執務室に戻った三代目に、土の国で見たものを報告した。その間にアスマも到着してちゃんとした報告をすることとなった。
「あの百合の事を幼いときに聞いたことがあるような気がするんです。けど思い出せない。自分に術をかけてみたけど、思い出せなかった」
「故意に、か……」
「おそらく」
 カカシの話に、少し考え込んでいた三代目が、ふと思い立ったかのように木の葉の記録を取り出した。
 今までの里の経緯が分かるその書物ももちろん今もなお引き継がれて、そしてそれは増え続けている。新たな歴史としてそこに刻まれていくのだ。
 パラパラとめくり、そしてページを見つけたようにその手を止めた。
 およそ百年前その頃、木の葉で何が起こっていたのか。
「この頃、疫病が流行ったというのを聞いたことがあった。その詳しいことはあまり分かってはおらん」
 ぽんと、差し出されたら記録書をカカシは食い入るように読み始めた。
 そして、思っていた通りの答えをそこに見つけたのだ。
「だが、今回の事件と類似している部分が多すぎる」
「三代目、木の葉にはたくさんの蔵書がありますよね? その中に、如何なる植物も網羅している図鑑があったはずです」
「それは儂も調べたが、あの百合の事は書かれてはおらなんだ」
 さすがにカカシが思いつく事は三代目もう既に実行していたようだった。
 だが、それだけではない。
 たぶん、全てはカカシの記憶の中にある。
「オレのこの記憶を思い出させてください。そうすれば百年前何があったのか、全て分かるはずです」
 カカシの言っていることに三代目は、何か思うところがあったのか、分かったと頷くと、これからカカシの記憶を呼び起こすための準備をすると言って執務室を出て行った。
 アスマと二人きりになり、カカシは大きく溜息を吐いた。
 何より早くしなければイルカの命が危ない。
「……イルカはどうだった?」
 アスマがイルカの安否を気にしていたのだろう。さすがに三代目と話している間は遠慮していたらしい。
「どうにか、無事だった。けど……早くしないと……」
「……ああ、そうだな。あいつを助けてやらないと……じゃないとナルト達に恨まれちまう」
「そうだね……」
 小さく笑ったカカシを見て、アスマは少し安心したようだった。
 そう、早くしなければ。
 イルカを救う術を自分が持っている。
 カカシはきつく目を閉じて、記憶が無事に取り出せることを念じていた。
 
 準備が整い、秘書の役割をしているコテツとイズモの二人が呼びに来た。
 印の書かれた中央に祭壇がおかれて、そこにカカシは横になる。
「掛けたのは、お主の父親か?」
「分かりません」
 父だったらかなりやっかいな封印だと思う。あの人は完璧主義だったし、と心の裡で呟いた。
 印の周りに三代目、他に暗部達が囲い、術を唱え始めた。
 カカシは意識を深く深く己の中に潜り込ませていく。暗い闇の中へ沈んでいく意識。自分ですら見たことのない潜在意識へ。
 見えてきたのは、家の縁側に座る幼いカカシと、祖父だった。
 まだこの頃は家族がみんないて、父も母もそして祖父もカカシに良く話を聞かせてくれた。
 好奇心だけは旺盛だったカカシに、祖父はいつも昔話をしてくれた。
 それが色々なところで実際に起こってきた話だと気が付いたのは、もう少し大きくなってからだった。
 ある日、祖父は小さなカカシを膝に抱いて、庭にある花を眺めていた。
 引退まではしていないが、父ほど任務の少なくなった祖父がカカシの面倒をよく見ていてくれていたのだ。
(そうだ……オレはじいさまが大好きだった)
 白い百合の花。母が大好きでその季節になると庭に百合が咲いていた。
「百合か……」
 小さく呟いた祖父の声に、カカシは小さな頭を振り返らせる。
「じいじ、あれ嫌い?」
 祖父の声があまり良い感じの声ではなかったのだろう。幼いカカシが辿々しく聞いている。
「そんな事はないよ。ただあれと同じ花がな……昔この里を襲ったんだよ。カカシは分からないかもしれないけど、じいじのおばあちゃんはその花の犠牲になって死んだんじゃ……」
(なんだって……? やはりあの百合は……昔もこの里にあったということか)
 ふわりと浮いている感じがしている。自分の幼い頃を上から眺めているようなそんな感覚でカカシは記憶を呼び起こしていた。
 小さなカカシの頭を撫でて、祖父は訥々と話し始めた。
「昔、あの花と似た形をした、真っ赤な花がきれいにたくさん咲いたんだよ。だけどその花は、ただきれいなだけじゃなかった。人の命を奪う花だったんだよ」
 カカシが小首をかしげると、分からないか、と祖父は自嘲してそれでも話を止めなかった。
「みんな突然死んでしまう病気にかかったと思っていたが、それは間違えだった。あの花が……全てを吸っていた。それを祖母様が探り当てたが、誰も信じなかった。誰も信じてくれず、それでも祖母様は里のみんなを助けたいと一人犠牲になった」
 カカシの頭をなで続けている祖父の手が止まる。
「ばあさま、死んじゃったの?」
 幼いカカシの問いに、祖父ははっとした表情を見せた。
「そうか、お前は賢い子だったな……こんな話をして里に対して不信感を抱かせるのはよくはないことだろう。だが……真実は知っておくべきだ」
 祖父のまなざしは真剣だった。だからカカシも半分くらいしか分かっていなかっただろうけど、小さく頷いていた。
「祖母様は、どうしたらこの死の連鎖を止められるか必死に花を研究した。自分も同じようにチャクラを吸い取られながらも。そこで咲き誇る花が種を残すんじゃないかと考えた。だがどの遺体に寄生した花にも種はつけていなかった」
(……種。それが鍵になるのか……種をどうにかしたら、イルカ先生は助かるかもしれない)
 その光景を眺めているカカシは糸口が見えたような気がした。
「種をつけるには大量のチャクラが必要になる。祖母様はそれを、大地から集めようとした。人からではなく自然の力を借りて。だが花が根を張りどこへつながっているのか、チャクラをどこへ流しているのかとその流れを追っていって愕然とした。花が吸ったチャクラは全てこの大地の核へと流れていたのだ」
 難しくなってくる話にカカシはさすがに話が分からなくなってきたのか、ただ聞いているだけのようになっている。それでも祖父は話を続けた。
「種を実らせると、花は自然とチャクラを吸うのを止めた。その種を作ったのは祖母様だった。自分のチャクラを全て使って、他へ花が触手を伸ばさないように全て断ち切って、自分の命を犠牲にした。そして種を作りそれを焼き切ってくれと言って亡くなったそうだ」
 そこで祖父は苦々しい顔をする。何か嫌なことを思い出したようだった。
「だが、里の人間は祖母様の必死の、命がけの努力を認めようとしなかった。たまたまあそこで途絶えただけだとそういって研究した資料も鼻で笑った。だからその資料は未だに里へ渡さず、この家にある」
「お家にあるの? 僕それ読みたい!」
 何のことだか分かっているのかいないのか、カカシはその研究資料を読みたい言っていた。昔から書物をよく読んでいたがこんなものまで読んでいたとは、自分でも思い出せなかった。
「それは、また今度な。カカシが大きくなったときに、もしかしたら必要になるかもしれない」
 祖父の発言は、この大混乱を予測していたようなものだった。
(ああ……じいさまはこうなることを知っていたんだ……だけど一族の誇りを貶されて許せなくて、ずっと隠してきたのか……)
 もっと早くに分かっていれば、イルカはこんな事にならなかったかもしれない。
(じいさま、ごめん。オレはあの人を助けたい。一族の誇りよりもあの人を選ぶよ)
「いつか、カカシがこの資料を使うときがきたら、使いなさい。それまでは里に不信感を抱いて欲しくはない。じいじも勝手なことを言ってるな」
 そういって、祖父はカカシに資料の在処を教えてくれた。
 その後、幼いカカシの記憶を消した。
 カカシが記と憶にあるのは、日溜まりの中で祖父に抱かれて眠っていたところからだった。これで全ての記憶がつながった。
 パチン、と音がしたような気がして、カカシは目を覚ました。 
 目の前には、三代目の姿があった。
「思い出したか?」
「はい」
 カカシはこの時はまだ、これでイルカを助けられると信じていた。
 

 



 













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――――2009.5.31.up