それから少年を狙った殺人事件は一切起きなかった。
 結局何も手がかりになるものは見付からず、のちに事件はそのまま迷宮入りになってしまうことになる。
 カカシはそれを分かっていた。いくら捜査しても犯人はすでにこの世には居ない。そして犯人が捕まることもない憤りを被害者の家族は味合わなければならないのだ。
 それを思うと胸が痛む。この事件の真相を知っているのはこの世で自分だけだ。だがこれを公表しても誰一人として信じる者はいないだろう。
 今までカカシが手がけてきた事件で解決できないものは無かった。だがこの事件が初めてカカシの中に残る汚点となるだろう。それでも、色んな事を得た事件だったと思う。非現実的なことを受け入れる許容も出来た。何より誰かを想う気持ちが自分にまだ残っているという事が一番の収穫だったかもしれない。
 だからそれを甘んじて受けようとカカシは思う。自分の胸に全てを封じて。

 イルカが居なくなった翌日、アスマがやけに嬉しそうな顔をしていたので「どうしたんだ」と話しかけた。
「ほら、前に意識不明の昏睡だった後輩がいるって言っただろ?」
「ああ、その後はどうなんだ?」
 アスマの明るい表情から先の事は大体予測済みだが敢えてそれを聞いてみる。
「昨日、意識が戻ったって病院から電話があった。一ヶ月近く寝たきりだったからこれからリハビリして現場復帰だそうだ」
「よかったな」
「ああ、ホントにどうなることかと思ったぜ。結局原因は解らず終いだがアイツが無事に戻ってくるのならそれで良い」
「そう、だね」
 カカシが欲しかった相手はもうこの世の何処にも居ない。
 アスマの表情が晴れやかで少しだけそれが羨ましく思えた。アスマは後輩を随分と可愛がっているらしいのがそれだけでも伺える。自分にはそんな対象はイルカが初めてだった。
 今まで避けてきた面倒事が今では一番大切なものだと解る。人との関わり合いというのは何よりも掛け替えの無い物だと。
「今度快気祝いにパアッとやってやらねぇとな」
「喜ぶんじゃない?」
「お前も来いよ」
 その言葉に一瞬言葉に詰まり、そしてカカシは首を横に振った。
 自分も変われると思えるようにはなったが、今はまだ傷が癒えていない。じくじくした部分を自分なりにしっかりと治してから変われるのならば変わりたいと、カカシはそう思っていた。
 だから、まだこれ以上誰かを自分の中に入れるのは怖いと思う。
「うーん、それはまたいつかね」
「付き合い悪いのは相変わらずか…」
 いつものことだと諦めたアスマはそれ以上は何も言ってこなかった。
「運が良ければ来年会えるだろう?」
 アスマは後輩が希望している部署はこの捜査一課だと言っていた。来年の人事異動でもしかしたら移動してくる可能性もある。
「そうだな……その時までの楽しみにお前との対面は取っておいてやるか」
 悪戯っぽくアスマは笑い、二人はまた暑い夏の日を捜査に出掛ける。
 そして、またいつもと同じ日常が始まった。





 暑い季節が過ぎて次の季節がやってくる。寒い季節を通り過ぎて、そして穏やかな暖かな季節を迎えた。
 桜が舞う千鳥ヶ淵を見ながら季節の移り変わりを知る。あの夏から忙しさがカカシの気持ちを誤魔化して隠してくれていた。時は足早に流れて今では思い出すことも少ない。
 だが自宅に戻りふとした時にこの部屋に居た人を想い出して手が止まる事があった。結局は今もあの夜知った温もりを忘れられずにいる。この先あの夜を越えることなど出来るのだろうか。
 今の自分にはそれは出来そうにない。あの人を思い出せば今も胸が張り裂けるほど痛くて、やるせない気持ちになる。
「おはよう」
 捜査一課のドアを開け事務員に挨拶をする。いつもの通りの日常がまた始まった。
「今日から人事異動ですね〜」
 にこやかに話す事務員の子に適当に相槌を打ちながら自分の席へ向かった。
 相棒のアスマはまだ出勤しておらず、昨日残してしまった書類を渋々片付けようとカカシはパソコンを開いた。
 暫くしてアスマが出勤してきたようだ。無骨だが人当たりが良いので結構人気があるアスマと朝から事務の子達が楽しそうに話をしているのが聞こえてくる。
「おう、カカシ。今日は早いな」
「んー、昨日報告書めんどくさくてやらずに帰っちゃったからネ〜」
 昨日、一番年長だった先輩が一つ昇級をしてこの捜査一課を卒業していった。そして今日から新人がここにやってくる。
 そういえば、アスマの後輩はどうなったのだろうか。
 カカシが顔を上げ、アスマの方を見るとアスマの体格に隠れてしまっている人物を見付けた。
 髪が長いのか少し高めの位置で一つに結わいていて、それが動く度に揺れていた。
 ドキリ、とカカシの心臓が鳴る。
 些細なことで思い出すあの人も髪をそうやって良く結わいていた。
「そうだ、今日から念願のこの捜査一課に配属が決まった俺の後輩だ」
 アスマが身体をずらして後輩が前へ歩み出る。
 真っ黒い髪、その髪と同じ目の色。まるであの人を見ているようだった。
 ただ一つだけ違うのは、顔に走る真一文字の傷がない。
 カカシは声も立てずに驚くしかなかった。
 この世界にあの人が居たなんて。
 これは偶然だろうか。それとも必然か。
 あの世界のイルカがここに来たのは全てはこの為に用意された出来事だったのだろうか。



 あの日からオレの全ては、あの夏の一ヶ月間にある。
 いつか、あの夜を越えらえる日が来るだろうか。
 それをこの出合いが何かを変えてくれるかもしれないと。

 あの時言えなかった言葉を。
 いつの日か、誰かのために言える日が来るだろうか。

――――アイシテル。


 その言葉は。

――――いつか俺なんかの為じゃなく貴方の愛する人の為に。

 イルカの声が頭の中に木霊する。
 目の前にいる男は自分に一度も向けられることの無かったあの愛しい笑顔と同じ物で、その男は笑った。




「初めまして畑カカシさん。海野イルカです。これからご指導ご鞭撻の程宜しくお願いします」




 その笑顔は、誰かの為じゃなく、自分に向けられた物だった。





















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――――2008.3.28.up