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里を見渡せる丘の上に一本の大木が立っている。
その木は昔からそこにあり、そしてこの景色を見守ってきた。
大木は春になると大輪の花を身につけ、人々を楽しませてくれる。
春の日差しを浴びるように花が咲き誇るのを、一人の青年が眺めていた。
ふわりと舞う花びらを手にとって、そして小さく微笑んだ。
「今年も、たくさん咲いたな……」
火、と書かれた笠を被った青年が、この花を見るのは何度目だろうか。
そして、この先。
何度見ることが、出来るのだろうか。
自分の大切なものの眠る、この大木の花を。
朽ちぬ花
海野イルカは少し暖かくなり始めてた春の夜道を歩いていた。
暖かくなったとはいえ、まだ夜は冷え込むこともある。そして段々とその冷え込みもなくなり、春がやってくる。
そんな季節を待ち遠しく思っていた。
春は、どこか柔らかく暖かい時間を思い出せるから好きだ。
それが失ってしまった時間だとしても、イルカには大切な思い出として残っている。
(もうちょっとしたら、またあの桜を見られるなぁ……)
里のはずれにある大きな桜の木。樹齢何百年といわれているその大木は昔から里を見守っていた。
昔、桜の季節によく父と母と見に行ったものだった。手を引かれ、弁当を持って。ウキウキしながら喜んでいると、嬉しそうな父と母の顔があった。
今もう二人ともどこにもいないけれど、イルカの中にはちゃんと大切にしまってある。
そんな郷愁に懐かしさを感じながら、イルカは家路へと向かった。
部屋の前に来ると珍しく明かりが灯っていた。
(あ……久しぶりだな……)
ほんのりと胸が温かくなるのを感じ、自分の表情も揺るのが分かった。
自然と早くなる足取りに苦笑しながらも、それを止める気にはならない。
それはたまたまだった。
ふと足元を見ると道ばたに枯れかけた草があった。
(もう春なのに……可哀想だな……)
寒い冬が終わり、これから暖かな季節がやってくる。草花はこれからが色めく本番だというのにこの草はもう既に枯れかけている。
イルカは足を止め、完全に枯れていないかを確かめた。まだ根はちゃんとしてそうだ。枯れているの葉っぱだけだし、根が生きていれば少し手をかけてやることで復活するかもしれない。
「明日まで生き延びてろよ」
明日の朝、植木鉢を持ってこよう。そして鉢に入れて育てて花を咲かせてやろう。
そんな事を考えつつ、イルカはまた自宅へと足を向けた。
家の前まで来ると、待ち構えていたようにドアが開いた。
「おかえり、イルカ先生」
元々そんなに開いてない目をさらに細めて笑った顔に、イルカも釣られてしまう。
「ただいま、カカシさん」
畑カカシはイルカの恋人だ。この関係に至るまでに色々なことがあったけど、今はこうして一緒にいられるのが素直に嬉しい。
カカシはイルカが教えていた子供達の現教師になる。イルカはアカデミーの教師だが、カカシは実践で教えるために班分けされた子供達に付く教師だ。任務をこなしながら忍としての知識や力を付けていく。子供達を護りながら教えていかなければならないため、大体は上忍がチームに付くことになってる。
そんな上忍の中でも、カカシは随一の実力者だった。他国へも名が知れる忍。多彩な術と幅広い知識を持つ彼が、自分の教え子を合格させてくれた。
だが初めは意見の対立から、カカシへの印象はどちらかというと悪かった。
こんな傲慢な人に任せても大丈夫だろうか、と里長に相談もしたが、笑っていなされてしまった。
カカシが認めたのならば、大丈夫だと。決して中途半端なことはしない、とそう言って里長は自分を諭した。
それからしばらくして受付に来たカカシと話をすれば、言い争ったことを先に謝られた。
その事でイルカの態度も軟化して、時々酒を酌み交わすようになった。教え子達のことを気にしていたのを分かってくれているようで、その日あった出来事や、今日は喧嘩はしなかったとか話してくれるのが楽しくなっていった。
それはカカシと過ごす時間が楽しいのだと、気が付くのにあまり時間はかからなかった。
その気持ちがなんなのか分かろうとしないイルカに、カカシは人生で最大級の言葉を投げかけてくれた。
『オレ、イルカ先生のことが凄く好きなんですが……』
照れ笑いしながら、普通に言われた「好き」という言葉。恋愛もそこそこしてきたとは思っていたが、同姓とは考えたこともなかった。
だがイルカ自身も何処かで気が付いていたのだ。カカシのことがそういった意味で好きなんじゃないかと。だから気が付かない振りをしていたのに、その戸惑いも全てぶち破ってくれた。
その言葉に、イルカの中で答えは既に出ていたから、すんなりと頷いてしまった。
『……俺も、カカシさんが好きです』
そう言った途端、抱き締められた。
初めて触れた、と嬉しそうに呟くカカシが何処か可愛くて、イルカは緩む頬を止めることが出来ず、そのままカカシの背に腕を回して抱き返してやった。
そんななれそめからもう半年以上経つ。
二人とも忍だからこそ、時間を大切に思う気持ちがある。
いつ、何時、この命が絶たれるか分からないからだ。
そんな刹那にいる自分たちにも、幸せが訪れても良いじゃないかと、最近イルカは思うようになった。
この、大切な一時が、この瞬間が、幸せであればいいと、そう願いながら。
出迎えてくれたカカシの首に抱きついて、キスを強請る。
くすりと笑った気配がして、カカシはその欲求に答えてくれた。
「久しぶりのイルカ先生だ」
笑いながら、カカシは口布を人差し指で降ろして、イルカの唇を塞いでいった。
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