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カカシは全力疾走で林の中を駆け抜ける。
アスマもどうにか付いてきているようだが、そんな事気にしている余裕はどこにもなかった。
とにかく早く帰らなければ。
イルカが今、死と直面しているのかと思うと休んでなどいられなかった。
もし、もう死んでいたら?
カカシはきっと任務に出たことを死ぬまで後悔し続けるだろう。
死なせはしない。きっと生き残る術が何処かにあるはずだ。カカシはそれを確信していた。
自分の中にある、隠れている記憶の中にその鍵はあると。
実は思い出すように自分に術も掛けたのだが、どうにも思い出せない。
と言うことは、何か術を掛けられて故意に忘れさせられている可能性も高かった。
だから三代目の力が必要なのだ。
それにはイルカがまだ死んでないと意味がない。カカシは祈ることしかできない自分が悔しくて仕方なかった。
こんなに大切なのに何も出来ないことがこんなにも焦りを産むと、自分の忍としての甘さを自覚しながらも、それでもカカシは走り続ける。
(お願いだから、間に合って……)
里までどんなに頑張ってもあと一日はかかる。
カカシの中に今までにない焦りが渦巻いていた。
里に着いたときカカシは一人だった。アスマは途中でかなりの距離が出来てしまったので、もう少ししないと到着しないだろう。
途中、何人もの知り合いに声をかけられたが、とにかく三代目のところへ急いだ。
イルカがどうなっているのか、まだ生きているのか、それだけでも知りたかったからだ。
カカシは里の人混みを駆け抜けている途中に、七班の子供達に出くわした。
「あー! カカシ先生だってばよー!」
面倒くさい連中に出くわしてしまったと、そのままスルーを決め込もうと思ったとき、ふとこいつらなら何か知ってるかもしれないと思った。
「はいはい、今先生急いでるからまた後でね。つか、お前らイルカ先生どうしてる?」
いきなりの問いに、ナルトがそうなんだよ、とさらに大きな声を上げた。
「イルカ先生、入院しちゃってて今いないんだってばよー。おかげで演習が大変だったんだからな!」
「お前ら、会ったのか?」
「ううん、なんだか感染力が強いとかいって会わせてもらえなかったけど、話だけはしたってばよ」
カカシの焦り具合に勘の良いサスケが怪訝な顔をし始めている。
これ以上はまずいと思っても、どうしても居るかが生きているという確証が欲しい。やはり三代目のところへいく方が早そうだ。
「それはいつの話?」
「一昨日」
一昨日では昨日どうなっているのか、確証はない。
カカシは、分かったありがと、と言い捨てると三代目のいるアカデミーへと急いだ。
ドアを勢いよく開け、整わない息も気にせずカカシは叫んでいた。
「イルカ先生はっ? どうしたんですか?」
「五月蠅いカカシ。お前それでも上忍か?」
一喝されてもそんな事気にしていられなかった。
「イルカ先生は生きてるのっ?」
「縁起でもないことを言うでない。イルカは生きておる」
その言葉に、全力疾走でこの二日間駆け抜けてきたカカシの力が一気に抜けた。
「よかった……」
大きく息を吐いて、そしてカカシは三代目に詰め寄った。
「イルカ先生はどこにいるの? 会わせて下さい。それが叶えられるのなら、掴んだ情報を渡します」
「儂を脅す気か?」
「交換条件です」
カカシの真剣な表情を見て、三代目は大きく溜息を付いた。
「イルカは、お前ほど取り乱したりはせんかったぞ?」
ったく、と全てを見越している里長はカカシに着いてこいと命令してアカデミーを後にした。
カカシが連れて行かれたのは、カカシも普段立ち入ることの少ない医療班の研究施設だった。そこのさらに奥にある地下室にイルカはいるという。
「どうしても隔離が必要で、今はそこにいてもらっておる。原因が分かり問題がなければ表に出してやりたいが、今はまだどうすることも出来ん」
こんな地下室がこの里にあったとは驚きだった。エレベーターはかなり下降して、やっと目的の場所まで辿り着いた。
真っ白い壁がやけに眩しく感じる。
(……嫌な感じだな……)
気が狂いそうな白さに、カカシは一刻も早くイルカをここから出してやりたいと強く思った。
こんなところにいたら精神的にもおかしくなってしまう。
長い廊下を歩いて、やっと目的の部屋の前まで来た。
ドアの横には大きなガラスがある。引かれていたカーテンがスッと自動的に開いた。
そこには、ベッドに腰掛けて本を読んでいるイルカがいた。
ビックリしたように瞠目してこちらを見つめている。
そして、次の瞬間、イルカがベッドから飛び出しこちらへ走ってくるのが見えた。
その顔は、既に涙で濡れていてカカシは抱き締めたい衝動に駆られる。
窓越しにイルカが自分の名を呼んでいるのが分かった。
何度何度もカカシの名を呼んで泣いている。
窓に縋り付いて、額を付けて。
それだけでイルカがどれだけ辛い思いをしてきたのか分かってしまった。
イルカは人に弱みを見せることは決してしない人だった。いつでも笑っていて、心配をかけないようにと自分より他人に心を砕く、そんな人がこんな風に乱れて泣くなんて。
「イルカ先生……イルカせんせ……」
イルカの手と自分の手を重ねるように、窓に手を付けると、イルカもカカシの手に重ねるように合わせてくる。
「このインターフォンで話せるようになっとる。イルカもチャクラを食われすぎてるから、体力を消耗させることはするでないぞ」
そう言って三代目はその場を辞してくれた。
「イルカ先生……遅くなってゴメンネ?」
インターフォン越しにそう言えば、イルカは泣き笑いを浮かべた。
「カカシさんこそ、任務中なのにこんな風に帰ってきて、大丈夫だったんですか?」
ぐすっと鼻を啜る音が聞こえてくる。そんな風になりながらもカカシの心配をしてるイルカに、そんな事は気にしなくていい、と言うと小さく頷いた。
「何が、あったの? なんでこんな事に……」
イルカは端的に今まであったことを話してくれた。
道ばたに枯れかけている花を見つけ育てたこと。その花が急速に育ち、自分のチャクラを吸っていたこと。そしていつの間にか死が近づいていたこと。
「自分は死ぬことなんて怖くないと思ってました。忍だし覚悟を決めていたはずなのに……」
イルカは窓に手を当ててカカシに行動で触れたいと訴えてくる。
「……あなたにもう二度と会えないと思ったら、怖くて寂しくて、仕方がなくなった」
だから、と笑う。
「あなたに、もう一度会えただけで、俺は奇跡だと思ってます」
もう悔いはない、とまるでいつ死んでも良いと言っているような口ぶりだった。
その言葉にカカシは覚悟を決める。
「なら奇跡を起こしましょう? オレはイルカ先生を絶対に助ける。そして二人でここを出ましょう?」
そう言うと、イルカはまた泣き出してしまった。
無理だとその涙が伝えてくる。自分はもうここから出ることは出来ないのだと決めつけて、そして泣いている。
自分の生きる力をもう見失ってしまっているイルカ。
だからこそ強い言葉で、生きることを縛り付けてやる。
「オレを残して逝くことは絶対に許さないから。死ぬなら、オレも死にます。いいですか? 覚えておいて。あなたが死ぬときは、オレも……朽ちるときだということを」
縛ること、というよりは、愛の言葉だな、とカカシは自嘲する。
(愛の言葉自体、縛る言葉か)
どっちでもいい。イルカが生きることを見失わなければ、それだけでいい。
カカシの言葉にまた泣きそうな顔をして、それでもイルカは嬉しそうだった。その顔が見れただけでも急ぎ帰ってきてよかったと思った。
生きて、イルカの顔が見れて。
カカシは、顔色の悪くなってきたイルカに、ベッドに戻るように告げ、そしてまた必ず来ることを約束してその日の面会を終えた。
イルカがベッドに戻るのを見届けて、そしてカーテンが引かれた。
あの中でイルカは極限状態と戦っている。ならば早く解決方法を見いださなければ。
面会が終わったのを身か計らったように三代目が現れた。
「さて、お前の話を聞こう」
そういって、カカシは三代目と共にイルカのいる研究所を後にした。
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