舌を絡めて息一つ逃したくないとカカシはイルカを追い詰めていく。
 そして思わず漏れた言葉。
「…スゴイ気持ちいいネ…アンタの身体……」
 オレの方が食われそう。そう言ってカカシはイルカのズボンの前を寛がす。中心は既に昂ぶっていて前が緩やかになってからなのかひくりと卑猥に戦慄いた。
 やわやわと下衣の上から擦ってやるだけでイルカの身体は何度もビクッと跳ね上がる。
「ずっと、溜まってた?」
「…し、りま、…せん……」
 拗ねたような仕草もまた可愛かった。自分がイルカに傾倒しているのがよく解る。男のイルカのこんな仕草が可愛く感じられるのだから不思議な物だ。
 こんな姿をいつも向こうの自分にも晒しているのだろうか。またそんなことを考えてしまう。
 今だけ。
 そう自分に言い聞かせたはずなのに。
 こんな姿を見せられては到底無理だ。このまま自分の物だけにしたい。
 下衣も取り払いイルカは何一つ身につけていない。両手で顔を隠しその隙間から見える顎や首筋が悩ましかった。今は何も考えずにいて欲しい。
 きっと終わった後イルカは羞恥と激しい後悔を覚えるはずだ。
 間違いなく自分は向こうの世界のカカシとは別人で、これは明らかに裏切り行為になるはずだから。
 オレも性格悪いな。
 何か一つでもいい。自分と同じ姿形をしていながらこの人を自分の物にしている男を見返してやりたかったのかもしれない。
 それ以上にイルカを好きになってしまっている自分がそこにはいた。
 剥き出しのイルカの性器に唇を寄せる。先端をちゅっと吸い上げてそしてまた離す。
「…あっ…、ん……」
 ぬるりとした生暖かい刺激にイルカの背中が弓形に撓った。何度も先端を吸い上げてそして溢れる蜜を吸い取ってやる。その間カカシの手はイルカの内腿やその狭間にある二つの膨らみを刺激してその度にイルカの身体が面白いように反応するから愛撫することでカカシの身体も興奮していた。
 これ程愛撫によって自分が興奮したことがあっただろうか。そう思うほどカカシの中心も十分力を持っていて張り詰めた物が痛いくらいだ。カカシも着ている物を全て取り払ってイルカに押し掛かる。
 触れる肌が熱くて心地いい。
 重なったお互いの物を擦り付けて腰を揺らした。
「…あぁ……アンタヤバイくらい可愛いよ……」
 その潤んだ目とかたまんない。と耳元で囁かれたイルカは羞恥で顔を赤らめた。
「…そ、んなこと……言わない、…で……」
「どうして?……ほら、顔見せてよ」
 両腕を交差して隠してしまった顔を見るために両腕を取ってソファに縫いつける。
「こっち、見て……」
 ギュッと目を瞑ってしまっているイルカに優しく言えば怖ず怖ずと目を合わせてきた。そして一瞬だけ左眼を見て哀しそうな顔をした。それはきっと自分の眼が赤くなかったからだろうとカカシは思う。
 代わりで良いから、と言ったとしても自分の左眼は赤くない。だからカカシは敢えて優しく笑う。
「ゴメン、ネ?…眼は紅くないから……代わりにならないかな……」
 そう言わせてしまったとイルカは更に哀しそうな顔になり自分から両の手をカカシの首に巻き付けて身体を隙間無く合わせてきた。
「…ごめん、なさい……」
 小さな声でそう言って。
「カカシ、さん……」
 と名を呼んだ。
 カカシにはそれが自分なのかそれとも向こうの世界のカカシの名だったのかは分からなかった。
 忘れさせることは出来ないが、今この時だけは何も考えられなくすることは出来る。身体を溺れさせて頭の中を真っ白にしてやればいい。
 だからカカシは激しいまでの愛撫をイルカに与えた。
 グズグズになって体中体液まみれになって、快楽だけを追えばいい。
 イルカの胸の突起を痛いくらいに摘みながらイルカの中心を扱きあげた。
「…あ、あ、…はっ…、ん……」
 上ずった声がイルカの絶頂が近いことを教えてくれた。
「だ、、め……カカ、シ、さん……、っく……」
「イイよ、達って?」
 耳朶を甘咬みしてそしてわざと音を流しながらくちゅりと舐め回した。
「あぁぁ……ん…!!」
 ビクビクッと身体を痙攣させてイルカが放埒を迎えた。グッタリと弛緩させている身体は力が入らないようだ。カカシは手に放たれたイルカの精液をイルカが放心して焦点の定まらない目線の先でくちゅっと音を立てながら舐める。それをイルカが理解する前にイルカの脚を大きく開かせてこれから自分を迎える場所を暴き出す。
 イルカの出した物の滑りを借りてそこはすんなりとカカシの指を迎え入れてくれた。それもまたイルカの身体が男を迎え入れることに慣れているのだと実感するのが辛かった。
「…んっ……は…ん…」
 後口がゆっくりとカカシの指を奥へと誘い込む。カカシは今まで男との経験は無かった。だがその知識を知らなかったわけではない。捜査上色々な人達と触れあってきて実際そう言った部類の人たちも沢山居たからだ。後ろを使ってするのはリスクが高い。だから自分達は常にセーフセックスを心がけて居るんだと、何かの事件に関わったゲイの調書を取ったときに言っていたのを思い出す。
 きつく感じられた物が少し綻んで、上下に動かすのもスムーズになった。カカシはもう一本指を増やしてさらに奥を探る。
「あ…あっ……」
 イルカはもう快楽の中にいるだろう。潤んだ目はカカシを捕らえているが何処か恍惚としていてそれがまたイヤらしかった。
 カカシは長く奥へ入り込む方の指をクイッと曲げてみた。するとイルカの身体がさっきとは比べようがない程に跳ね上がった。
「…ひっ…ああぁ…!……」
「これ…悦いんだ……ああ…前立腺ってここなのか……」
 その場所を何度も何度も指の腹で擦り付けるとその度にイルカの身体はビクビクッと揺れる。顎が上がり喉元が晒される。
「あ、あ、……そ、こだ…め……また……」
「イっちゃう?」
 その言葉にコクコクと頷いてそしてイヤイヤをするように首を振った。
 指を増やして更に中を掻き回してやれば、喘ぎっぱなしの口からは唾液が流れ落ちた。
「…はぁ…ん……ん……」
 イルカの視線がカカシと絡む。その眼が何を訴えているかは分かったが敢えてその通りにしてやるつもりもなかった。
 言わせたい。自分を欲しいと言葉だけでも良いから言わせたかった。
「言って?イルカ先生……どうして欲しいの?」
 指の動きを激しくしてそれでも放埒を迎えないように加減をする。
「……れ、…て……」
「聞こえないヨ?」
 恨めしそうに睨むがそんな物は大したことじゃない。
「ちゃんと、言って?これが欲しいってちゃんと……」
 オレを欲しいと。
 イルカの手を自分の中心へ持って行きその昂ぶりを握らせるとイルカの中がきゅっとカカシの指を締めた。
「…欲、しい……カカシさんの、これ……入、れて………くださ…い…」
 名前を呼ばれ、欲しいと願った言葉はカカシの中で膨らんでいく。
 欲しかった言葉だけど、それはとても酷い痛みとなってカカシの中に残っていった。
「イイよ……あげる…アンタに全部……」
 指を抜いてイルカの身体を二つに折り曲げた。苦しみよりもその先にある快楽が見えているからその体勢も苦痛ではなかった。
 グッとイルカのヒクつく口に先端を押しつけてそのまま押し込んでいく。絡み合う粘膜が熱くて気持ち良かった。
 最後まで挿入した時、ぴったりと重なるその身体が自分のために誂えた物のようだと思った。その位気持ち良かった。
 馴染むまで待つつもりだったがもうカカシの方が限界だった。
「あ、あ、あ……あ…はっ……ん…」
 腰を引きそしてまた叩きつける。そのストロークが始めはゆっくりと焦らすように動き段々と早さを増していく。
「…あぁ……ヤ、バイ…」
 カカシの余裕のない声が振ってきてイルカはカカシの髪に指を差し入れた。
 そして初めてイルカを見付けたときに見せたあの笑顔と同じ笑みを浮かべていた。
「それは、反則でショ……」
 そう言ってカカシは思いきりイルカの中を掻き回して激しく叩きつけた。
「ひゃっ…あ…あ…ん……!」
 激しくなった挿入にイルカの声も一際高くなった。もう何も考えられないくらいに快楽を感じてその眼からは涙が流れ落ちる。
「……も、…イ、ク……ああぁぁ!」
 身体を仰け反らしドクドクとその欲望を吐き出した。それと同時にきゅっとカカシを咥えていたイルカの後口が締まりその最奥にカカシの精が吐き出された。
「…イ、ルカ……」
 名を呼んで愛おしさを増す。
 この瞬間を忘れないようにと。
 カカシは脱力しているイルカを強く抱きしめた。




 その後、何度もイルカを抱いた。もう何も出ないとイルカが泣くまでカカシはイルカの中に自分の欲を放ち、日付が変わる頃までイルカを解放しなかった。
 風呂に入ることもままならないイルカを支えながら結局一緒に風呂に入り最後まで面倒を見た。
 ある意味カカシには至福の時だったかもしれない。
 イルカへの恋心を自覚した時から、もうこの想いは叶わない物だったから。
 その日、カカシはイルカを泊めた日以来、初めてイルカを自分のベッドに寝かせた。
「今日だけ一緒に寝よ?」
 今日一日だけアンタのカカシだから。と狡い言葉を使って。
 イルカを抱きしめて眠る喜びに打ち拉がれながらも。
 安らかな眠りへと落ちていった。















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――――2008.3.12.up