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全てはあなたの為に存在して。
それを形成する全てを投げ出してでも奪い取る。
それは――――あなたの為に。
+愛を成す全ての物を+
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どれ程あなたを想っているかなんて。
きっとあなたには解らないんだ。
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1,カカシ
その人はいつも笑っていた。
受付にいつも座っているその人は報告書を受け取る時も、いつも帰還した忍達に「お疲れ様でした」と、労いの言葉を掛けて微笑んでいた。
三代目を亡くした時も、彼の泣く姿はそこには無かった。情の厚い人だと回りの人は言うけれど、決して人前で涙を見せるような人間では無いのだろう。
三代目からは取り分け可愛がられていたらしく、執務の仕事も頼まれていたらしい。それほどの忍が何故中忍のアカデミー教師に止まっているのかと不思議に思っていた。
それは自分がその人と関わり合う様になって何となく解ってきた。
はたけカカシが下忍育成の担当をすることに決まったのは少し前の話しだ。
まだ三代目も存命していた時の話しで、その時、やはり彼は三代目の側にいて心配そうな顔をしていたのを覚えている。
過保護、とまでは言わなくてもかなりの心配性で、特に目をかけていた九尾の子供、うずまきナルトを担当することになった自分に対しやたらと頭を下げていた。
上忍で他国にも知られるほどの忍の自分に屈託無く話しかける彼は、思いの外、強かなのだろうか。
うみのイルカ。
アカデミーの教師で中忍。凛とした姿がいつの間にかよく目に付く様になっていた。
中忍試験を受けさせることを決めた時もはっきりとこちらに意見をしてきた。
凛とした姿はいつもの通りで。
カカシはその場はイルカをやりこめたが、その後、話しをしてちゃんと和解もした。
それからだった。
カカシとイルカはよく居酒屋で酒を酌み交わす様になった。
イルカと居ると虚勢を張らなくてもいいんだと、思える様な雰囲気を作るのがとても気持ち良かった。
さすが教師。話しも上手いし楽しい。そして話を聞くのも上手だった。
回を重ねるほどカカシは痛感していた。
自分は人としてこの人が好きなのだ、と。
そしてそれは自分にとって特別な存在になる物だという予感も頭の何処かでしていたのかもしれない。
カカシもイルカも特にそう言ったことを気にしたことはなかった。忍という特別な世界に居た為に同性同士の恋愛と言うことも珍しいことではなかったし、もし自分にそう言う気持ちが沸き上がっても受け入れられるだろうと思っていた。
そんな話しもするくらい、2人はよく一緒に行動を共にする様になっていた。
カカシがイルカの帰りを待つ事もあった。アカデミーの事務的な仕事の方が終るのが遅いのだ。時には任務帰りにイルカの家に押し掛けて夕飯をご馳走して貰ったりした。そんな迷惑な行動を取ってもイルカは笑って受け入れてくれていた。
だから、カカシは想う事があった。それは勘違いなのかも知れない。彼は誰に対しても同じようにするのかもしれない。だが。想わずにはいられなかった。
――――自分は特別なんじゃないか?
自分がイルカの事をそう想っているように……
その空間は、ゆったりと過ぎて行き、緊張の中で生きてきたカカシにとってそれが初めて知った安らぎだった。
ごろり、と畳に横になり、日頃ナルト達から「いかがわしい本」と称されている本を手にしていた。隣の台所で動いていた気配がこちらに近づいて来て、
「もうすぐ用意できますから、卓袱台を拭いてくださいよ。カカシさん」
と言って布巾をカカシの方へと投げてよこした。
今日はイルカの家で夕飯をご馳走になるという話しだったので、酒を土産に上がり込んでいた。
カカシはイルカと共に過ごす時間が好きだった。自覚してしまってからは自分らしくないとは思いながらも、普通に今まで通り過ごしてきた。
これが女だったらとっくに口説いて自分の物にしている自信もあった。
だが、何か今までと違う。
相手が男だからとかそう言うことではなく。
カカシにとってイルカの存在が今までの誰よりも特別なんだと、そう気が付いてしまったから。
だから余計に何も出来なくなっていた。このイルカという存在をどういう関係であれ失いたくない。だからこのままで、この空間を与えてくれるのであればそれでも良いとカカシは思っていた。
体を起こし卓袱台に落ちた布巾で表面を拭く。ほどなくしてイルカが皿を運んできて、何回か台所を行き来して皿を卓袱台に並べた。
「美味そうですネェ〜」
「秋刀魚はもう終わってしまったので、鯖にしてみました。味噌煮、大丈夫でしたか?」
「大丈夫です。魚は好きなので。」
「じゃぁよかったです。食べましょう。」
頂きます。と箸を上げ早速イルカの作った夕飯を食べ始めた。
会話はいつもと同じように、息苦しくもなくて、そして楽しかった。
持ってきた酒も至極美味く感じている。一通り食事を食べ終わり、後は酒をちびちびとやりながら他愛もない話しで盛り上がっていた。
ふ、とカカシの手が止まる。酒を口に運ぼうとお猪口を手にしたがそれが口へ運ばれることは無く、カカシは目の前にいるイルカを見つめていた。
このままでも良い。
いや。もしイルカが他の誰かと結婚なんてしてしまったら、この自分にとって特別な空間が無くなってしまう。
それでもイルカと繋がっていられるのならばそれでもいい。このままで。
堂々巡りだ。
結局は臆病なだけ。初めて知った人としての安らぎに、臆病なほどの思いを抱いている自分にも嫌気が刺す。
「どうしたんですか?カカシさん。お酒、零れますよ?」
手にしていたお猪口が傾いて酒が零れそうになって、「おっと・・」と急いでそれを口に持っていき一口で飲み干した。
「珍しいですね。カカシさんがそんな考え事なんて。」
「…まあね、たまにはオレだって考え事くらいしますよ。酷いな、イルカ先生。」
そう返すとイルカは悪戯っぽい顔で笑った。
その笑顔に、釣られたのかもしれない。
「ネェ、イルカ先生。」
呼んで、イルカと目が合った瞬間、全てを自分の物にしたい衝動に駆られた。
「オレ、アナタのことが好きなんですけど。」
する筈では無かった告白を口にしていた。イルカの目がきょとんとして、そしてやっと言葉の意味を理解したのか、困った様に下を向いた。
きっとイルカとはこれで終わるのだ。イルカが「そんなつもりはなかった」と言って、この関係は終わってしまう。
それからの自分を考えていなかった訳でもないのに、けどもう自分の中で我慢の限界だったに違いない。自分でも解らないほどイルカを好きになっていたのだ。
一瞬、下を向いたイルカが顔を上げた。そして今まで見たことの無い様な顔をしていた。
「知ってますよ。だって……俺も貴方の事好きですから。」
そんなのは言わなくても解ってました。
そう言ったイルカが今までに見た事がないくらい優しい顔で笑っていた。
胸が痛くなるくらい締め付けられて、カカシは卓袱台の上にあるイルカの手を取って強く握りしめる。その手が少し震えていたかもしれない。
「俺は狡い人間なんですよ。もし俺が貴方を好きだと言ってこの関係が崩れてしまったら……そう思うと言えませんでした。だったらこのままでいいやって。そう思って、それでも貴方が俺の事好きで貴方が言ってくれればいいのにってずっと思っていたんです。」
それは自分が思っていた事だった。
イルカも自分と同じ気持ちだったなんて。嬉しくて、初めて生きている事に感謝した。
「やっぱり、思い違いじゃなくて良かった。」
握るカカシの手を少し強く握り替えしてイルカはまた笑った。
がしゃん、と言う音を立てて次の瞬間にカカシはイルカを押し倒していた。
「っうわ!!」
どうにか零れないで済んだ卓袱台の上を確認してイルカは苦笑して頭を畳に付けた。上から覗き込むその顔が段々と近づいてそっと唇に触れると、暖かいイルカの熱を感じた。
「…オレの好きはこういう好きですよ?イルカ先生。解ってますか?」
解らないと言われてももう手放す事は絶対にしないけど。
その言葉にくすっと笑ったイルカがそっとカカシの項に手を回して自分の方へ引き寄せて、そして自分の唇にカカシのそれを押しつけて角度を変えて深くした。
くちゅっと言う水の音をさせてそれを離すと、イルカが不敵に笑って見せた。
「そんなの解ってます。貴方こそ、解ってますか?――――俺が貴方を好きだって事。」
その笑顔も全て。
何があっても。
オレはアナタが好きなんです。
そして、それがオレの全てになった。
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